潜入依頼
この国の王都は識字率が高い。
そのため、一般枠で魔法学園に入れる逸材となる人物もいる。
なぜ、急にそんな話をしだしたかって?
新聞が届いたんだよ、兄上からの秘密の文通手段から。
新聞の中身を見ると、コルネリウスが婚約発表をしたというものだった。
相手は侯爵令嬢。
だが、新聞の日付を見ると少々前のものだった。
今更この新聞が何だって言うんだ?
そう思っていたら、カサリと手紙が床に落ちた。
拾って中身を確認する。
俺はため息をつかざるを得なかった。
兄上よ。今更、俺に学園に潜って調査をしてくれって…
それって女装しろって意味ですよねえ!?
手紙の詳細を読んでいく。
どうやら現在、コルネリウスは四年生。
婚約発表したのが、コルネリウスが二年生の時だ。
たった二年の間に何があったのかわからないが、今は別の女にご執心らしい。
そこで、兄上が俺にその女を調査してくれと連絡を入れてきたのだ。
兄上からの手紙では、可能性としては帝国からの密偵と思われると書かれている。
俺の暗躍にかかっているってわけね?
学園生活は残り一年半くらいってところかな。
このままでは、騙されたコルネリウスが王家の情報をベラベラとしゃべって?
そんでもって、卒業パーティで婚約破棄宣言コース。
んで?帝国の女は代わりにとばかりに婚約をして?
最後は、王家の仲間入りを果たして、国の情報を帝国に流し放題っと。
それを防ぐために、卒業パーティまでに女の情報を集めて、悪事を暴くと。
まさに小説の世界の話だな。
はぁぁ、やだなあ。今更、外の世界に行くなんて。
女装もしないとだしなあ。
たぶん女性の仕草とかもさび付いてるだろうから…
母上と王宮メイドたちの矯正も待っているよなあ。
兄上との文通手段を持っていたことも、父上か母上には怒られるだろうし…
マジでヤダ、引きこもりたい。
でも、密約に引っかかるから、行かないとだよなあ。
コルネリウスとは、個人的な約束をしていたからな。
『間違えていたら、私があなたを止めます』
そう、言ったもんな…
よし、約束通りに止めに行きますか!
その前に、アカネにも話しておかないとな。帰りが遅くなっちゃうしなあ。
場合に寄っちゃ、寝るまでに帰ってこれないかもしれない。
そうなったら怒るよなあ…
兄上に責任でも取ってもらおうかなあ。いや、そこは俺がどうにかしないとな。
甲斐性を見せる部分だ。
でも、そんなことにならないように、頑張ろうっと…
あー、腰が重いなーっと!!
俺は夜遅くに、父上の私室に『扉』を使って移動してきた。
父上の私室に入るのって、何気に初めてじゃないか?
なんて考えてから、話し出す。
「密約により、王に相談に参りました」
「おう、待っていたぞ。アレクから話は聞いている」
「コルネリウスとの個人的な約束ですからね、ちゃんと履行しにきましたよ」
「随分と口調が荒いな?こんなことになるとは思っていなかったってことか」
「そりゃ、そうでしょう。
まさか弟の浮気を止めるために動くことになるなんてね!
アカネにも随分と小言を言われましたよ」
「アカネ殿には申し訳ないことをしてしまったな」
「それで?行くのか?学園に」
「はい、行きますよ。
偽造でいいので学生証をください。
まあ、俺の完璧な女装姿を見て、確認するような人はいないでしょうがね」
「女装に関しては、自信満々だな。まあ、これは念のためってところだがな」
「その女の現在わかっている情報もください。容姿の特徴や名前とか」
「名前はリルフィ。タレ目で、お前のような長い『黒髪』が特徴だ」
「は?まさかですが、俺に、ディーネに似ているからって理由で浮気した…
とか言いませんよね。コルネリウスは」
「…」
「ちょっ、黙らないでくださいよ!?
何が悲しくて、姉の幻影を投影した人物に浮気しているんですか、あいつは!」
「お前が悪い」
「人のせいにしないでくださいよ!?
あーもう、あの馬鹿は!!鉄扇ぶち込んだろうかな!?」
「侯爵令嬢とも会ってもらうつもりだが…
お前の存在を知れば複雑な思いをすると思うぞ」
「婚約者とも会えっていうんですか!どんだけややこしくする気ですか!?」
「大丈夫だ、たぶん。彼女は強い。少しふらつくだろうが、大丈夫だ」
「ふらつくって言ってるじゃん!?大丈夫じゃないじゃん、その子!!」
「とにかくだ。女装して潜入するのだ。
まずは、リリーの下でさび付いた仕草などを修正してこい」
「わかりましたよ。はあ。母上に会うのも怒られそうで怖いんだよなあ」
「大丈夫だ、心配しているだけだ。愛されていると思え」
「それもそうか。そのまま愛情を持って矯正されるんだろうなあ」
「やるしかあるまい…」
「コルネリウスにはビンタくらいはしてから帰るかな?」
「やめておけ、また変な性癖に目覚めるぞ」
「ぐっ、言い返せねえ」
こうして、俺は学園に潜入することになった。
まあ、コルネリウスの婚約者に会うのはいい機会だ。今のうちに交流しておこう。
俺はコルネリウスを止めるという約束を果たしに行くのだった。
その前にまずは、母上と王宮メイドたちによる女性の仕草の矯正を受けないとな。




