五話目 人々を愛し、自分のように大切にしている
「俺の力と似たようなの操りやがって」
悪態をつき、動き出したのは光。
「光くん大丈夫?」
要の言葉を無視し、手に閃光をピカリと光らせる。
「光ばっかずるいぞ!?ファイヤーフラッシュ!」
凛が炎を片手に灯した。
じゃあ私も……って言いたいけどあんまり効果なしだしな。
って何か背筋が冷たくなったような……。
「やるしかないよね……?」
後ろでは笑みを浮かべた要。
しかも氷が漂ってやがる。
これは、冷や汗と寒さが合わさった震えか……!
妙に変なやつばっかいるんだけど…。
「おーいそこの班!危ないぞ!」
隊長の声を無視し、凛が先頭突進していく。
「チェストーー!」
皇は猪のように突っ込んでくる凛をサラリと躱した。
「!?」
そこに氷の礫が突っ込んでいく。
「おっと」
皇は余裕そうに笑みを浮かべる──が。
「押忍!」
凛が炎攻撃を炸裂。
「炎か……よっと」
冷笑を浮かべた皇。
キラリと礫が光った。
まさに電光石火──。
しかも皇は神聖情愛隊一位の運動上手として有名だ。
スポーツ天才──そう言われていたような?
「うお!?」
凛が間抜けな声を上げた。
キラリと光ると同時に、皇が跳躍し、一軒家の屋根の上に着率。
ああ!忘れてた!
やつが跳躍を大の得意としているということを。
「ついてきてね♪」
なんて言いながら余裕に屋根を飛び越えていく。
ムカー!
みんなはポカーンと見上げているだけだ。
「な、何をやっている!裏切り者を捕まえろ!」
隊長が我に返って叫んだ。
だから、無理なんだって。
あんな跳躍天才にどうやってかかっていけばいいのよ?
「じゃあ、遠距離!ファイヤーボーン!」
凛が火の玉を作り出し、放出!
だが、皇は屋根で身を隠しているだけだ。
「じゃあ、もっと威力を強めればいいのか!」
凛は手を振りかざした。
──って!
「威力強めたら屋根壊れるでしょ!」
「ん?」
「あいつは逃げるから、いくら強めても無駄なの!逆に逃げられないところで攻撃しないとっ。威力だけ強めたら当たったものが焼けちゃうよー!」
「え?それは屋根がボロいんじゃないのか?」
ば、馬鹿なの!?
お前の炎耐熱定義を持ち出すなー!
「凛くん、邪魔です」
傍らから氷の錐が解き放たれた。
「炎攻撃は無理なら氷で!」
氷そのものが要の手から放出される。
「じゃあ、そこに便乗しよう」
光が閃光を轟かせる。
うわ…眩しい。皇の光も眩しいけど、対抗意識があるのか、物凄く光源を明るくしている。
「……フッ」
だが、皇は難なく乗り越える。
「跳躍力ならあたし、いけますよ!」
そう言って走り出した隊員がいた。
んっと…確か一班?隊長に褒められていた人だったよな…。
彼女はポニーテールを靡かせて颯爽と屋根を登っていく。
バランス力、跳躍力。すごいと思う。
──だけど。
「ああ、靡先輩。僕を超える気満々ですね!?」
皇はいきなり止まった。
「な、何で止まるのよ!?」
さすがの先輩も思惑が分からずひきつる。
「わざと先輩に花を持たせてあげます。いいですよ?」
鬼さんこっち〜のように皇はニコッと笑った。
──っつ…その笑顔が余計だわ!
「あ、あんたあたしを舐めてるわね!花を持たせるなんて……!追いついてやるわよ!」
ムキになった先輩。
あの人の欠点はああいうキレやすい性格のことなんだよね…。
「引っかかってやんの」
皇は微動座にしなかった──と思ったら!?
先輩が近づいた瞬間に屋根から足が離れた。
「!?」
何が起きたんだ!?
今、足が離れて…。
っていうことは跳躍して逃げてるのか!
「っく!戻ってきなさいよ!」
策に気がついた先輩は負けじとジャンプした。
だけど、皇の方が圧倒的に高く上がっていた。
「だ、誰か跳躍力があるやつはおんか!?」
隊長があたふたする。
でも、あの皇を捕まえないと。
もしかしたら闇落ちして情報を渡されるのかもしれない。
何があろうともよからぬことを企んでいることは確かだ。
「私、行ってきます!」
スラッと手を上げてみる。
ん〜なんか気持ちいいかも。この注目。
「行く人がいないんなら有限実態の技で跳躍してくるよ」
「できんのか?」
凛が聞いてくる。
有限実態の力はまだ習得してないけど……で、でもやるしかないじゃん!
出来ぬことを愛の力でできるようにする。
それが技の目的なんだから跳躍だってできるはず!
「藍…できたとしても動力源はどうするんだ?」
真剣な顔で光が聞いてくる。
動力源……って!?ああ……代償みたいな(?)感じの。
私の場合愛という思いを技を発する時の力にするらしい。
らしいというのはやったことがないから…。
って。まだ修行不足だな。言ってて悲しくなってくるわ。
「まあ、やってみるよッ!」
ムキになりながらも手をかざす。
「できるのか?」
「あいつって稀有な愛の力のやつだろ?」
「でも目覚めてねーんじゃ?」
「目立とうとしている感じがモロバレですわ」
ひそひそと言われる話。
う…ムカつく。今すぐドーンと派手に技を放ってふんぞり返ってやりたい。
でも、まだ正直力に目覚めてない…急に自信なくなってきた。
あんだけいきなり突っ走ったくせして!
もう!ここまで来たからやってやるしかないだろ!
失敗したとしてもね……。(半分泣き)
「有限実態ッ!」
……──。
あれ?
「有・限・実・態っ!」
ちょっとムキになって唱えてみる。
「……おお?」
周囲がなぜかどよめいた。
ん?成功した……?お!?
輝いてるー!
自分の体が!
よくある魔法系?かな?
なら、跳躍っと!
「!?!」
足が光に包まれ、力を入れると軽〜くふわっと感がした。
「あれは……皇より跳躍してるな」
隊長が真剣に呟いた。
飛んでるよージャンプしたー!
って、ああ落ちる!
何とか着地し、周りの反応を伺った。
「……そうだな……」
考え込んでいる隊長。
「皇を追ってこい。今はお前しかいないからな…本当は…私が行かなければいけないのかもしれないけど…」
「隊長、あたしにも行かせて下さい!」
靡先輩が挙手をする。
「バックアップ役になりますから!」
「……分かった……。藍を守ってくれ……」
にしても……と隊長は呟いていた。
まあどうであれ。
行ってきまーす!
「あ、待ちなさいよ、後輩!」
靡先輩より先に私は飛び出した。
残された隊員の光は首をかしげる。
「あの力は愛が動力源……でも、藍に愛なんてあったのか?」
でも愛がなければ発動できない技。
藍には好きな人もいない、特別想っている人もいない。
なら……どこへ向けた愛だったのか?
「ああ、そういうことか……」
光は笑みを浮かべた。
「あいつは、人々を愛し、自分のように大切にしているのか」
それが、彼女の優しさでもある。