表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

388/439

─第三百八十二話─ 投獄

 正直言って、こいつを倒す程度、いくら魔力量が上がっているとはいえ、至極簡単だ。

 力はあるにしても、圧倒的に実践経験が少ない。

 なんというか、お坊ちゃまの戦い方、という感じなのだ。


 泥臭さがない。

 殺気がない。

 気迫がない。


 型にはまった、綺麗すぎる戦い方だ。

 それが、体に染みついてしまっているのだろう。

 だから、いくら鍛えたところで、そこそこ修羅場を潜り抜けてきたやつとは勝負にならないのだ。

 ……そして、その弱さに付け込まれてしまうのだ。


「『スラッシュ』!!」

「『相殺』」


 魔法にも慣れが見えない。

 威力が分散している。

 ゆえに、簡単に打ち消せる。


「もうそろそろ、終わりにするぞ?」

「な、なにを言って──!?」


 大量の魔力を拳に流し込み、構え、放つ。


 全力。


 俺の、本気の拳。

 恐らくこいつは、これを受け切れない。

 でも、これくらいしないとダメだ。


 でないと、こいつにかかった魔法を解けない。


「『威力上昇』」


 魔力とは別に、拳の威力をさらに上げる。

 そして──


 ──ドゴンッ!!


 強烈な音を立て、団長は背後の壁にぶつかった。


「……ふぅ」


 今ので壊れただろ。

 拳が触れた瞬間に魔力を流し、恐らくあったであろう文様をぶち壊す。

 だいぶ荒療治だったが、手ごたえもあったし、これで解決したはずだ。

 ……それに、こいつの弱点なりなんなりも少し見えた。

 指導まではいかずとも、アドバイスくらいは今度してやろっと。

 本気で殴った侘びだ。


「何事ですか!?」

「ああ、いや、その……」

「だ、団長殿!? リアトリス様、何をなさったのですか!?」

「お、王様にでも聞いてくれ!! 文様のせいっていえば分かるから!! 『移動』!!」


 衛兵たちから逃れようと、俺は能力で部屋に戻った。




 …………。


「あんた、何してんのよ?」

「うるせー。好きで入ってんじゃねえよ」


 牢の外から、ジャスミンが冷たい目を向けてくる。

 国王が起きるまでは、とりあえずここにいろ、と言われたが……。

 まあ、あれだけ役職高いやつをボコボコにする、ってのはさすがにやばかったよな。

 あの時は、一刻も早く問題を解決しようと、躍起になってたからな……。


「てか、あんたの能力なら、すぐにでも脱獄できるでしょ? わざわざ入ってるなんて、律儀ね」

「面倒ごとにしたくないだけだよ」

「自分で面倒ごとを起こしたのに?」

「違ぇって!! あれは、事情が事情だったんだってば!!」

「分かってる。文様でしょ?」

「あれ? 言ってたっけ?」

「ツツジから聞いたの。まあでも、あんまり一人で無茶しないでよ?」

「分かってるよ。なんかあったら、そん時は頼むわ」

「……全っ然分かってないじゃないの!!」


 ずいっとジャスミンの顔が牢越しに迫ってきた。


「なんかあったら、じゃないでしょ? いつでもいいから、少しでも困ったら頼りなさい!! いい!?」

「は、はい!!」

「うん、分かったならよろしい」


 満足げな表情で、ジャスミンは元の体勢に戻った。


「まあでも、国王様にちゃんと説明すれば、明日には出られるんじゃないの?」

「多分な。てか、国王にもある程度事情は説明してあるし」


 …………。


「あ!!」

「わ!! 急にどうしたの!?」


「明日、隣国の国王に会うことになってるんだった!!」


 やべっ、すっかり忘れてた!!


「なら、なおさら出してもらえるんじゃないの?」

「かもな。……でも」

「でも?」


「面倒くせぇ!!」


 心の底からの叫びが、地価牢中にこだました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ