プロローグ
熱が冷めないうちに打て!(キーボードを!)
俺こと新藤薫は現在進行形で困っている。ええ、とても困っている。
「か、カオルちゃん。やっと見つけたんだな。
ぼ、ぼくとお付き合いして欲しいんだな…」
なぜ男の俺が男にお付き合いをお願いされなきゃならんのだ。
いやまあ、原因はわかっている。わかっているんだが…
「えっと、そこのコンビニまでなら…」
「そういうお付き合いじゃないんだな!ぼくはきみが好きなんだな!!」
おうふ、誤魔化そうとしたのに告白までされちまったぜ…
さてまあ、どうしてこんな状況に追い込まれているのかをそろそろ説明しようか。
俺は昔から女顔だった。
女装させたら、あれ?女の子?って思わせるくらいには女装が似合う顔だった。
高校の文化祭では、面白がった女生徒たちに化粧を施された。
そして、名前を伏せてミスコンに無理やり出され、結果優勝してしまった。
その後、「あの子は誰だ!?」と、男子生徒が総出で捜索するレベルだ。
女生徒たちもやらかし過ぎたと思い、全員が口をつぐんだ。
ウィッグをつけ、化粧を施して、ちょっと流行りな女性ものの服を着せただけの男子生徒がミスコンの優勝をかっさらっていったのだ。
女生徒たちも大変面白くないだろう。
唯一の俺の幼馴染だけが、そんな俺を見て爆笑していたが…
「アンタウケる、あいつらの性癖を歪めちゃったじゃん」と。
黙っていてくれと、駅前の高級スイーツを幼馴染に奢るハメになったのだ。
そんな俺を面白がった幼馴染は大学では男の娘カフェでバイトやりなよと、勝手に応募して無理やり面接に連れていかれたのだ。
最初はメイドカフェに応募しようとしていたので、「性別!性別だけは勘弁を!!てか、普通のバイトがいい!!」と抗ったのだが、抵抗空しく男の娘カフェでバイトすることになったのだ。
働くからには真面目に?と思ったので…
化粧を学び、ウィッグも付けて、手先も綺麗にしなきゃね?
と幼馴染に散々あちこち磨かれた。
「アンタ、あたしより化粧乗りいいし、肌も綺麗でムカつく」
とお褒めの言葉も頂いた。
とまあ、そんな感じで男の娘のバイトを続け、固定客もつき、今に至るのだ。
何が悲しくて男にチヤホヤされなきゃならんのだ。
身体への接触はNG、こちらからの撮影以外はNG。
な、の、に、NG破りする輩の多いこと多いこと。
曰く、
「男同士だから大丈夫でしょ?(目つきがやらしい)」
「ホントは女の子なんだよね?(懇願)」
「この角度がいいんだよ!(カメラ片手に)」
などなど、好き勝手言ってくれやがります。
店長(姐御肌の女性)も「お前の美貌は男どもを狂わせるな…」と、タバコの煙を吐きながら、呆れ顔だった。
そんな俺だからこそ、個人情報には大変に気を遣ってくれたのだが、冒頭に戻る。
俺は仕方なく、この男に
「どうしてここがわかったんですか?」
と当然の質問をする。
「三日三晩、君に変な輩が付いて回らないように身辺警護をしていたんだな!」
(いや、お前が!お前自身が!変な輩だから!
てか、身辺警護とか言っているけど、それ、ただのストーカーじゃねえか!?)
正直な気持ちをぶちまけるわけにもいかず、笑顔が引きつる俺。
「と、ところで、さっきの返事を聞かせてほしいんだな!」
「返事?」
「ぼくはきみが好きなんだな!」
(おうふ、二度も告白されちまったぜ。
モテる男はつらいね。ホントにつらいね!相手が男なだけに!!)
素直に断って帰ってもらおう。うん、そうしよう。
さっきから人の目が集まり始めて、かなーり気まずい。
こらそこ、ヒソヒソするんじゃありません!
「ごめんなさい、お断りします」
「なっ、どうして…」
「どうしてって、まずは性別から…」
この男の趣味は知らんが、さすがに性別がな。
まあ、性別が女だとしても断ってそうだが。
そんなことをつらつらと考えていたら…
男がブツブツとつぶやきだして、カバンから鋭利な刃物を取り出していた。
「!?」
「カオルちゃんはぼくだけのものなんだな、きみを殺してぼくも死ぬ!」
「げっ、マジか!」
こんなときに限って、バイトの準備したままだなんて最悪だ!足元が特に!!
どうしてこんなときに動きづらいヒールなんだ!!
逃げようとして、俺は思いっきり転倒した。
それはもう、面白いくらいに、逃げ場がないくらいに。
男は俺に馬乗りになってその鋭利な刃物を俺に向かって振り下ろす。
マジで死ぬ前って風景がゆっくり動くんだな。
周囲が静かに見える。
そして、その中に見つけてしまった。目が合ってしまったのだ。
俺の唯一の幼馴染と。彼女の顔が強張っている。
すまんな、これは助からんわ。
あー、DVD借りっぱなしだったな。
返せそうにないわ、勝手に部屋から持っていってくれ。
男が周囲に取り押さえられている。俺は腹部から血がだらだら。
幼馴染が泣いている。
泣きながら俺の腹部を抑えてる。
お前は看護系を目指していたんだっけか?
すまんな、トラウマになるような練習をさせてしまって。
最後の力を振り絞った。
お前の涙を指で拭ってやることしかできない俺をゆる、して、くれ…