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「魔力は持つ? 自由実技試験は大丈夫?」


 サラさんが質問してくる。確かに私も最初は魔力が持つか不安だった。


「そこは魔力ポーションをいただきました。手間を掛けさせたお詫びにこれで回復してって」

「あの高いやつ!?」

「あの高いやつです」


 中堅冒険者などが遠征するときに使う魔力ポーションは、私たちが気軽に手を出せる値段ではない。

 それだけに効果は高く、飲んでからまだ少ししか経っていないのに使った魔力の半分くらいは回復したように感じる。


「それなら良かったですね」


「良かったです。魔力ポーションの味も知れましたし」


「どんな味だった!?」


「苦くて渋みがあって、あまり美味しくありませんでした」


「えー、やっぱり不味いんだー」


「知ってましたか?」


「うん、入門コースのとき先生から聞いたよ」



「なんだ? 有能魔術師のたまごサマは魔力ポーションなんて飲んでるのか? 羨ましいぜ」


 他愛もない会話をしていると、どこかで聞いた男の子の声が耳に入った。


 私が魔力ポーションを飲んだことがあるというところだけ聞いていたのだろう。


「よっぽどすごい魔術が使えるんだろうな」


 試験会場に入る前に絡んできた人だ。確かトムさんと言ったか。

 同じくらいのタイミングで試験が始まったグループ同士だったので、最終試験の順番待ちでも近い位置になっていたようだ。


「シスタちゃん、あんなの無視していいよ」


「え?」


 アンさんは私に小声で囁いてくる。


「あいつ、身近に魔術師がいるシスタちゃんに嫉妬してるんだよ。あいつはあいつで可哀想でさ、お父さんが優秀な魔術師で魔術を教えてもらう約束してたのに、行方不明になっちゃったんだよね。なんでいなくなったのかは私にもわからないんだけど、心無い人たちには浮気で蒸発だとか陰口叩かれたりして」


「ああ、そんなことが。詳しいんですね」


「うん、まあ、あいつとは一応幼馴染だからさ。昔はやんちゃだったけどあんな捻くれた奴じゃなかったんだよ。お父さんがいなくなってから変わっちゃって」


 そこでアンさんは言葉を区切り、痛ましげに続ける。


「魔術が使えるようになれば落ち着いてくれるかなと思ってたんだけど、あの調子でさ。お父さんから習っていたらもっと早く魔術が使えるようになって、もっと先に進めてたはずなのにとか思ってるんだと思う。焦っても仕方ないのにね」


 だからアンさんはあの厭味(いやみ)を無視せず相手をしているのか。

 いつか曲がってしまった性格が真っ直ぐに戻ってくれると信じて。


 正直、ドカンと灸を据えられるような経験でもしない限り、あの性格は変わらなそうな気がするが。


 なんとも健気なアンさんの頭を、思わず撫でてしまう。


「えっ、ちょっと何!?」


 一瞬気持ち良さそうに目を細めたあと、すぐに動揺するアンさん。


「頑張ってくださいねの気持ちです」


「あ、あと、ありがとう」


「おい無視してんじゃねえッ!」


 私たちが仲睦まじそうに話をしていたのが良くなかったのだろう。

 蚊帳の外に置かれたトムさんは機嫌が悪そうだ。


「何! 文句あるの!?」


「ハッ! お前らが腑抜けてやがるから活を入れてやってるんだよ!」


「はあ? 活も何も、トムが喧嘩売ってきてるだけじゃん!」



 ああ、また始まったとでも言うかのようにハンナさんが頭を横に振った。私も同じ気持ちだ。


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