声優面接・録音、ティナ嬢とのお茶会で審査
俺はアカネに頼み込んで、ダンジョンに防音スタジオを作ってもらった。
地上の入り口は冒険者たちを面接したあの民家だ。
冒険者たちの面接は終わり、旅館で罰を受けるまで寛いでいるようだ。
罰を受けた冒険者たちの旅館からは、禍々しい空気が漂っている。
あそこには近づいてはいけない、罰のせいで呪詛で満ち満ちているのだ。
機械人形のドールたちが、冒険者たちの企画の可否を出しているようだ。
ダモナーたちにも協力してもらって、声優の卵たちの簡単な面接を行う。
声を聞いて即採用もあれば、演技力に魅力を感じて採用もした。
明らかに声が聞き取りづらい、掠れている人にはお帰り頂いた。
もちろん、演技力皆無な棒読みな人にも帰ってもらった。
その後に、合格者はスタジオで録音という流れを今日一日続ける予定だ。
採用されれば、録音機の売り上げの一部を支払うという形にした。
支払いの額は普通の俳優や女優の給料よりもいい。
なので、誰もが真剣でピリついた現場になった。
俺やアカネ、アンナは声を聴き、指示を出し、リテイクさせるだけだ。
録音した声を聞いて、これならいけるという判断を下すのが難しい。
わかりやすくダメなら、ハッキリと指示を出す。
だが、曖昧なときは、こうできる?と曖昧な指示になってしまうのだ。
それだけが申し訳なかった。
一部の俳優や女優たちは録音機からの声を聴かせてくれといい、聴かせると「自分の声はこんなものではない、録音機が悪いんじゃないか?」といちゃもんを付けてきた。
俺たちには同じにしか聞こえないが、本人たちには別人の声に聞こえるようだ。
そういう奴らには即帰ってもらい、次の人の録音に集中するようにした。
お前らのほかに何人いると思ってんだと俺はげんなりしていたのだ。
今日一日で終わればいいなと、マジで頑張った。
夕刻になり、ギリギリ録音は終わり、背筋を伸ばす。
アカネとアンナは途中から飽きたのか…
この間お願いしていたガンシューティングを遊んでいた。
正直羨ましかった。俺も遊びたい。
終わったことが分かったのか。
アカネたちがスタジオに入り、冷たい飲み物を持ってきてくれる。
「ふう、生き返る~」
「お疲れ様。ごめんね、最後まで付き合いきれなくて」
「仕方がないのです、お姉さま。
あの人数の声を聴いていたら、頭がおかしくなるのです」
「俺は頑張った。
だが、最後に真打ちが残っているのだ。俺の最強の手札だ」
「んん?まだ残っていたの?最後ぐらい付き合うわよ」
「疲れで変なテンションになっているだけだと思うのです、お姉さま」
「いでよ!最終兵器!その名も、マックスくんだ!」
「あ、やっと出番ですか?
ずっと聴いているだけだったので、かなり待ち疲れましたよ…」
「あ、すごいわね。これは期待できそうな声」
「ホントなのです。
さっきまでの人たちとは一線を画す声質なのです」
「な、なんなんです?オジョー、助けて…」
「よし、喉の調子はいいな?録音スタジオに入ってくれ。
このセリフ集を一つ一つ録音するからな?
休憩したい時やのどが渇いた時は言ってくれ。
お前は最終兵器だからな。しっかりとした声が欲しいんだ」
「は、はあ。
よくわからないですけど、とりあえず、この中に入ればいいんですね。
んで、上から順番にこなしていくと」
「ああ。じゃあ、頼んだぞ!」
録音スタジオに入ったマックスに指示を出しながら、録音していく。
アカネもアンナもマックスの声を聴いてからは真剣だ。
二人も指示を出し、俺も納得してマックスに指示を伝える。
細かい指示とリテイクにも、しっかりと対応するマックス。
昔の君に見せてあげたいな。
スラム街の悪ガキがこんなに丸くなるだなんて信じられないだろうな。
録音が終わるころには夕食の時間だった。
なので、マックスも含めて夕食を食べる。
マックスに日本の調味料は合わないかもしれないと思った。
だから、今日はハンバーガーとフライドポテトだ。
ガツガツと食べるマックス、よほど美味しいようだ。
「オジョー。結局、今日録音した奴は売れるのか?
結構というか、かなり口の悪い言葉を使ったと思うんだが…」
「ああ、あれはそういう狙いだからな。最初は売れないだろう。
だが、その真価を理解したときには爆発的な人気が出るだろう」
「うん、あれはずるいと思う。あんなの簡単に堕ちちゃうよ」
「なんでこんなセリフを、と思っていたのです。
けど、趣旨を理解したら、なるほどと思ったのです。絶対に売れるのです」
「そ、そこまでなのか?な、なんか恥ずかしいな…」
「もし、将来的に、高音質な録音機が出来た場合。
もう一度録音することになるかもしれないから、その時はよろしくな」
「マジっすか、オジョー…」
「大マジだ。お前が稼ぎ頭になる予定なんだからな」
アカネの扉でアンナとマックスを送り届け、俺たちも解散する。
翌日、お茶会の予定が入っていると以前から聞いていた。
なので、昨日は録音を頑張ったのだ。
相手は以前に魔力訓練方法を教えた公爵令嬢であるティナ嬢だ。
水色の髪とツリ目がちな紅色の瞳が印象的だ。
本日は魔力訓練の状況を聞くのだ。
そして、体感訓練機の量産機が出ることを噂として広めてもらう。
そのために、昨日録音したものをサンプルとして聞いてもらうのだ。
「ごきげんよう、ディーネ様。天気に恵まれてよかったですわ」
「ごきげんよう、ティナ様。
そうですわね、ここ最近は曇っていましたからね」
挨拶を交わして、今日のお茶菓子を紹介する。
今日は以前アカネが母上に出したゼリーの別の味、マンゴーゼリーだ。
これも母上には大好評であった。酸味がやはりいいのだろうか?
「今日も変わったお菓子ですわね、プルプルとしてて綺麗な色合いです」
「マンゴー味のゼリーです。あまり数を出せないのですが、特別ですよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、内緒ごとのように口元に人差し指を持ってくる。
「ふふっ、内緒ですわね。では、さっそくいただきます」
「私もいただきます」
「なんですか、これ!すごい!
果物が凝縮されたような味がして、それでいてプルプルと滑らかで!
とても口当たりがいいですわ!」
「とても美味しいですわねえ」
ティナ嬢が大げさなほどのリアクションをとる。
そのため、俺は実にあっさりとしたリアクションだ。
なんだか、アカネが睨んでいるような幻視を見る。
夢中でティナ嬢が食べるため、俺もゼリーを味わう。
「とても美味しかったですわ。
たしかに、これは内緒にしないといけませんわね、ふふっ」
「ええ、内緒にしたくなる味ですわ」
そうして、二人でゼリーの感想を言い合う。
落ち着いたころにティナ嬢が魔力訓練の経過を教えてくれる。
「ディーネ様はひどいです」
「えっ?」
「まさかあそこまで火力が上がるだなんて思いませんでしたわ」
「そこまでですか?」
「そこまで、です!
最近は如何に火力を絞るかの方に力が入ってるんですのよ?」
「うーん、そんなに違いが出てしまうなら…
お兄様にも教えたほうがいいかしら?」
「え?アレク様には教えていないんですの?」
「はい、実験的なこともあり、ティナ様にはお教えしました。
ですが、そこまで違いが出るなら、教えておかないといけませんわね。
ホントは私がビックリさせるために、黙っていたのですが…」
「これは教えておいた方がいいと思いますわよ?
魔法学園では、魔法の火力を自慢する貴族が多いですから」
「そうなんですね。今度お兄様にも教えておきます」
魔法学園なんてあるんだ。
まだまだ先だと思って、大した準備していないけど大丈夫かな?
まあ、俺より先にアレクやティナ嬢が入学するから、その際に話を聞こう。
「そ、れ、と、最近ご婦人方が噂していらっしゃいますよ?
体感訓練機の量産が始まるのではないかと」
「さすが耳が早いですわね。
量産機は鋭意製作中、少しずつですが注文に対応する予定です。
それと、これはサンプルですが、録音機です。
以前から調査していた俳優や女優の声を録音したものの一部です」
「まあ!聞いてもよろしいんですの?」
「ええ、もう噂が届いているようなら、隠す必要はありませんから」
録音サンプルに夢中になるティナ嬢。
ある程度聞いて満足したのか、録音機を返してくれる。
「ふう、これだけあると迷いますね…」
「そうですわね。一応、私のオススメはこの方とこの方ですわね」
「どうして名前は非公開なのですか?
貴族の方はこぞって支援しようとする思うのですが…」
「顔を見て、がっかりしてしまったりすることを防ぐためですわ。
あくまで、声を買ってもらいたいのです。
それと、自分たちで声優の集まりを作ってほしいという気持ちもあります」
「声優の、集まりですか?」
「ええ。声だけで想像した人物画を描いて楽しむ。
その声から想像して物語を書いたりなどですわね。
そういった声優を囲むコミュニティを作ってほしいのです。
人それぞれの想像力を働かせて、その声優を描くのです。
場合によっては、解釈違いで戦争になるかもしれませんわね」
「せ、戦争ですか。それは穏やかではありませんわね」
「ふふっ。でも、ご婦人方ですもの。
そんな過激なものにはならないと思いますわ」
「そう、願いたいものです…」
そして、ティナ嬢を堕とすための秘密兵器を取り出す。
「ティナ様、これはここだけのサンプルですが、聞いてみますか?」
「まだあったのですか?
それほど勿体ぶるということは、素晴らしい声の方なんでしょうね」
「ええ、サンプルの最初だけでは、絶対に買わないでしょう。
ですが、サンプルの三つ目で買いたくなると思いますわよ?」
「なんだか不安ですわね…?そんなにいいものなのですか?」
「ええ。その方の声だけ録音機にとあるギミックを施しておりますの。
ある意味では専用に録音してもらったものですね」
「へえ、どんなものなのでしょうか?拝聴させていただきますね」
ティナ嬢がサンプルボイスを聴く。たぶん不愉快な顔をして文句を言うだろうな。
「な、なんですか?この方は!?
いくらなんでも言葉遣いが乱暴すぎます!」
「ふふっ。まあまあ、抑えて抑えて。
声質だけを聴いてから判断してみてください」
「たしかに声質はよかったように感じはしました。
ですが、あの乱暴な口調の続きを聴くのは嫌なのですが…」
「ふふっ。あと二つです。我慢して聴いてくださいませ」
「んん~!やっぱり乱暴ですわ、この方!
先ほどよりはおっしゃっている内容は優しくなりました。
ですが、それでもまだ乱暴ですわ!」
「次がサンプルとしては最後ですわ。ぜひ聴いてみてくださいませ」
最後のサンプルボイスを聴いても、同じことが言えるかな?
女性なら堕ちると思うんだがな?
俺は少しニヤニヤとした顔をしながら、スイッチを押すティナ嬢を見つめる。
予想通り、顔が真っ赤になっている。
ギミックの説明をちゃんとしてあげないとな。何故かと聞いてくるだろうし。
「あ、あ、そんな。そんなこと…」
「ふふっ、如何でした?最後のサンプルを聴いて?」
キッと睨みつけてくるティナ嬢。ふふっ、いい顔だ。
「ずるいですわ。
この声でこんなセリフを吐かれたら、堕ちない女性はいないでしょう。
どうして最初はあんなに乱暴でしたの?そこがすごく気になりますわ!」
「ふふっ。この方だけ録音機にギミックがあります。
それを受けて訓練機を使うことで、とある効果を生み出しているのです」
「どういう効果ですの?」
「それは『絆』ですわ」
そう、俺はマックス君の録音機に『だけ』とあるギミックを施せないか?
とゾロのおっちゃんに相談したのだ。
所謂、『好感度システム』だ。
女性用のはただ走るだけのゲーム性だ。
飽きないような煽りをほかの男性声優陣にも録音させてもらっている。
その中で、マックス君だけ異質な声質と生まれなのだ。
それを利用して『好感度システム』というギミックを組み込んでもらった。
最初は乱暴な言葉をかけられる。
だが、走った累計距離に応じて『好感度』が上がっていくのだ。
そして、その声は徐々に甘く、優しくなっていくのだ。
まるで、ずっとそばで努力を見守っていてくれたかのように錯覚してしまう。
そんな言葉を用意しているのだ。
言葉は違うが、そのように説明するとティナ嬢は納得してくれた。
「なるほどですわ。そのような仕掛けがあれば、皆さん頑張るでしょうね」
「ところで、気に入っていただけたようですが…
こちらが売りに出されたらティナ様はご購入いただけるのでしょうか?」
俺が意地悪するかのようにニヤニヤと笑いながら声をかける。
顔を真っ赤にして視線を逸らすティナ嬢。
「そ、その時の気分ですわ!」
「最初は売れないと思いますからね、この方のサンプルを聴いただけでは。
誰もがその真価に気づけないのです。
大きな宝石の原石が目の前にあるというのに『誰もが』気づかないのです。
ティナ様はそんな中、この方に寄り添える初めての方になれるのです。
いいことを思いつきました。録音機に購入番号を刻みましょう。
自分こそがこの方に最初に寄り添ったのだと言える証を刻むのです」
「ぐぬぬっ、ずるいですわよ、ディーネ様」
「いえいえ、商売する以上は売れてほしいですからね。
それに私は先ほど、この方とこの方もオススメだと言いましたよ?
ああ、さらにいいことを思いつきましたわ。
少々、これからする作業としては、間に合うかはわかりませんが…
その方の背景を描きましょう」
「背景、ですか?」
「そうです。たとえば先ほどの方で言えば…
スラムの孤児を慧眼な貴族であるあなたが拾ったという背景です」
「すごくピッタリですわ!
あの乱暴な口調はまだスラムの孤児だったからと言えば、納得できます」
「ですよね?それが一緒に走ることで仲を深め、最後には従順な…」
「そ、それ以上はいけませんわ!想像しただけで、顔が火照ってきますわ…」
「ふふっ。
まだ正式な販売は先になると思います。
ですが、よろしくお願いしますね。ティナ様?」
「は、はい…」
あらら、刺激が強かったかな?顔が真っ赤っかだ。
こうして、今日のお茶会は有意義なものになった。
自分から作業を作ってしまったが、まあ売り出すまでまだ時間がある。
なんとかなるだろ。
どうせ使える録音機も採用、非採用と取捨選択しないといけないのだ。
この程度の作業は一緒にしてしまえばいい。
ゾロのおっちゃんもすまんな。作業がちょっと増えてしまったよ。
俺のスマイルで許してくれないかなあ?




