二話目 愛を壊すものは許さない
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一瞬で幸せが刈り取られた。
《こちら本部。本部。イルミネーションツリー会場で殺人発生。犯人は黒恋か闇月》
無線から無常にも悲惨さが伝えられる。
「……っ」
私は、唇を噛み締めた。
「せっかく、クリスマスにみんな幸せなカップルのはずだったのに…」
みんな楽しみで来たのに。
これからの未来は明るいはずなのに。
彼彼女らはあいつらに殺された。
《これからパトロールを開始してもらう。迅速にイルミネーションツリーの近くに集合》
「今更、遅いわよっ‼」
そう怒鳴りつけ、無線を切った。
本部に非はない。
けれど、あたってしまう。
彼彼女らが殺された…。
あいつらだけのせいで。
そう考えると叫びたくなる。
「っ……」
コートを羽織ると、ブーツを履き、玄関に出る。
そこには、隣の家の要がニコニコで出迎えていた。
「藍‼今日もパトロールだよ」
「笑ってられるの?あいつらに殺されたっていうのに」
「過ぎたことだもん。クリスマスはカップル率が高いから警戒しておけばよかったけどさ…」
「まあ、要が悪いわけじゃないけど」
二人で、クリスマスツリーのところへ向かう。
クリスマスツリーには、本部のみんなが集まっていた。
──黒恋、闇月という二人の怪物に向けて備えられた神聖情愛隊。
藍たちは、試練を乗り越え、この神聖情愛隊に入隊した。
いきなり愛を誓いあったカップルを立て続けに襲った怪物に向かって対抗される隊。
いつもは、怪物が出ないかパトロールをするが、昨日はクリスマスということで浮かれていた。
今思えば、カップルが多いから一番狙われる日なのに。
「事実は無線で聞きましたよね?」
「はい」
本部の受付の人が顔を涙で濡らしていた。
悲しいのだろう──そして悔しい。
「では、第二警班のコード『05』『06』『07』『08』デパートパトロールよろしくいねがいします」
「分かりました」
私は一礼して、受付を去る。
ここでは、コード番号で呼び合う。
05は私、06は要、あとの二人は…。
「よう。05、06‼行こうッ!」
元気の良い声が聞こえてきた。
「同じ班なんだから、コード名で呼ばないで」
「ごめん、藍と要‼」
「まあ、いいです。許してあげますよ〜」
要が、微笑み、コード07に愛想を返した。
07…彼は凛。
名前と違って騒がしいヤツ。
「おはよう。今日も朝からパトロールだな」
「光くんもおはよ〜」
「おはよう」
要が08の光に挨拶をした。
しかし、彼は微動だにしない。
「じゃあ、メンバー集まったし、パトロール行くか」
光が先頭をきって歩き出す。
この4人でパトロールするのはもう何回目だろうか。
「今日攻撃したのはどっちだろうな。黒恋と闇月」
「あれは、黒恋だな」
光が即答。
「闇月は残酷で分からないように殺す。黒恋は直接的に八つ当たりするように殺す。今回は、散切りされていた。…黒恋だ」
冷静な分析力。
ハッキリ言って私はそれに憧れている。
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デパートは相変わらずカップルが多かった。
いちゃついている者、見ていてアツすぎて目を背けたくなることも多いが。
「パトロール♪じゃなくて、なんか買いたいのに〜!」
凛が、子供のようにはしゃぎまくっている。
光と違って騒がしい男子。
「パトロールだからね」
「やだよ…。ねえ、二手に別れない?」
凛の提案にみんながのった。
「いいね‼二人に別れるって!誰にする?」
「それは、オレと光で」
「断る」
「……──」
断られた凛は元気を無くす。
「だったら、凛とわたしで。光と藍というふうのは?」
「まあ、いい。なら、藍、行こう」
光が先頭を歩き出す。
待て‼私はその後をついていく。
後の二人は別の方向に向かっていた。
「ここらへんはアツくてキツいな。目のやりどころがない」
「確かに…」
くっついているものたち。
みんな、愛があるが、少し困る程であった。
「じゃあ、一回屋上へ行こう」
光が踵を返した途端……!
「あっ‼」
黒い影が翻った。
空気に一見溶け込んでいるように見える影。
「黒恋……っ‼」
光が振り向き、手をかざす。
『あ?お前らも愛を誓い会った奴らなのか?ぶっ飛ばして──』
「光──閃光」
閃光がほとばしり、影を直撃した。
『ぐっ!?そうか、神聖情愛隊か‼』
影が、さらっと身を翻し、避ける。
「藍。魔法は?」
「無理だね。私の有限実態の力はまだ発動できない」
有限実態──それは、私の魔法名。
光は名前通りに光。
要は氷。
凛は炎。
そのように、神聖情愛隊は、神から授けられた力で影と戦ってきていた。
「じゃあ、俺だけか……‼」
忍び寄る影に蹴りを食らわせる光。
光の靴から閃光がほとばしり、影を貫いた。
『ぐあああああ!?』
痛さの声をあげるが、影はまだ動ける。
「しぶといやつめ」
『お前ら、何のためにおれを倒すんだ?愛ごときにさ』
「……愛を壊すものは許さない」
一瞬で閃光が影との間合いを詰めた。
「消えろ」
『ぐぎゃあああ!?』
影が焦げていく。
悲鳴の後に残されて、黒くすすを残すものは。
『くっ……この黒恋様にっ……‼』
「やっぱり黒恋か」
光がトドメをさそうと手を伸ばした瞬間。
「烈火!」
一瞬で影が燃え尽きた。
「!?」
「助けに来たぜ。光」
後ろを振り向くと凛がニカッと笑って立っていた。
「ナイス。炎で焼き尽くしてくれて」
「むう。わたしの氷の出番がなかった〜」
悔しそうに要がつぶやく。
今度は要も大活躍かな?