思い出、追跡と火消し
中庭で本を読むコルネリウスを置いてきて、俺はあの女を探す。
シャドウとミストに、力に慣れてきたので通常の速度で歩いていいと言われた。
なので、懐かしい校舎内を歩き回る。
よくここで弟子たちと昼食を食べたな、お弁当をよく取り合っていたなー。
グリドールに悪戯して、ここで正座させられて怒られたっけか。
無防備なのが悪いのにな。
アレクとティナがイチャイチャしている姿を見つけてしまい…
からかったのはここだったなあ。ははっ、ホントに懐かしいな!
思い出に浸りながら歩いていると、綿毛鳥が髪の毛を引っ張る。
どうやらあの女がこの教室にいるらしい。
外から覗くしかないが、あの女の授業態度でも見ていようか。
反吐が出る。
あの女の授業態度を見て思った感想だ。
最初は真面目に授業を受けているのかと思ったのだが…
徐々に授業に飽き始めたのか、目が合った男子生徒にウィンクして遊んでやがる。
そのほかの男子生徒にも、個別に手を小さく振ったりしていた。
その反応を見てニヤニヤと笑っていた。
この女、かなり性格悪いぞ。
特に複数の男子生徒にちょっかいを出すけど、必ず個別なのがたちが悪い。
その授業態度はほかの女生徒にも見られている。
授業後、三人の女生徒たちにあの女は呼び出されていた。
「あなたっ!なんなの?!
男子にちょっかいなんか出さずに、真面目に授業を受けなさいよっ!」
「そうよ!私のアルベールに手を振ったりなんかして!
手を振り返すアルベールもアルベールよ!」
「もう我慢ならないわっ、今日という今日はお仕置きよ!」
「別にぃ?退屈な授業だったから、男子で遊んでいただけじゃない。
手を振り返したのも、あの男の勝手。その内簡単に浮気するわよ?あんな男。
…それとお仕置き?だっけ?あなたたち程度が私に?笑わせないで」
「もう許さないんだからねっ!水よ、流水となりて…ぐっ!」
「遅いわよ。詠唱なんてさせてあげないんだから」
「このっ!土よ、戒めとなりてこの者を…きゃっ!」
「だからぁ、遅いんだって!ちんたら詠唱して、無防備なのがわからないの?」
「ひ、ひぃっ!」
「あとはあんただけ。お仕置きするんでしょ?してみなさいよ?この貧乳がっ」
「誰が貧乳ですってぇ!炎よ、牙となりて…がっ!」
「あははっ!馬っ鹿みたい!さっきまでのを見ていなかったの?
詠唱中のアンタらはぁ!無防備なのっ!足りない頭で考えなさいよねっ!」
「…くそっ」
「…こんな奴にっ」
「…悔しいっ」
「まだ何か文句あるのかしら?
三人がかりでボッコボコにされちゃって、笑っちゃうわ。
まだやるなら相手になるわよ?」
「…」
「…」
「…」
「ふんっ!根性なしが。もういいわ、私はいくわよ。二度と関わらないで」
そういって、その場を去る女。
その場に残るのは、悔し涙を流す女の子たち。
あの女が言っていたことは、その通りとは言えた。
だが、ここまでする必要があったのかねえ?
それにしてもあの女、徹底的に『詠唱潰し』していたな。
『詠唱潰し』。
それは魔法使いの弱点である詠唱を止める行為だ。
あの女は徹底して詠唱を潰すために、素早く接近して殴っていた。
明らかに戦い慣れている。
彼女たちは気づかないかもだが…
俺たちのような国に属する者なら、その姿に違和感を抱く。
ただの学生があのような行為をするわけがない。
つまり、あの女は密偵か、それに類する何かで確定だ。
帝国かはわからないが、今の情勢から考えると、ほぼ帝国一択だろうな。
はあ、まったく。
恨みを抱いて、何かをされても困る。
仕方なく姿を現して、彼女たちに近づく。
「あなたたち、そこでなにをしているの?」
「あなたは…?」
「別に…」
「綺麗…」
「怪我しているじゃない。まったくもう…」
「あたたかい…」
「すごい、回復魔法だ…」
「こんなことが出来る人がいたなんて…」
「何があったの?私に話してごらんなさい」
『実は…』
「…なるほどね。それで喧嘩になったのね」
「はい…」
「悔しいんです、私たち…」
「どうにかやり返せないでしょうか…?」
「やめておきなさい。その女が言ったことは正しいわ。
それにあなたたち程度じゃ、束になっても勝てないわ。
かといって、陰険なこともやめておきなさいよ?」
「あの女が、正しい…?」
「たしかに。あの女程度に引っかかるなら、いつか浮気するかも…」
「でもっ、でもっ…!」
「悔しいでしょうが、今のあなたたちにできることはないわ。
その女にはもう関わっちゃだめよ?関わったら嫌な思いするんだから。
向こうから頭を下げて来るまでは無視していなさい。それが一番よ」
「はい…」
「わかりました…」
「復讐は諦めます…」
「よろしい。では、私は行くわね。
あなたたちの今後に幸多からんことを、バイバイ」
「すごく気さくで綺麗な人だったね…」
「あーあっ!まったく、浮気しない次の男探さなきゃな…」
「…あー、もう!復讐なんてもういいや!
あの人みたいに綺麗になりたいから、自分磨きしよっと!」
ふう、これであの女に彼女たちが関わることはもうないだろ。
まったく、面倒くさい。
なんで俺が火消ししているんだよ。
余計なことをしていたから、あの女を見失ったじゃんか、もう。
お、綿毛鳥。
あっちにいるのね?わかったよ。
さて、何をしているんでしょうかね、あの女は。
また面倒ごとを起こしていなきゃいいんだが。




