久々の日常
俺にしてはいつもより遅く起きた朝。今日もナンシーの笑顔が眩しいぜ!
その手に持つ女装セットがなければ、もっと眩しかったかもな!!
「おはよう」と挨拶をして、顔を洗う。
顔を拭ってもらい、「今日のご気分はいかがですか?」と聞かれた。
なので、今日は一日ゆっくりしたいと伝える。
「では、今日は奥様の下に向かいましょう」と言われた。
「そうだな」と返したあとは髪を整えられ、服装を変えられる。
今日はいつもより大人しいゆったりとした服装だなと疑問に思う。
まあ、楽だからこれはこれでいいなと喜んでいた。
母上の下に向かって、なぜこのような恰好なのかと理解した。
それからは目から光が消えたがな…
今朝は久々に家族と朝食をとった。
いつもはアカネの下で朝食をとるのだが…
アレクに「母上が寂しがっている」と苦言を言われてしまった。
そのため、今は週の半分は家族で朝食をとるようにしたのだ。
アカネも「それじゃあ、仕方ないわね」と苦笑していた。
こちらの世界を蔑ろにするわけじゃない。
だが、朝食はアカネの下で和食を食べたいと思うのは贅沢だろうか。
それを聞いたアカネは嬉しそうな顔をして、和食なら任せて!とはにかんでいた。
朝食の後はここ最近はしていなかったお勉強の時間だ。
これもアレクに
「儀式を受けたんだから、少しは勉強をしろ」
と文句を言われてしまったのだ。
国はアレクが継ぐんだから、俺は自由にしていいだろ?と言ってみた。
そう、反論してみたのだが…
俺の存在はアレクの予備だ、とハッキリと言われた。
王子として生まれた以上付きまとう切実なことを言われてしまったのだ。
なんだかちょっと切なかった。
アレクも自分が生きていられるうちは国を継ぐつもりだと言ってくれた。
だが仮にもし、何かがあった場合…
あとは頼む、という真剣な眼差しに負けたのだ。
だから、アレクが頑張る程度のことは俺も頑張ろうと決めたのだ。
とは言っても、俺の勉強量はそこまで多くはない。
多くはないが地理と特産品、さらに歴史はかなり苦手としていた。
アレクも
「僕も覚えるのに苦労した」
と言い、コツを聞いたが
「その土地の領主の顔と合わせて、特産品を覚えるんだ」
と俺には無理ゲーなことを言うので、デコピンをお見舞いした。
逆に俺には
「ディーネはなんでそんなに計算が早いんだ?」
と聞かれ、ひたすら計算の反復練習と九九の存在を教えることになった。
あと、割合の概念なども一気に教えた。
アレクの吸収率がいいから、面白がって連立方程式くらいまで教えた。
だが、しっかりと理解して、兄の威厳を見せつけられたよね…
地理と特産品が頭から零れ落ちないように、ブツブツと唱えて迎えた昼食。
そんな俺を見て、母上が何か思いついたような顔していた。
昼食後は母上の私室に向かうことになった。
母上の私室に入り、俺は地理と特産品の復習として暗唱することになった。
母上と王宮メイドたちがたくさんの服を用意していたのだ。
俺は意識を勉強にだけ向かわせて、完全な着せ替え人形と化した。
時間の経過がわからなくなった頃には、母上と王宮メイドたちが満足していた。
最終的にはゴスロリのような服に落ち着いたようだった。
俺は地理と特産品を覚えられ、母上と王宮メイドたちは着せ替えを楽しめる。
どちらも満足できる素晴らしい時間だと喜んでいた。
意識が勉強から戻ってきた俺は母上のお腹に耳を添えていた。
母上に赤ちゃんの様子を尋ねる。
まだまだお腹は大きくなるわねえと言われ、人体の神秘を感じていた。
赤ちゃんがお腹を蹴った反応に俺は驚いていた。
「早くディーネたちに会いたいみたい」
と朗らかに笑っていた母上は母性の塊だった。
母上とお茶をしていたら、お茶菓子を持ってアカネが部屋を訪ねてきた。
母上はお菓子と聞いて少し青い顔をしていた。
だが、アカネが持ってきたのはぶどうゼリーだった。
「こういうのなら食べられるかな?」
と気を遣ってくれたようだ。
母上は一口食べて
「そう、こういうのが食べたかったの!」
と喜び、完食していた。
母上とアカネは、こちらの世界とあちらの世界の違いを話していた。
俺も少し話に加わって、母上の知識欲を満足させていた。
王宮メイドたちも真剣に話を聞き、参考になる点はメモを取っていたようだ。
王宮メイドたちの使う紙を見て、アカネは少し考えたあと
「私がいるうちはね」
と笑って、メモ帳とボールペンを大量に持ってきた。
「いいのですか!?」
とメイドたちは喜んだ。
母上はさすがにこれは悪いと思って、金銭の話をするがこれはすべてアンナの魔力だからと固辞して、お金は孤児院などにきちんと回るようにしてくれと願い、母上はその願いを聞き入れた。
部屋の隅に置かれた体感訓練機にアカネは母上に許可を取り、遊び始めた。
母上の部屋にあるのは初号機で、アカネは満足しないと母上と話していた。
本物はどんなものなのか?と聞かれた。
説明に四苦八苦したがなんとか伝えきれたようだ。
「文明の差はどうしようもないわね」
と言い、こちらの世界の魔法で似たことができないか?とも話した。
しばらくして、アカネが体感訓練機から出てきた。
すごく不満そうだ。
不満の内容を言われ、今直してる最中だと伝え、量産機を待てと伝えた。
母上は量産機を第三魔術師支部という魔道具専門の部署に渡しては?
と提案してきた。
そこならゾロのおっちゃんにはない発想をするかもしれないと思った。
俺もそれには賛成だったので、今度おっちゃんに提案しよう。
アカネさんを満足させるものが出来るかもしれないと母上は笑っていた。
そして、陽が落ちて、アカネと二人で母上の私室を出た。
アカネは向こうの世界のゲームをこちらで再現できないか?
と、また商売根性を出していた。
魔力で解決するのもいいが、こちらの技術だけでどうにかしたいようだ。
ゲームセンターが懐かしいなと二人で話していた。
ふと、ゲームセンターにあったガンシューティングがやりたくなった。
ダンジョンに置いてくれないか?と頼むとアカネは乗り気になってくれた。
今度ダンジョンに行くのが楽しみだ。
今日の夕食時に、珍しく父上が席についていて、母上から花が飛んでいた。
やはり夫婦仲は良好のようだ。
父上も母上に対しては甘い空気を醸し出し、俺とアレクは空気となった。
それでも夕食後にはちゃんと父親の顔になってくれる。
団らん室で母上と一緒に俺とアレクが今日一日何をしていたのか。
話を聞いてくれて、忙しくても家族との交流は忘れないいい父親だなと思った。
そして、話し疲れた俺たち子供組は部屋から出ていき就寝だ。
この後の父上と母上は夫婦の時間を過ごす。
風呂に入って、ナンシーはうつらうつらとしている俺を励ましながら髪を乾かし、ベッドに連れていく。
子供の身体なので、どうしても夜は眠くなる。
冒険者たちのために夜更かしできたと言っても、途中で寝ていたからな。
俺にはまだ夜更かしは出来ないようだ。
ベッドに入った俺を布団の上からポンポンと叩き、
「今日もお疲れ様でした、おやすみなさい」
とナンシーが声をかけてくれる。
俺も頑張って「おやすみなさい」と返事をして、意識を手放す。




