九話目 愛を消してやる
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あの時はもう眩しいと目を背かせて逃げるしかなかった。
あの時、靡先輩が駆けつけたと気付いたから。
先輩は風を操り、瞬発力が天才的に速い。
いつもの皇なら避けられるが、あの時は疲労していたので逃げ道があれしかない。
そう、考えた皇は閃光の粒子を起こす。
案の定、藍は目を瞑った。
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『お、来たか』
闇で覆われたドーム状の本拠に皇が来ると黒恋は嬉しそうに迂回する。
彼は、凛に焼かれて消えたのではないのだろうか?
元気に動き回っている。
『闇月を封印した?こいつがまた暴走したのか…はは』
皇が持ってきた球体を見るなり黒恋は笑う。
『暴走したのは皇よ』
くぐもった声を闇月は発する。
『神聖情愛隊の子を助けたのだから』
憎しみがこもった声で球の中から皇を睨みつける。
しかし、皇はどこ吹く風という感じで、そっぽを向いている。
『大胆だぜ、皇』
黒恋は豪快に笑うと皇の前で停止した。
『今回はいろいろあったんだな?でも、お前がいないと勝てないからよお、今日は許してやるぜ』
「どうも」
冷静に、動じることなく返す皇。
『それとなあ…お前に感謝しなきゃいけねえかもな』
黒恋は、ニヤリと笑う。
それには、同じ仲間であり、同盟関係で冷静冷酷の頭脳派の闇月でさえ恐怖にさせた。
球の中でガチガチと震え出す。
『震えてる?頭いいぶっていた闇月さんよぉ』
『あ、あんたが馬鹿なんでしょ!?』
やがて、闇月は暴れはじめた。
嫌な予感がする。
その前に逃げなければ──!
『あ、おれのために力になってくれないか?』
黒恋が口の端を歪め、球に手を伸ばした。
『やめて!』
動揺する闇月。
皇はただただそれを見ている。
──黒恋は。
球から闇月を引っ張り出すと自分の体と重ねた。
『……なっ!』
「……!?」
これには皇も目を見開く。
『やっと一つになれる……』
黒恋は、自分と同色させ、同じにさせ、侵食させ──一心同体と化した。
「……──」
さすがの皇も絶句。
『これでおれは最強になった!頭脳と攻撃力と冷静力と!これで勝てる…』
黒恋の中から闇月の声が聞こえる。
『あんたの心の中、汚い!虫唾が走る!』
しかし、黒恋はくくっと笑った。
今まで以上の邪悪さを込めた──。
『愛を消してやる。全滅にさせるほど消してやる。地球人が愛に染まっているなら、地球ごと滅ぼしてやる』
狂ったように笑い続ける黒恋。
中で悲痛の声を上げ続ける闇月。
それを半ば放心状態で見ている皇。
もはや、事態はただごとではなくなった。
『バレンタインデー?そんな崩壊させてやるぜ、このおれさまが!』
黒恋の体に変化が起きる。
ただの浮いていた影から──人形の影になった。
漆黒に染められた体が。
皇の前に立つ。
『協力してくれるよな?皇』
「……分かった」
闇落ちしてしまった以上、頷くしかなかった。