奴隷解放
ウーブとの出会いは最悪だったかもしれない。
彼も俺への印象は最悪だっただろう。その印象を覆すために戦った。
そして今、俺は父上に怒られている。護衛たちが父上にチクったのだ。
「はあ、ディーネ。どうしてお前はそう、好戦的なのだ。
少しはお淑やかになってくれないか?」
「おほほ、鋭意努力中ですわ」
「それで?話は奴隷商だったな?」
「ええ。この国では奴隷は違法だったはずです」
「そうだな。犯罪を犯した鉱山奴隷しか認めていない」
「そんな中での奴隷ですよ?摘発しなければ!」
「だが、奴らは巧妙だ。俺も摘発に動いてはいるが、中々捕まらんのだ」
「ふふん、お父様?お忘れですか?
この王都内であれば、どこにいても目があることを」
「…ふふっ!そうであったな。長年苦汁を舐めさせられたのだ。
この際だ、貴族も合わせて一斉検挙してやるか!」
「お父様が乗り気になってくれて助かります」
「それで?協力してもらえるのだろうか?アカネ殿には」
「た、たぶん…?」
「たぶんって、お前な」
「私の身一つで許してもらえないかなあ?って考えております」
「はあ。俺は貸し一つってことにしてくれ」
俺たちはアカネの機嫌を考えながら、アカネへの褒美を考える。
そして、協力してもらえるようにお願いするのは俺だ。
うぅっ、胃が痛いよお。
自室からアカネの下に向かう。
「あら?どうしたの?」
「あの、アカネ、さん?」
「ん?な~にぃ?」
くそっ、こいつ。わかっていやがる。
全部分かった上で、お願いさせようとしていやがる!
めっちゃニヨニヨしよるやん!
「違法奴隷の摘発に協力してもらえませんか!!」
「仕方ないわねー!
王様には、というか、国には『国に』貸し一つでいいわよ。
アンタからはその身を捧げてもらえるし、いいわよ~?」
「全部分かっていやがる!何させられるんだ、俺!?」
「まあまあ、今はいいじゃない、そんなこと。」
「軽すぎませんかねえ!!」
「それで?奴隷商たちだったわね?明日にオークションがあるらしいわよ?
場所はここ。
ついでに、参加する貴族や参加した貴族のリストも用意してあるわよ?」
「お、おう。仕事が早いな」
「私とダモナーとドールにかかれば、こんなのは朝飯前よ。
秘密裡に動くんでしょ?明日の昼から動けばいいと思うわよ?
リストに漏れはないから、その人たちを会議から省けば綺麗に捕まるでしょ」
「ありがとうな!アカネ!」
「スラム街の件も乗り掛かった舟だからね、最後までやるわよ。
半端には投げ出さないわ」
俺はリストを空間収納にしまい、父上の私室に向かった。
検挙する貴族のリストを持っていることを告げて、会議の開催を促す。
父上は明日の昼に会議を行うことを決定した。
アカネの国に貸し一つという言葉には、驚いていたがな。
仕方ないと、書類を用意していた。書類を渡すと、アカネはよし!と喜んでいた。
翌日、俺は昼食後に父上にリストを渡す。
リストを確認した父上は
「漏れはないのだな?」
と確認してきて、緊急会議を開いた。
会議のメンバーにいつもいる人がいないことを疑問に思う者もいた。
だが、会議の内容を聞いて納得していた。
「では、動くぞ。
オークションに参加した貴族、オークションに参加する貴族を一斉摘発する!」
「我々はオークションにいる奴隷商どもだ!一人残らず逃すな!!」
父上と将軍の声が響き、兵士たちが動き出す。
俺はというと、夜に将軍とともにオークション会場の方に向かう。
場合により、商品と呼ばれる彼ら彼女らを地下ダンジョンに保護するためだ。
オークションは夜遅くに行われるため、俺は子供なので仮眠をとる。
睡眠をとっておかないと、夜遅くの行動に支障をきたすのだ。
仮眠している間の指示は護衛に預けている。
今頃、『彼』は復讐の牙を研いでいるだろう。
夕刻くらいになり、ナンシーに俺は起こされた。
寝起きの頭をすっきりさせるため、顔を洗った。
ナンシーにいつも通り着替えさせてもらう。こんな大事な時でも俺は女装する。
相手を油断させるための罠だと、自身に言い聞かせる。言い聞かせるんだ!
会議室に向かう。
会議室では、誰々を捕まえたなどと指示が飛び交っている。
その中心にいるのは、父上とアカネだ。
アカネの<ダンジョンマスター>の力で相手は丸裸だ。
今回に限り文明の利器も使っている。
遠距離連絡を取れる無線機を貸してもらっているのだ。
「王様、その方は地下道を通り、市街地のこの辺りに出ようとしています」
「ふむ、衛兵と協力して即座に捕らえよ!」
「陛下!ベニー伯爵の館に奴隷はいないそうです!」
「その方は私室の絵画を退けて、金庫からつながる地下室に向かってください。
奴隷が三名います。衰弱状態なので丁寧に扱ってください」
「アカネ殿の言うとおりにせよ」
「はっ!現場に連絡を返します!」
ホントにアカネの力はすごいな。
この王都に限り、悪さは一切できないだろう。
父上と視線を交わす。
父上は将軍に視線を向け、将軍が近づいてくる。
「ディーネ様、御身は私が守ります」
「将軍、そんな挨拶はいらないわ。準備は出来ている?」
「はっ!すでに兵を半包囲網の形に動かしています。
ネズミどもが続々と集まっているそうです」
「リストの人物が全員入り次第、突入するわよ」
「はっ!」
俺たちもオークション会場近くに移動する。
無線機からの連絡で、相手の状況は逐一報告される。
どうやらリスト内の人物はすべてオークション会場に入ったようだ。
顔も隠さない奴らだ。
よほど自信があるのだろうけど、アカネの手にかかれば一網打尽だ。
ここで地下ダンジョンの扉が現れ、アカネがやってくる。
「向こうは終わったわよ、あとはこっちだけ。
確認したけど、リストの悪党どもは全部中にいるわよ」
「ありがとう、アカネ。向こうの無線機は全部回収したのか?」
「抜かりないわ。戦争なんかに使われたくないからね。
可能性は見せちゃったけど、誰もが考えることだからね。
そこは仕方ないわ」
「すまないな。俺にできることなら何でも言ってくれ」
「…言質取ったからね?」
「お、おう」
「お二人とも、お戯れはそこまでに。兵を完全な包囲網に動かし終わりました」
「わかったわ、将軍」
「まずはあの門番ね、アンタの魔法で眠らせちゃえば?」
「そうだな、さっさと終わらせて帰りたいしな。
将軍、準備はいいわね?スリープクラウド」
俺の魔法でオークション会場の門番二名がその場で眠る。
そこからの兵士の動きは早かった。
門番を縄で縛り、無線機で状況を報告してくる。
「捕縛完了!入口の安全を確保しました!」
「ディーネ様。では、合図を」
「わかったわ。一人も逃すな!突入!!」
「おおっ!!」
兵士たちがオークション会場に突入していく。
次々と縄に縛られた趣味の悪い服の貴族どもが、兵士によって連れてこられる。
貴族が全員捕まったのを確認したところで、中に入っていた兵士が報告する。
「奴隷と思わしき者たちがいません!奴隷商の姿も見つかりません!」
「なんだと!?」
「将軍、落ち着きなさい。アカネ」
「うーん、地下に隠れているだけのようね?
面倒だから奴隷も含めて眠らせちゃえば?」
「そうだな。将軍、現場に向かいましょう」
「はっ!道中の安全はお任せください」
オークション会場に入り、アカネのナビ通りに進む。
とある地下室の中で小声で、アカネが隠れた地下への入り口を教えてくれる。
「ここね。この板切れの隙間の穴から魔法で眠らせればいいと思う」
「わかった。念のため、強めにスリープクラウドっと」
地下室全体に魔法が届くまで待機して、全員が寝たことをアカネが確認した。
「全員寝たようね」
「わかった。将軍、突入よ」
「はっ!突入せよ!」
兵士たちが隠し地下室に向かっていく。
しばらくすると、用心棒の男たちと太った奴隷商らしき男が、運ばれてくる。
兵士たちはそいつらを縄で縛ってから、地上に運ぶようだ。
ここまでは引きずってきたらしい。
その様子を見て、あっけないなーなんて考えていた。
だが、まだ奴隷たちがいることを思い出す。
「中の安全確保が終わりました!」
「では、将軍行くわよ」
「はっ!」
「わたしも行くわね」
地下への道を進み、広い部屋に奴隷たちがいた。
兵士の報告によれば、この部屋に用心棒とともに商人がいたとのことだ。
「特に暴力受けたようには見られないわね。どうするの?起こして事情を聞く?」
「そうだな、事情を聞いて、帰るところがあるなら護送しよう」
俺は魔法で起こして、彼女たちの事情を聞くことにする。
パッと見では、ダークエルフの女性が数名と背が低めの獣人の女の子だけだ。
俺の魔法で起きた彼女たちは、寝起きな顔をしていた。
彼女たちは周囲を確認して、俺たちに気付いて警戒をあらわにする。
「あなたたちは誰!?」
「わたしはディーネ、あなたたちを助けに来たのよ」
「そんな話、信じられるか!」
「はあ。お前たちの存在のことを話してくれた人物がいるんだ。
ウーブという名前に聞き覚えはないか?」
「私たちには関係なさそうな名前ね」
「え!兄さん?あ、兄を知っているのですか!?」
「ん、君は?」
「私は白狼族のリルです。兄をご存じなのですか?」
「ええ、事の発端を教えてくれたのは彼よ」
「よかった、無事だったんだ。兄は今どうしていますか?」
「あ、しまった。ウーブにオークション会場の場所を教えるの忘れていた」
「どういうことですか?」
「いや、捕縛と救出に向かうと時間は教えたんだが、肝心の場所を伝え忘れた」
「ええっ?!」
「今頃、街中を走り回った上で、包囲網の兵士に捕まっているかも…」
「急いで兄さんの下に行かないと!?」
「将軍、彼女を預けていいですか?
この子の兄のウーブという者も付近にいるはずよ。丁重に迎えなさい」
「はっ!しかし、奴隷の首輪を先に外しませんと…
商人が目を覚ましたときに厄介です」
「わかったわ、すぐに外すわ。これくらいなら、ディスペル」
「!?」
「じゃあ、将軍。あとはお願いね」
「はっ!お任せを!」
「いつ見ても魔法って不思議ねえ。
アンタの場合は適当に唱えて、事象を捻じ曲げているようにしか見えないわ」
「実際そうかもな。具体的なイメージして、適当に魔法名唱えているだけだし」
話を聞いていたダークエルフの女性たちが目をこぼれんばかりに見開いていた。
彼女たちの首輪もさっさと外してあげないとな。
「あー、首輪外してもいいですか?」
「そんな、この首輪は魔法鍵がなければ外せないはずです!
あなた達も奴隷商の仲間なんでしょ!」
「そんなに魔法で外すってのは不思議なことなのか?実際外れたぞ、さっき」
「おかしいです、そんな魔法はありません!ありえません!」
「いや、だから、実際に外れたじゃん…」
「そんなことを言って、私たちを…!」
「うるさいわね!外れるんだから、それでいいじゃない!
助けてもらえるんだから、黙って受け入れなさい!!」
「あ、アカネさん?」
「なんなの、こいつら!?
せっかく助けてもらえるっていうのに、ぎゃあぎゃあとうるさいし!
もうこんなの放って帰りましょ!」
「いや、そういうわけにはだな…」
ダークエルフの女性たちがヒソヒソと話し合う。
アカネは怒るし、俺も早く帰りたいし、ウーブがどうなっているかも気になる。
もうなんか面倒くさくなってきたな。首輪外してあとは自由にしてもらうか!
それじゃあ、ちゃちゃっと外そうっと。
「ディスペル!」
「!?」
「俺たちにも予定が詰まっているんだ。
もう首輪は外したから、あとは自由にしてくれ」
「あ、あの…」
「カオル、行くわよ」
「そうだな、ここホコリっぽいしな」
俺たちは彼女たちに見向きもせずに、地上に向けて歩き出す。
後ろから彼女たちが慌ててついてくる気配を感じるが、無視だ、無視!
外に出て、身体を伸ばす。ようやく、外の空気を吸える。
外に出ると少し騒がしい、あそこにウーブがいそうだな。
「だからあ、俺は怪しくねえって言っているだろ!」
「こんな夜遅くにそんな汗だくでいたら、怪しいに決まっているだろうが!」
「汗だくなのは、走り回って探したんだよ!
ここがオークション会場なんだろ?通せよ!!」
「なに!?貴様、どうしてここがオークション会場だと知っている!!
奴隷商の仲間か!?」
「はあ。ウーブ、何しているんですの?」
「おお!ディーネ様!!
オークションが始まる時間を教えてくれたのはいいのだが…
肝心の場所を教えてくれないから探し回ったぜ!」
「あー、その件はすみませんわ。場所を伝え忘れていました。
あなたたち、その人は大丈夫だから、仕事に戻ってくれて構わないわ。
あと、将軍を知らない?」
「将軍なら無線機で連絡するために、仮拠点に居ます」
「まったく、何がお任せですの。ちゃんと仕事してから仕事してくれませんと…
ウーブ、ついて来なさい。妹さんが待ってますわよ」
「なんだと!?リルに会えるのか!」
「ええ。だから、そんな大声を出さないでくださいまし。近所迷惑ですわ」
「わ、わかった」
俺たちは仮拠点に向かった。
本部と連絡を取る将軍と困惑しながら大人しく椅子に座っているリルを発見する。
将軍は俺たちに気づき、連絡を切り上げる。
将軍はアカネに話しかけるも、アカネは無線機を回収して、ダモナーに託した。
「アカネ殿、この無線機は素晴らしいですな!軍に置いてくださりませんか?」
「それはなしよ。はい、回収っと。ダモナー、しまっておいて」
「わかったんダモナー!」
「さて、リルさん、こっちに来てください。
ウーブ、妹さんで間違いありませんか?ウーブ?」
「お、おおおお!リルううううう!」
「ちょ、兄さん!汗で気持ち悪いから、抱き着かないで!!もうっ!!」
「ぐふっ!」
「そら、そんなことすれば、感動の再会とはいかないよなあ」
感動の再会とはいかず、兄妹の二人がじゃれているの見守っていると…
ダークエルフの女性たちが話しかけてくる。
「本当に、私たちを助けてくれた、だけ…?」
「ああ、帰る場所があるなら好きに帰ってくれていい。
必要なら護送もしよう」
「そうやって、私たちの里を炙りだすつもりか!?」
「あー、はいはい。そんなつもりはないから。それじゃ、勝手に帰ってくれ。
まったく、付き合いきれん」
「くっ…」
俺は再びウーブたちに向き直り、今後どうするのかを尋ねる。
「スラムの奥の俺の住処で一緒に暮らす。元々そこにいたしな」
「いずれの話にはなりますが…
街の方で暮らすことも考えておいてくださいね?」
「わかっている。あれだけのことをしてくれたんだ。恩には報いる」
「いいでしょう。では、私たちは帰ります。またお会いしましょう」
「ああ、助かった。またな」
「ありがとうございました!」
リルも挨拶を返してくれて、俺たちは馬車に乗り帰路に着いた。
奴隷商も捕まえ、悪徳な貴族たちも一掃した。国もすっきりとしただろう。
その後、ダークエルフたちの暴走に巻き込まれるとは思いもしなかったがな。




