十三話目 神聖情愛隊として活躍してるじゃん。そんなとこが……
有限実態の呪文を唱え、想像力をフルにさせる。
まずは放射状に何かを放つ。
衝撃波……?それは避けているだけになってしまうか。
風……?それは靡先輩が得意だろう。
何をしたら……。
『みんな馬鹿だなあ。マジでいたぶるの面白いぜ、お嬢さん』
黒恋が挑発しても、
「だまれーーー!」
バシーンと周囲に風の刃を送らせ、相殺させる靡先輩。
「燃えろよ、この悪」
凛が炎を遠距離で放ち、影を焼いていく。
「氷漬けにしてあげる!フローズン!」
ピキッと氷の壁が作られ、要は守備と攻撃を交代交代にしていく。
「近寄るな」
冷静に近寄ってきた影には蹴りを、遠くの影には閃光を放って攻撃する光。
「浄化の力!」
私は想像力を生かし、浄化のオーラみたいな?ものを拡散させる。
一瞬で影が消え去った。
これで、分身を消せるかもしれない。
よくいけば本体も──。
「わぁぁぁぁぁぁぁっーーー!」
男子の叫び声が響き渡るとともに、何かが崩れ落ちるガラガラッという音がした。
悲鳴……。さっきから嫌というほど聞かされている悲鳴だ。
でも今のは。
……今のは!
「藍ー!」
要が血相を変えて飛び込んでくる。
「藍、あそこに──」
「分かった!」
私は要の説明を聞かず飛び出した。
おねがいだから、違う人であってほしい。
ねえ、今の悲鳴は聞き間違いだよね?
私にこれ以上悲しみを見させないで下さい。
瓦礫が崩れた音。悲鳴の場所。
神経を集中させ。居場所を突き止める。
あそこなへんだな!
あの悲鳴。
あの声は。
そしてうわーではなく、わーという少し可愛げな反応。
今は、悲鳴に変わっているけれども、少しびっくりしたときに「わー」と言うあの癖。
ねえ……どうか、どうか……。
瓦礫が積もっている所がある。
そこに私は一瞬で跳躍する。
「誰かいますか!いたら返事をして下さい!」
自衛隊の救助するときみたいだな……このかけ方。
「藍……」
「!?」
瓦礫の下から何かがドサッと起き上がる。
黒く闇に包まれた影。
そしてそこに抱かれているのは──。
「な、なんで……」
『あ?お?神聖情愛隊。こいつ助けるつもりか?』
影が振り返る。
恐らくは黒恋の分身──または本体。
それが……それが……。
「藍……神聖情愛隊だったんだ、ね……」
頭が真っ白になる。
私は神聖情愛隊だ。
だけど……なんでこんなことに……。
「どうして、大切な人が……」
それは幼馴染で初恋の人──琉久だった。
大切な人。
今まで一緒にいた人。
神聖情愛隊に入らなければ一緒にいられた人。
あまり話せてないけど、この戦いさえなければ告白しようとしていたのに。
琉久……っ。
まだ、まだ……助けられるかもしれない!
「有限実態!」
『へー乙女のくせに戦うなんて調子乗ってんじゃね−よ』
黒恋が睨みつけてくる。
そんなの無視!睨みよりこっちの方が大事だわ!
浄化の力を想像し……放出!
「……!?」
消えなかった。
今まで触れた瞬間に瞬く間に消えた影が。
消えなかった。
『おれの悪の方が勝っているということか。まあおれは本体だしな!ははは』
「本体なの……」
今更ながら手強い敵を相手にしていると気付かされる。
本体は一番力を持っているから、私一人でどうにかなるのだろうか。
『ていうなら侵食してしまいま〜ス。この子を』
「やめて!」
跳躍力を纏い、思いっきりジャンプ。
それをバネにして蹴ってみた。
だが、逆に私が吹き飛ばされてしまった。
「いたい……」
壁に背中が激突。
一瞬息が止まるのかと思った。
はっとし、よろよろと立ち上がる。
「琉久に触るんじゃ、ない!」
バシンと攻撃をする。
今度は光線でも出して攻撃。
それが駄目なら炎か何かでも。
……全てだめなら私は肉体戦で行く!
『甘いな。弾き飛ばされているじゃないか、変なやつ』
「くっ……」
ハッキリいって衝撃がすごい。
その後もジンジン痛む。
けど、琉久が消えてしまうのと比べたら。
私はいつまでも体当たりを続ける!
「あ、い」
下の名前で呼ぶ彼を守りたい。
大切な人を守りたい。
『無駄だよ。邪魔なんだけど。失せろよ!』
黒恋がガンっと足を突き出す。
「うっ!?」
お腹につま先が命中し、痛みが息を一瞬止めにかかる。
──それだけではなかった。
体がビリビリと痺れ、弾き飛ばされ柱に激突した後は指一つも動かせなかった。
なぜか動かせない。
電流が走ったかのように固まってびくんという音ともに私は膝から崩れ落ちる。
『これで邪魔者が消えたぜ』
黒恋は琉久を闇色に変えていく。
その好きだった姿を。
アホ毛が少し生えてて可笑しかった水色の髪を!
漆黒に染め上げていく。
「やめて……!」
情けなく、弱々しい声が出る。
『ああ、雷の神聖情愛隊員を侵食しておいてよかった。お前に効いたな』
「人を、侵食して……!許せない……!」
心はこんなにも怒りで震えているのに。
立ち上がれない。足に力を入れるんだ!
立ち上がれ!
「……あい」
琉久の声が微かに耳に入る。
「神聖情愛隊として活躍してるじゃん。そんなとこが……」
ガクリと崩れ落ちた。
何が言いたかったの?
ねえ!何が言いたかったの?
せめて最後の一言だけでも……。
『愛は脆いよな』
黒恋がははっと笑う。
『お前がこいつを死ぬほど愛していても何も起きなかった。こいつは闇の中で生きるさ。現世には戻れない』
「……っ」
『お前……最後にムカつくからもう一攻撃しといてやる』
──バシュ!
何かがキラリと光った。




