スラム街の住人の問題
新年を迎えた。
アレクが九歳、俺が六歳、コルネリウスが一歳になった。
アレクは魔法学園の入学準備として、魔法の特訓や体力向上の特訓が多くなった。
その上で、王族としての勉強も欠かさない。
アレクは超人なのか?と思ってしまった。
そんなアレクに婚約話があがり始めたようだ。
今のとこは様子見として、お茶会を少しするだけのようだ。
しつこい誘いがあると、王族としての使命があるからと断っているらしい。
そら、そうだ。アレクは忙しいのだ。
ただ王妃の座に収まりたいと騒ぐだけの女どもに関わっている暇はない。
国を運営するための勉強をしているのだ。
優秀な文官などを父上から譲り受けるためになのだが…
文官たちに認められるために、自身の優秀さを見せないといけないのだ。
兵士たちなど将軍たちが認めるのは、魔法学園での成績次第だ。
そこで優秀さを見せつければ、自然と兵は従う。
アレクは苦笑いしながら、俺にそう語った。
現在は訓練場にて、魔法の特訓中だ。
ときに繊細な魔力操作を見せ、ときに豪快な魔力で魔法を使う。
緩急のついた魔法で俺ですら、アレクを相手にするのはしんどい。
俺はドパッと魔力を注ぐ力業を得意とするせいだ。
意識すれば繊細な魔力操作もできるのだが、俺は基本苦手としているのだ。
「ディーネの方が魔力はあるはずなのに、戦い方がなってないね」
「お兄様がここまで魔力の扱い方がうまくなるなんて思いませんでしたよ…」
「あの魔力訓練のおかげだね。それはもう必死だったからね。
今なら先に教わったというティナ嬢にも追いついたんじゃないかな?」
「そうですかね?
今度お茶会したときにでも、訓練はどうしているのか聞いてみますね」
「ははっ、お茶会でそんな会話をしようと思うのは、ディーネくらいだね」
「なんですか、お兄様、もう!」
「そういえば、今年は炊き出しの日がズレているそうだね?」
「みたいですね。
一昨年のスラム街の運営に問題が生じたせいもあるでしょうが。
そのせいで、ユースの下に仕事が山のように集中しているそうです」
「あの文官か。
ふむ。僕が手伝いに行ってもいいのだが…
スラム街に関してはディーネの方が詳しいからね」
「私もしばらくスラム街の様子を見ていないのです。
実際に見てから、ユースを手伝おうと思います」
「そうだね。今年の炊き出しには僕も付き添うよ。
そして、スラム街の問題を調査しよう」
俺たちは炊き出しの日にスラム街の問題を確認しに行くのだった。
だいぶ放置していたけど、大丈夫かな?元気にやっているといいんだけど。
「ディーネ様だ!?ディーネ様が来てくださったぞ!!」
「ああ、これで問題が解決する!!」
炊き出しの日、炊き出し配布の方に回ろうとしていたのだが。
経理陣と警備部隊に泣きつかれた。
「ど、どうしたの、みんな!?と、とにかく、落ち着いて!!」
「我々だけではもう手が回りません!どうか人手を増やしてください!」
「え!?今どういう状況になっているの?あの頃はまだ平気だったじゃない!」
「あの頃と今では状況がまったくと言っていいほど変わってしまいました。
魔力をこめる子供たちも日々ぐったりとしています!」
「ええ!?」
「ディーネ、炊き出しの方はシスターたちに任せてしまおう。
僕たちは問題の確認に行こう」
「は、はい、お兄様!」
「アレク様もいらっしゃるぞ!これできっとなんとかなるぞ!!」
「うぐっ、民の期待が重い。はあ。やるしかないか…」
俺たちは経理陣と警備部隊に連れられて、あの建物に向かった。
そこには子供たちが死屍累々と言える状態で、屍のごとく倒れていた。
慌てて俺は回復魔法を使う。
「ちょ、みんな大丈夫!?エリアヒール!!」
「うぅっ、疲れが癒される…」
「つ、次の魔石に魔力を込めなきゃ…」
「ちょっ!?みんな、休んでいていいから、ゆっくり水飲んで!!
クリス、ペティ!みんなに水を飲ませてあげて!!」
『はっ!』
「大丈夫か?飲めるか?」
「大丈夫?ゆっくりでいいからね?」
「はあ。どうしてこんなことに…」
「実は…」
話を聞く限り、原因は俺にあったようだ。
体感訓練機が売れ始め、空の魔石が大量に出て、彼らの下に回ってきたのだ。
そこまではいい。仕事がある分にはいいのだ。だが…
この世界では休みをとるということは基本的にはない。
それを忘れて、俺は彼らに休みの日を設定していない。
休めるようにしていなかったのだ。
そのせいで彼らは、寝る間も惜しんで魔石に魔力を注いでいた。
経理陣はその数を数え、警備部隊は常に守らなければならなかったのだ。
日本のブラック企業もびっくりのブラックさだ。
俺はすぐに謝った。
とにかく今は休んでくれと伝え、この問題の解決方法を考える。
まず問題なのは人手だ。
商人ギルドにでも手伝える人員を募集しよう。
そして、休みの日を設定。週に二日は休めるようにしよう。
子供たちにはスラム街の掃除もお願いしていたはずだ。
毎日ボロボロな状態で掃除していたのかもしれない。
今頃、俺の印象はスラム街では最悪になっているだろう。
ヤバい、ホントにヤバい。
これでは反感を買ってしまい、スラム街の縮小、撤去なんて夢のまた夢だ。
ふう、落ち着け。できることから始めるんだ。
みんなが疲れて寝ている間に、書置きを残す。
仕事の休みについては、明日から一週間の休みを与えることにした。
その間にこちらで人員を増やすこと。
一週間の休みでも、体調がすぐれない場合は必ず誰かに報告して休むこと。
「お兄様、これでどうでしょうか?」
「うん、いいと思うよ」
「お兄様、私、失敗してしまいました…」
「そうだね、失敗した」
「お兄様」
「でも、それを放置しなかった。気づけたんだ。今からやり直すんだ。
さあ、まずは商人ギルドに行こう。人手を募集しに行こう。
大丈夫、僕がついてるから!」
「お兄様…」
俺は少々泣きそうになった。
でも、泣きたいのは彼らなのだと堪え、両手で頬を叩き、前を向く。
商人ギルドに行って、人を雇うんだ。
その前にアカネにも相談しよう。『黄金商会』のお金を使うんだ。
アカネなら慈善事業とちゃんと説明すれば、お金を出してくれるだろう。
そして、俺たちはまずアカネの下に向かう。
今回の騒動の説明をすると、アカネは呆れていた。
「はあ、アンタはまったくもう。
どうして、ギリギリまで放置していたの。ちゃんとやることやりなさいよ」
「面目ない…」
「まったく。
これに懲りたら遊び惚けていないで、ちゃんと王族として仕事しなさい!」
「はい…」
「それでお金だったわね、いいわよ。いくらでも『貸して』あげる」
「ありがとう!」
「『貸す』だけだからね!そこは間違えないで!」
「ああ、必ず返す!」
「それと今はお世話する人員も欲しいでしょ?
ダモナーとドールたちを回してあげるわ」
「あ、ありがとう!」
「ディーネ、よかったね。これで資金面と介護面は解決だ」
「はい、お兄様!」
「問題は商業ギルドだな。
『黄金商会』の名を使ったとしても、たぶん…
スラム街の住人のための手伝いを名乗り出る者は少ないと思う」
「そう、ですね…」
「だから、待遇で釣る。
さっきディーネが言っていた休みの制度はこちらでは異質だ。
あれだけの待遇なら、少しは期待できるのではないかと思う。
ディーネ。まだ他にも思いつく待遇があるなら、どんどん出すんだ。
それ次第で雇える可能性は出てくる。もちろん、面接は必要だろうけどね」
「わかりました。
待遇面は思いつく限り出します!面接もしっかりとしようと思います!」
「カオル。仕事の待遇の話ならアンタより私の方が詳しいわ。教えてあげる。
面接も手伝ってあげるわ」
「ありがとう、アカネ!」
「いいのよ、別に。
ちょっと笑えないくらいブラックだったからね、改善してあげるわ」
「うぅっ」
「すまないな、アカネ殿」
「こいつとの付き合いも長いもの、このくらいなんてことないわ」
待遇面を話し合い、商業ギルドに募集をかけた。
待遇を見て、たくさんの人が集まり、面接もすんなりと通る人ばかりだった。
警備の人手も増やすために、商業ギルドと同様に待遇面を考えた。
警備のために、冒険者ギルドで募集をかけた。
あの『黄金商会』が募集しているということで、多少警戒されたが。
仕事内容を見て安心したのか、人が集まってくれた。
ただ、やはりというか面接を行う際に挙動不審な人が何人かいた。
問題は素行が悪い人ばかりで面接でほとんど落ちてしまうのだ。
スラム街の住人を下に見ているのだ。
そんな中、彼らが来た。
Cランクパーティ黄金の爪、アカネとアンナによる被害者たちだ。
「今回の仕事内容は、あんなことしないんだろ?
俺たちはあの報酬のおかげで、金には困っていない。
できるだけ楽な仕事がしたかったんだ。」
「渡りに船ってくらい、ちょうどいい仕事内容だわ」
「うむ、俺が役に立てる仕事で助かる」
「私も頭脳班として仕事できるから、給料上乗せでお願い」
「おい、デン!お前だけずるいぞ!」
「はい、あなたたちなら合格ですわ」
「うん、僕からも太鼓判を押そう」
「へへっ、王子様と王女様からのお墨付きをもらっちまったぜ」
「調子に乗らないの、リーダー」
「仕事はしっかりとするさ」
「うん、給料分の仕事はする」
こうして、待遇面を改善して、経理陣と警備部隊、魔石班が新たに働き出す。
スラム街の掃除も順調に進んでいく。
孤児たちが掃除をしている子供たちから仕事内容を聞きだす。
そして、魔石班に新しい人員が加わっていく。
だが、納得しない人もやはりいた。
その日は、そういった人たちと顔を合わせることになった。




