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─第三百九十六話─ メッキ

 ……ん?

 なんだか体が軽い。

 それに、温かい。

 手を少し動かすと、草原の感触が返ってくる。

 でも、なんか少し痛いな。

 これは……切り傷か?

 まあ、何でもいいや。

 俺はどうやら、また生き残ったらしい。

 自分で言うのもなんだが、つくづく運がいいな。

 ま、とりあえず目を開けて現状把握を……。


「あ。お兄ちゃん起きたよー!!」


 俺の顔をのぞき込んでいたツツジが、そう叫んだ。


「よっ、おはよう。ツツジ」

「おはよう。……って、そうじゃないわよ!! 心配、したんだよ?」

「悪かった。でも、あんな不意打ちは予期できないし……。……というか、誰が治してくれたんだ?」


 あれは確実に致命傷だった。

 なのに、なんで……?


「僕らが治したのさ」

「ロー……ジが?」

「お前今、名前間違えようかどうか迷っただろ!!」

「いや、そんなことよりも、お前が治したって、どういうことだよ。というか、僕ら、って言ったよな?」

「ああ。あの人の力を借りたんだ」


 そういってローズが指さした方へ視線を向ける。

 ……えっ?


「ヒュアキントスさんが助けてくれたんですか!?」

「……サントリナさんのご子息を、目の前で殺させるわけにもいかんからな」

「……ありがとうございます」


 マジで親の威光に感謝だわ。

 サンキュー、サントリナ!!


「てか、そういえばジャスミンはどこだ? 本当にが刺してきたんだったら、理由聞いた後でアイアンクローの刑に処してやりたいんだが……」

「あ、その事なんだけど……」

「それについては、俺から説明した方がいいだろう」


 そういってヒュアキントスは、ドカッと俺の横に座った。

 ……俺の方も体勢を直すか。

 手をついて起き上がり、三人全員が視界に入るような位置に移動する。

 ……やっぱり痛い。

 地面に着いた手を見ると、案の定、真っ赤な切り傷があった。


「まず最初にだが、リアトリスを刺したのは、そのジャスミンとやらではない」

「やっぱりそうか……。……もしかして、ヌカヅキですか?」

「ああ。流石に勘がいいな」


 まあ、直近で見た擬態できる奴があいつしかいなかったし。


「恐らく、俺とリアトリスが戦い始めるよりも前に入れ替わっていたのだろう」

「……ということは、ツツジが呼びに行った時には、もう……」

「その可能性が高いわね。……私があいつの擬態を見破れなかったなんて……。悔しい」

「まあ、この場にいる誰も分からなかったしな。……てか、ここにもう奴がいないってことは、取り逃がしたんですか?」

「ああ。……奴は、俺の能力を模倣していた。ゆえに、その場で捕まえることは不可能だった」

「……どういうことですか?」

「俺の能力が、そういう能力だからだ」


 軽くため息を吐き、ヒュアキントスさんは再び口を開いた。


「俺の能力は、『身代わりを作る能力』だ。俺の受けた傷はすべて、身代わりに移る。どうだ? これがヒュアキントスの無傷伝説の正体だ」

「……そうだったんですね」


 なるほど、そういう能力だったのなら、納得がいく。

 傷がつかないのではなく、つけられない。

 ……やばいくらい強い能力だな。


「……ん? ちょ、ちょっと待て!! 無傷伝説ってどういうことだ!? この人、何者なんだ!? ただの悪人じゃないのか!?」

「あれ? ツツジ、説明してなかったのか?」

「うん。とりあえず武器を持ってきて、ってだけしか言わなかったから」

「そうか。えーっと、このヒュアキントスさんは、かの有名な、先代勇者様だ」

「センダイ、ユウシャ……? せんだいゆうしゃ、先代、勇者……!? 先代勇者って、あの!? ってことは、あのヒュアキントスさんなんですか!?」

「…………ああ、そうだ。拍子抜けしたか? 呆れたか? こんな男が勇者で。そして、勇者の伝説も、能力のメッキが張られたもので」

「いやいやいや、そんなことないですよ!! なあ、リアトリス!!」

「ああ。俺も、そんなことでがっかりなんてしないですよ。それどころか、憧れがますます強くなった」

「……こんな男に憧れるな。俺は、お前らが考えているよりもくだらなく、しょうもない男だ」


 悲しげな表情を浮かべながら、ヒュアキントスは口を閉じた。


「……いかん、話が脱線したな。戻すとだな、ヌカヅキは俺の能力を持っているが故に、どんな攻撃も無意味な存在となった。……それに、奴が身代わりのストックをどれだけ持っているのか分からない以上、無理やり攻撃を仕掛けてゴリ押す、というのも現実的ではないのだ」


 ……なるほど。

 …………。


「……ストックを増やす条件とかってあるんですか?」


 それが分かれば、多少攻略のヒントになるかもしれない。


「ストックの条件、か。簡単だ。ストックにしたいもので自分の体を傷つければ、それをストックに変えられる」

「あ。だからか……」

「ん? どうかしたのか?」


 なぜか腑に落ちたような反応をしたローズに問いかける。


「いや、お前を治す時に、ジャスミンの剣で自分の手の平を切ってたんだよ。こう、ザクッと。で、その後に、お前の傷をヒュアキントスさんに移したんだ」

「……なるほどな。ようやく治療方法が分かった」


 確かに、ローズの能力だったら、ダメージや傷そのものを他人に移せる。

 ……それで俺の手が切れてたわけか。


「……てか、そんなに簡単にストック増やせるなら、やばくないですか?」

「ああ。だからこれだけ危機感を覚えておるのだ。……奴は今、ほぼ無敵な状態だ。どこにでも侵入でき、誰にでも擬態でき、人々を洗脳でき、いかなる攻撃も傷つけることができない。……正直言って、倒し方が見つからない」


 ……確かに、言語化されると相当やばいな。

 ……いや待って、マジでどうやって倒せばいいんだ、あいつ。


「……とりあえず、王城に戻りません? ジャスミンのことも探したいですし」

「ああ、そうだな。……それと、お前とは一時休戦、という形だからな。裏切った今、俺にとってもヌカヅキは敵だ。……まあ、初めからお互いに信用してなかったようだがな」

「了解です。じゃ、そういうことで。……王城に戻るぞ」

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