特別報酬、完璧な淑女
ティナと弟子の近衛たちと別れ、再び母上の私室を目指して歩く。
さっきまでのしんみりさは消えてなくなりそうな予感がする。
憂鬱だなーと歩いていたら、目的地に着いてしまったようだ。
深呼吸をする。気合を入れなきゃな。
実の親に会うのに、そんな気合を入れなくてもいい?
数年も離れていたら、こんな気持ちにもなるさ。
俺は意を決して、名を告げてから入室の許可を求めるノックをする。
中から「奥様!」という声と、ドタバタと慌ただしい音がする。
扉が開く。
開いた先には母上がいた。すでに目元に涙がたまっている。
俺は口を開く。
「お久しぶりでございます、母上」
「…ディーノ。この、親不孝者!」
「あ、え?」
「今までどこをほっつき歩いていたのですか!
しかも、ヴィルに聞いたら『あいつはもういない』ですって!?
なんなのですか!
あなたたちで勝手に密約なんて決めて、勝手にいなくなって!
私がどれだけ心配したと思っているのですか!!」
「母上!?密約については、事が事ですから、内密に…」
「そんなものは私は知りません!あなたたちが勝手に決めたものです!
私には関係ありません!
いなくなったと思ったら、何年も経ってから急に現れるんですから!
心配するこちらの身にもなりなさい!!」
「す、すいません、母上…」
「いいえ、許しません!
私だけでも、あなたとアカネちゃんと会えるようになさい!今すぐです!」
「ええっと、それはちょっと了承しかねるな~、なんて…」
「私だけでいいのです!
向こうにはドールちゃんたちもいるでしょう!?
私の世話くらい、どうとでもなるでしょ!!
いいから、私だけでも連れていきなさーい!!」
「はあ。母上がここまで我儘だったなんて、今まで知らなかったですよ…」
「私は元々こういう性格です!
王妃教育で私はお淑やかになったのです!
いいから、扉を繋ぎなさい!!」
「では、仕方がありません。こうしましょう。
私は今回、仕事のためにこちらを訪れたのです。
その協力の報酬として、『特別』に扉を繋ぎます。
それでいいですか?」
「やったわああああ!勝ち取ったわああああ!
ヴィルなんてもう知らないんだからっ!
私はアカネちゃんたちと老後を楽しく過ごすんだからっ!」
「はあ。こりゃ、そのうち父上もこっちに来るな…」
「あ、あの?ディーノ様?
私たちにも、その、報酬はいただけるんですよね?
私たちも老後はまったりと過ごしたいのですが…?」
「ぐっ、そうですよね…
王宮メイドさんたちにもその権利はあります。
いいでしょう。この際、まとめて面倒を見ましょう。
知りませんからね、まったくもう!」
『やりました!私たちも老後の安住の地を手に入れました!!』
「はあ。では先生方、俺の準備をお願いします…」
「ディーノ?その役目は彼女たちじゃないでしょう?」
そこで扉が開き、俺の元侍従二人がこちらにやってくる。
「ディーノ様!その役目は私のものです!誰にも譲りません!!」
「ディーノ様?妻以外にその役目を譲るのはどうかと思いますよ?」
「ナンシー、ヴォルクスも…」
「ヴォルクス、お仕着せを!化粧箱も!あと靴もです!」
「こちらに」
「よろしい。では、外に出ていなさい」
「はい。あ、ディーノ様?我々にもさっきの権利、ありますよね?
もうそろそろ私たちも後進の育成が終わります。
余生を楽しく過ごさせてくださいね?」
「ああ、もう。わかったよ!お前たちも来い!」
「言われずともそのつもりです。
ああ、護衛だった彼らにも今までの報酬として…
この話をさせていただきますね?」
「くそっ、一気に賑やかになってしまう。向こうでの俺の仕事が増える!」
「その際は手伝ってあげますから。
さあ、妻が待っています。頑張ってください、それでは」
「ディーノ様の髪の毛が、さらにサラサラになっていますね。
何かお手入れに使いましたか?」
「こっちにはない、向こうの世界って言ってもまだわからんか。
特殊な洗剤で毎日のように洗っているからかな?
アカネには、オイル使っての細かい手入れをしてもらっているしなあ」
「ふむ。これだけの髪質。そして、肌艶もいい。これは腕が鳴ります!
化粧は濃ければいいってものじゃないんです!」
「な、ナンシー、さん?」
「行きますよ、ディーノ様!今までで一番のディーネ様に仕上げます!」
「のわああああ!」
こうして、俺の元侍従のナンシーの手により、俺はディーネになった。
靴も久々にヒールがあるので歩きづらい。
服もこのひらひらがなんか恥ずかしい。女装当初の気持ちに戻っているな。
それを見透かす母上と王宮メイドさんたち。
報酬のこともあってか、もう目がメラメラと燃えちゃってます。
「ディーネ!なんですか、その姿勢は!私の教えを忘れたのですか!?」
「ディーネ様?何を恥ずかしがっているのです?
今のあなたは王族に等しい娘です。
凛々しさを持って、胸を張って堂々としてください」
「姿勢と気持ちは、少しはよくなりましたね。
次は歩行と仕草です。
我々との特訓を思い出してくださいませ?」
「ディーネ様、視線が下がっております。前を向いてくださいませ。
そして、堂々と胸を張ってくださいまし」
「ディーネ様、そのような仕草を教えた覚えはありません。
歩く時の仕草はこう、です。指先まで集中してください」
「ふむ、仕方がありませんね。
ディーネ様、一度お手本をお見せします。
どこが悪いのか自分で指摘できるように、しっかりと見ていてくださいませ」
「ちゃんと悪かったとこは自覚していたようで安心しました。
これならお仕事にも間に合いそうですね」
「そうですね、この調子なら一週間で思い出してもらえるでしょう。
できれば、もう一週間欲しいのですが…
え?いいんですか?では、完璧な淑女に仕立て上げますね!」
「皆様方?ディーネ様にやる気が戻ったようです。
短期集中講座の開始です。誰が見ても見惚れる、完璧な淑女に仕上げますよ!」
『はい!』
俺はいつの間にか、負けん気を出してしまい、完璧な淑女を目指してしまった。
心はまだ男のままでいられるのだが…
口調や仕草は女装時のみ、完璧な淑女になってしまいそうだ。
ここまで仕上げれば、ちょっとやそっとのことじゃ忘れないだろう。
たまにアカネに女装姿を見てもらい、違和感がないかを確認してもらおう。
これも今までの怠慢のツケということで、矯正を受け入れましょうかね。
今までリリーの出番が少なかったからですかね?
ちょっと爆発してしまいました。
王宮メイドさんたちと共に、老後の安住の地を勝ち取りました。
ヴィルフリートも王位を譲ったら追いかけてくるでしょう、きっと。
そんなこんなで潜入準備が整いました。不穏なコルネリウスがいる魔法学園へ行きます。
はてさて、どうなるかな?ネタ帳には細かいことはまだ書いてません。
今日は病院なので、ここまでです。帰ってきたら、また書こうと思います。
早くちゃんと目が見えるようになるといいんですけどねえ。
それではしばらくお待ちください。
残りもこの調子で続きます。よろしくお願いします。




