魔法で遊ぶ
体感訓練機の販売、上映会も無事に終わった。
本当に久々に自分のことが出来るな、と感動した朝を迎える。
何をしようかなんて考えるまでもない。
そう、毎日毎日、地味で地道な魔力訓練を続けたんだ。
もう解禁してもいいよね?
以前から使えるってのは理解していたんだけど…
ずっとずーっと我慢していたのだ。
いざ、魔法の実践だよ!
今日は城の訓練場に来ている。
アレクも一緒だよ!
以前にティナ嬢に言われていたことを果たすためでもある。
そのため、アレクも魔法訓練に誘ったのだ。
「珍しいね、ディーネが僕を誘うなんて」
「ええ、たまにはいいかなと。誘った理由もちゃんとありますが」
「へえ、理由もあるんだ。
それで何をするつもりなの?訓練場になんて来てさ?」
「お兄様?お兄様が撃てる最大火力の魔法を見せてくださいませ?」
「ん?そんなのを見て、どうするんだい?」
「いいからいいから。あの的に向かって撃ってくださいまし」
「わかったよ。もう」
アレクが集中しだす。何かをブツブツと唱えているように聞こえる。
「すべてを凍らせ、時を止めろ!凍てつけ!アイスランス!!」
アレクの手のひらから氷の槍が的に向かって飛び出す。結構大きいな?
当たった的は氷漬けになったようだ。詠唱の文章どおりではある。
だが、あんな恥ずかしい詠唱、俺はしたくない。
肩で息をしながらアレクがドヤ顔でこちらを向く。
「どうだい、ディーネ?これが僕に出せる最高火力の魔法だよ」
「うーん、イマイチ!」
「え!?どういうことだい!ディーネはこれよりもすごいのが使えるの!?」
アレクが驚愕の表情で俺を見る。
色々言いたいので、この際言っちゃう。
俺の凄さにひれ伏せ!今までの報復じゃ!!
「まずは、詠唱です。そんなものは必要ではありません!
たしかに具体的なイメージを起こすのには便利です。
ですが、恥ずかしいです。
あと、敵に向かってそんな長々と詠唱していては、簡単に接近を許します。
その間に、簡単に討ち取られてしまいます!」
「ちゃんと理にかなっている説明だ。その通りだね、接近を許してしまう。
でも、魔法を使う誰もがこんなものだよ?」
「詠唱するのであれば、詠唱する振りをして、まったく違う魔法を使う。
タイミングをずらして、魔法を使うなどするといいと思います」
「それは、すごく難しいんじゃないかな?」
「今からならまだ修正は効きます。優秀なお兄様ならきっとできますよ」
「ふむ、それで?
まだ言いたいことがあるんじゃないかい?今度は威力についてかな?」
「はい、火力は私なら力を抑えても、これくらいはできます」
そして、俺はアレクの度肝を抜くつもりだった。
だが、あの程度だったので手を抜いて魔法を使うことにした。
先ほどの説明を実践するために、詠唱も魔法名も唱えない。
イメージだけで魔法を的に向かって撃つ。
「これくらいかな?」
「なっ!?」
軽くのつもりだった。
だが、思ったよりも大きな火球が的にぶつかり、火をばらまく。
いつだったかと同じように、シャフリが水魔法で消化してくれる。
そして、クリスに怒られる。
「お嬢様…」
「お嬢様、火の魔法を使うときは状況を考えてくださいませ?
王城で火事を起こすつもりですか?」
「ご、ごめんなさい…」
「ディーネ、いつの間にこんなすごい魔法を…」
アレクが茫然としているが、意識を戻してもらうため、手をパンパンと叩く。
「ディーネ?」
「お兄様、私の力と先ほどの理論は理解できましたか?」
「うん、嫌というほどに、わかったよ」
「魔法名くらいは唱えたほうが、魔法は使いやすいです。
ですが、これも相手を騙すために使えます」
「そうだね。さっき言っていたことをまとめるとそうなるよね」
「それでは、今日からお兄様には魔力訓練をしてもらいます」
「魔力訓練?それをすれば、ディーネのような魔法を使えるの?」
「火力だけならそうなりますね。実際の魔法は想像力を高めてください。
それだけでいいのです。魔法は自由なのですから」
「ふむ、魔法は想像力。それで?どんな訓練なんだい?」
ティナ嬢にも説明した魔力訓練の説明をする。
すでにティナ嬢で効果が出ていることも説明する。
アレクは頬を膨らませ、抗議する。
「ひどいじゃないか、ディーネ。僕よりも先にティナ嬢に教えるなんて…」
「お茶会での話題でしたし。
お兄様は私が魔力訓練していることも知らなかったでしょ?
仕方のないことです」
「うーん、それもそうか。
よし、ディーネに追いつくのは難しそうだ。
だが、せめてティナ嬢には追いつくぞ!」
「その意気です、お兄様」
そして、アレクが魔力訓練に集中している間に、俺は魔法で遊ぶ。
火はまたクリスに怒られそうだから、それ以外だな。
水でいっか。
ちょっと理科の実験みたいのをやってみよう。
「冷たい水~、冷たい水~、ものすごい冷たい水~」
「ぷっ。何を呟いてるんだい?ディーネ」
「ちょっとした実験ですわ、お兄様」
木桶に氷点下よりも冷たい水をイメージして、水魔法を使う。
木桶に貯まった水に衝撃を与える。
「えいっ!」
「ディーネ?何をしてるんだい?え?」
「ふう、実験成功!」
「桶に入っていた水が凍ってる!?どういうこと!?」
ぼんやりとした科学的な説明をアレクにする俺。
そして、今度は敵役としてヤンに協力してもらう。
アレクにこの魔法の凄さを伝えるために。
「行くよー、ヤン」
「お嬢、ホントにホントにお手柔らかにお願いするっすよ?」
「わかってるよ。魔法名はなんにしよっかな?うーん、アイスミスト!」
「うぉ、さっむ!お嬢、寒いっす!なんすか、この霧!」
「おまけに送風魔法のブリーズ!」
「お嬢!寒いを通り越してきたっすよ!!」
「あ、ごめんごめん。魔法を止めるね」
俺はヤンのために、温めのお湯を用意してあげた。
アレクは不思議そうな顔していたので、先ほどのことと合わせて説明をする。
賢いアレクはすぐに理解してくれた。
「なるほど。ちょっとの魔法で最大の効果か。
とんでもない魔法を思いつくね、ディーネ?向こうの知識かい?」
「うん、そうだよ。こういう科学が向こうでは発達していたの」
「お嬢、寒いっす。もっと温かいお湯をお願いするっす…」
「もういっそ、お風呂入ったら?
クリスやシャフリがいるから、今日はもういいよ?」
「うっ。温まったら、戻ってくるっす」
「湯番がいないだろう?私がお湯を用意してやる。
お嬢様、一時離れることをお許しください。ペティ、後を頼む」
「クリス、ありがど~」
「情けない声を出すな。ほら、行くぞ」
クリスとヤンの仲ってどうなっているんだろ?
直接聞くわけにはいかないしなー。
「まったく。ディーネ?
僕がいるから護衛の数は十分だけどね?
自分の護衛を危険に晒して、自分から護衛を減らすのはよくないよ?」
「ご、ごめんなさい…」
「じゃあ、また訓練に戻るね」
アレクが魔力訓練をするために目をつぶる。
集中しているようだ。邪魔しないような遊びをしよう。
うーん、何が出来るかなあ?
土魔法でお城でも作ってみようかな?
黙々とせっせと、土魔法を使ってお城を作る。
うーん、なんか面倒くさくなってきたな?
細かいデザインができないから、なんか砦っぽくなった。
シャフリとペティが茫然とこちらを見ている。
ん?どうしたんだろ?
集中を解いたらしいアレクが、盛大な溜息を吐いてから怒鳴る。
「ディーネ!降りてきなさい!」
「は、はい!」
「お前は、ちょっと目を離すととんでもないことをするな!
なんでこんなものを作った!!」
「お兄様が集中しているから、静かにしていようって思ったのです。
それで、土魔法でお城を作ろうと思って…」
「これは城ではない!これでは要塞だ!!
こんなものを訓練場に置くんじゃない!早く崩せ!」
「はい!崩します!…ちぇ、せっかく作ったのにな」
「ディーネ?」
「す、すぐに崩します!!」
その日はあれこれと実験するたびに、アレクに怒られるハメになった。
アレクって、もしかして短気なのかな?カルシウムとるといいよ?
あ、痛い痛い!頬を引っ張らないで!!
なんで考えていることまでわかるんだろうか。エスパーか?




