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六話目 神聖情愛隊の名の元、倒す!

「待ちなさいよー!」

 靡先輩……ごめんなさい!

 でも、今の私は跳躍天才だからお先に行かせてもらいますッ!

「っつ!バックアップ役を大切にしなさいよっ!」

 やがて怒った彼女の声も聞こえなくなった。

 すごいスピードで屋根の上を跳躍し、靡先輩を引き離してしまったらしい。

 皇を探さないと。


 にしてもすごい力だな……成功したのが未だに信じられない。


──タッ


「……!?」


 地面を蹴る音が聞こえた。

 いや……この際屋根か?

 もしや、あれは!


「見つけた!」

「ハッ……!?」


 人影が動き、振り返る。

 案の定、皇だった。

 意外と簡単に見つけられたな……この後が大変そうだけど。


「ここまで追いかけてこれるって何者だ……?」


 自分が追いかけられるとは思わなかったのだろう。

 皇が悔しそうな顔をする。

 あ!逃げるな!


「神聖情愛隊の名の元、倒す!」


 このセリフ、言っててカッコいいかも……。

 一回は言ってみたいセリフだったし。

「神聖情愛隊で僕の力を超えるやついたのか!?」

「いや〜私愛の有限実態で追いついたから」

 皇の前に回ってやる。

 この跳躍力とバランス力……すごい。さすが有限実態。

「お前か、稀有な力の持ち主は」

 皇の目が変わった。

 人を狩るような冷酷な目……。


「久しぶりに僕を超すものが現れたってこと?」


──ダンっ


 皇は力強く踏み込むと、私の顔前に来る。

 直撃させられる!

「くっ!」

 避けた。

 だが、皇は方向転換し、向かってくる。

 避けた──が、そのたびに突っ込んでくる。

 最初の突っ込みはペースを崩すため……。

 攻撃のチャンスがこっちにないのではないか!?


 危ない……てか、これ疲労してきた。

 初めてこの技を使ったから力の配分がよく分からなかったし。

 このまま避けただけでは体力が切れてしまう!

 遠距離攻撃ができるといいのだけど……あいにく愛の力では発動できない。

「反射神経は僕に敵わないのかな?」

「っつ!煽るな!」

 その綺麗な容姿と挑発の言葉。

 敵のくせにムカつく!

「やってあげるよ!有限実態!」

 またも足が輝く。

 と同時に、体力も奪われていく。

 長く持ちはしないから、一発逆転を!

 その後は追いつくであろう靡先輩に……。


 またも突っ込んでくる皇。

 一歩下がって足で曲線を描く。

 そう、蹴り!


──バシーンッ!


「なっ!?」

 皇のお腹に私の足が炸裂!

 他人事ながら……痛そうだわ。

 しかも有限実態で強化した足だし。

「蹴りとかいう格闘技は予想したことなかったよ」

 悔しく、しかし皇は微笑んだ。

 ……なんで、微笑むの?その悪魔の笑みを。

「でも僕はここで捕まるわけには行かない。だから、決死でも君を阻止するから。かかってくるなら容赦はしない」

「今ので勝負ついたでしょ?」

「おそらくは──。なら、煮るなり焼くなり好きにしたら?」

 こういうときだけ潔く振る舞って。

 いつかはまた裏切るのかもしれない。

 そして、今は勝てないから降参しているのだろうか。

「ならさ……闇落ちした理由、教えてくれない?」

「……──ごめん」

 皇はつぶやいた。

 こっちも簡単に得られるとは思ってないから。

「それを言うんだったら……戦うから」

「は、馬鹿なことを。じゃあ、戦う?言ったほうが楽だと思うけど」

「こっちの情報を渡すわけにはいかな──」


 ハッと皇は我に返った。

「ヤバい!」

「逃さないけど?」

 何かに気付くと駆け出す始末。

 ああやっぱり裏切る算段が見え見えだし。

「仕方ない!」

 私は皇の背後をそぉっと近寄る。

 そこで攻撃すれば……!


『闇討ち成功?』

 !?

 誰かのくぐもった声が響き渡った。

 暗く……憎悪を潜んだ声主に怯み、私は立ち止まってしまう。

『神聖情愛隊の情報と交換してくれるんでしょ?』

「──うん」

 皇がうなずいた。

『皇の後ろに……魔法の匂いがするんだけど。始末してきなさい』

 皇が振り向く。

 いや、もう気づかれていただろう。

 けれど、私は固まっていた。

 皇と喋っているのは影。なら、黒恋や闇月の分身または本体の可能性だ。

 一人で影と会ってしまうなんて…!

「追いかけてきたのが命取りだったね」

 皇は手をかざす。

 光の粒子が飛び出し、私を両断するのだろうか。

 そうなったら逃げれるところまで逃げるだけ。

 それしか選択の余地が残されていないのだから。





『何をしているの?』


 影が急かす。

 今、逃げたら──どうなるのか。

 まだ攻撃されていないけれど逃げた瞬間に打って出てくる可能性もある。

 それが怖くて。


 なぜか動けない。


 人って弱いんだ。

 だって頭では動きが再現されるのに体が固まるなど。

 このまま固まってれば安全なのではないかという正反対の思い込み。

 踵を返す?

 逃げる力もあまりないのに?


 なら抵抗?

 それは今の自分では絶対ムリなこと。


 抵抗は、10分の1の確率の賭けになってしまう。

 それならここで安全かも(・・)しれない無抵抗に賭けたほうがマシだという思考。

 だから、動けずにいたのかもしれない──。


『早くしてよ、皇くん』


『今更躊躇しているわけじゃないよね?』


『簡単でしょ、そんぐらい』


『早く情報を知りたいから早くやっちゃいなよ』


『早く』


『早く』


「うるさい!闇月ッ!」


 膠着していて影に煽られていた皇は大声を上げた。

 あーこの影闇月なのね。

 黒恋と正反対の性格──冷静冷酷頭脳派。

 黒恋は馬鹿冷酷惨殺派。

 黒恋は性格が異常な上に派手を好むからねじ伏せるのが大変だったが。

 けれど闇月は頭脳で対抗してくるので対策があまりたてられない。


 そんな強敵が。


「分かったよ……ッ!」

 皇は手を振り上げた。


 いや……今まで黙ってたけどさすがにこれが動かないと。


 いけないな……。


「有限実態」


 最後の力を振り絞って唱えてみた。

 まだ慣れない呪文。使ったばっかりの力。

 でも、さっきまで固まっていた体が信じられないぐらい動く。


 皇を通り越して闇月の元へ。

 闇月は、陰でコソコソとやられた。

 黒恋以上の恨みを晴らしてやるッ!


『なぜわたしを狙ってくるの?』


──ザシッ


 蹴りが風を切る。

 まあこれぐらいじゃ避けられるか。


『皇……うるさいハエを退治しなさい』

 命令する闇月。

 せめて黒恋みたいに自分からかかってきなさいよ、人を使わないで!

「分かった…な!?」

 皇は私に近寄ろうとして弾き返された。

「周囲2m以内の結界。近寄るな」

 これも、有限実態の力のおかげ。

 あ……でも体力切れこれは本当に危険だ。


 でも……これなら体当たりで!


『ずるいわ!』

「頭脳怪物でもこれには勝てないってこと?」

 私が闇月に近寄ろうとした瞬間、闇月の体がふっ飛ばされる。

 影だからあれごときでは死にそうもないけれど……とりあえずはクリア。

 後は皇か。

「負け……だな」

「あ、またそうやって逃げようとするんだ?」

「いや、闇落ち手伝いは闇月がさせてくれた。その彼女が消えてしまえば…」

「ふ、いいよ。逃げても」

「何で……?甘いな、まだ」

 甘い?まあいろいろな意味でね。

 裏切り者のあんたをいつかは捕まえる。

 だけど…今は無理なんだ。

 靡先輩はこないし…。

「だって私もここで限界だし。皇でしょ?ならお互い様で」

「……甘すぎる。だから負けるんだ」

「まだ負けてないよ?あとさ、絶対捕まえるから」

 情があっても捕まえなければならない。

 本当は今やりたいけれど…。なぜ、目の前にいるのに!

「だから、覚悟しておいて」

 うーん、なんか捨て台詞みたいになってる。

 かっこ悪いよね?

「闇落ちの僕を助けるお前は犯罪──」



『バラしたわね』


 声。

 闇月のあの声と共に、皇は弾き飛ばされた。

 っつ!?危ない!


「……?な、なんで……?」


 気づけば私は動いていたのだ。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 闇月が現れた! 皇もどうなるのだろう。 それにしても「神聖情愛隊の名の元、倒す!」はかっこいいセリフ◎
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