十二話目 無駄でもあたしたちは神聖情愛隊なのだから誇りを賭けて戦うの!
呆然としている間にも空が闇に包まれていく。
綺麗な青空だったのに。
青から漆黒に染め上げられていく。
侵食されていく。
「本気なのかよ…」
珍しく冷静だった光が冷や汗を光らせる。
黒恋は笑い転げ、まずは学校を闇で覆い尽くす。
「やるぞ、藍、光」
凛は影を見据えると両手を前に突き出した。
『炎のやつだよな?無駄だと思うけどな〜』
「……っ」
凛は挑発に構わず全身に炎を纏わせた。
手からも炎の弾が発射される。
『お!来たな炎!』
大量な弾が黒恋を貫く──かと思った。
そして、焼け苦しむのかと思った。
『これは痺れる!』
黒恋は笑い声を上げ、わざと炎を受けた。
何か策略でもあるのか!
炎の弾を無数に受けて笑っていられる。
そして、無傷で漆黒の体を震わせていた。
「なっ……!?バケモンか、お前は!」
『ほれ、返してやる』
「ぐわ!?」
黒恋は体から炎を放出。
真っ直線に凛へ向かった。
「っ!?」
炎の風圧で吹き飛ばされる凛。
「凛!火傷は!大丈夫?!」
「炎については耐性があるから大丈夫だ…」
だが、結構衝撃のダメージはあるらしく、起き上がるのに苦戦している。
「こいつ、吸水力があるのか……」
冷静に分析をする光。
『おれが進化したのだ!おれに歯向かうのなしっ!』
闇に侵食されていく──。
「きゃあああー!」
生徒たちの悲鳴。
「うわあああぁぁぁ!?」
男子の情けない叫び声。
でも……叫びたくなるだろう。
この状況では。
『こちら神聖情愛隊本部。地球が侵食されていると…。どうぞ』
神聖情愛隊から無線が入る。
「こちらコード05。目の前に黒恋の分身がいます」
『え、黒恋……?破滅したのでは……?』
困惑した本部の声。
「分身が破滅しただけです」
『小賢しいわ…やっかい』
本部から苦悩の声が聞こえた。
そりゃそうだわ。
私だって絶望的……ここからどうしろと?
『こちら隊長。救助に参る』
隊長からの連絡で無線が切られる。
救助に来ても、無駄だと思うけど。
闇に染められている空の下で何をしろと?
「本体を攻撃するのを目指せ」
光が冷静に呟く。
しかし、少し声が震えているのが分かった。
『無駄だぞ!?ははは』
挑発し、体を広げる黒恋。
前より大きく巨大な闇に塗られた体を広げると目の前が真っ暗になる。
「──照らせ」
光が唱えると同時に周囲が明かりで照らされた。
「戦うのに、これないと不便だろ」
「う……ん」
これがあったところで勝てる見込みはないのに。
『みんな影に飲まれていく!愛は浄化する!消えろ、このクズが!』
悲鳴に響き渡り、人々が影に呑まれていく。
黒恋の分身たちが人々を吸収して成長をしている。
──何で動けないんだ。
私は神聖情愛隊なのではないのか。
守るべきだろう!守らないと!
なのに、勝つ見込みはないと諦めている。
「大丈夫ですよ!わたしたちが戦います!」
元気な声が闇の中に響き渡った。
と氷の串が影に突き刺さる。
一つの分身は消滅した。けれど、数が多すぎる。
「逃げて下さい!わたしたちが──」
「要!」
ひょいひょいとビルの間を駆けて奮闘しているのが要だとわかった。
青色の髪を風になびかせ分身を退治していく。
けれど、消えぬことはなく。
「あたしも手伝うわ!跳躍力が増すように風で補佐してあげる!」
次の瞬間、旋風が巻き起こり、要が高くジャンプをした。
「あんたたちも戦いなさい!」
ポニーテールの先輩……靡先輩がひらりと影を避け風の刃で切り刻んでいく。
「俺も戦うか」
光が目の前にいる分身に光の剣をかざした。
「お前をやっても意味がないけど……ヤラなきゃ気がすまない」
ザッと影は消え失せる。
『はは。でももう無駄だぜ……』
黒恋の声だけが響き渡る。
分身は消えてもまた増えて。
増えて──。
「無駄でもあたしたちは神聖情愛隊なのだから誇りを賭けて戦うの!」
靡先輩が大声で叫ぶ。
「負けないでよ!こんなやつにッ!」
「……そうだな」
後ろで何かがムクッと起き上がる気配がした。
「オレも気合入れさせてやるぜ!」
私の真横に火の光線?みたいなのが飛んでいく。
影に直撃。
あらあら、凛が起き上がったみたいだ。
よく起き上がれるな…そのダメージで。
さすが戦闘好きの馬鹿。
「ほらほら、みんなで対抗すんぞー‼」
『オー!』
どこからか、神聖情愛隊の声が重なって響いてくる。
靡先輩、要、光、凛、そしてみんな。
私も頑張らないと!




