─第三百八十二話─ 投獄
正直言って、こいつを倒す程度、いくら魔力量が上がっているとはいえ、至極簡単だ。
力はあるにしても、圧倒的に実践経験が少ない。
なんというか、お坊ちゃまの戦い方、という感じなのだ。
泥臭さがない。
殺気がない。
気迫がない。
型にはまった、綺麗すぎる戦い方だ。
それが、体に染みついてしまっているのだろう。
だから、いくら鍛えたところで、そこそこ修羅場を潜り抜けてきたやつとは勝負にならないのだ。
……そして、その弱さに付け込まれてしまうのだ。
「『スラッシュ』!!」
「『相殺』」
魔法にも慣れが見えない。
威力が分散している。
ゆえに、簡単に打ち消せる。
「もうそろそろ、終わりにするぞ?」
「な、なにを言って──!?」
大量の魔力を拳に流し込み、構え、放つ。
全力。
俺の、本気の拳。
恐らくこいつは、これを受け切れない。
でも、これくらいしないとダメだ。
でないと、こいつにかかった魔法を解けない。
「『威力上昇』」
魔力とは別に、拳の威力をさらに上げる。
そして──
──ドゴンッ!!
強烈な音を立て、団長は背後の壁にぶつかった。
「……ふぅ」
今ので壊れただろ。
拳が触れた瞬間に魔力を流し、恐らくあったであろう文様をぶち壊す。
だいぶ荒療治だったが、手ごたえもあったし、これで解決したはずだ。
……それに、こいつの弱点なりなんなりも少し見えた。
指導まではいかずとも、アドバイスくらいは今度してやろっと。
本気で殴った侘びだ。
「何事ですか!?」
「ああ、いや、その……」
「だ、団長殿!? リアトリス様、何をなさったのですか!?」
「お、王様にでも聞いてくれ!! 文様のせいっていえば分かるから!! 『移動』!!」
衛兵たちから逃れようと、俺は能力で部屋に戻った。
…………。
「あんた、何してんのよ?」
「うるせー。好きで入ってんじゃねえよ」
牢の外から、ジャスミンが冷たい目を向けてくる。
国王が起きるまでは、とりあえずここにいろ、と言われたが……。
まあ、あれだけ役職高いやつをボコボコにする、ってのはさすがにやばかったよな。
あの時は、一刻も早く問題を解決しようと、躍起になってたからな……。
「てか、あんたの能力なら、すぐにでも脱獄できるでしょ? わざわざ入ってるなんて、律儀ね」
「面倒ごとにしたくないだけだよ」
「自分で面倒ごとを起こしたのに?」
「違ぇって!! あれは、事情が事情だったんだってば!!」
「分かってる。文様でしょ?」
「あれ? 言ってたっけ?」
「ツツジから聞いたの。まあでも、あんまり一人で無茶しないでよ?」
「分かってるよ。なんかあったら、そん時は頼むわ」
「……全っ然分かってないじゃないの!!」
ずいっとジャスミンの顔が牢越しに迫ってきた。
「なんかあったら、じゃないでしょ? いつでもいいから、少しでも困ったら頼りなさい!! いい!?」
「は、はい!!」
「うん、分かったならよろしい」
満足げな表情で、ジャスミンは元の体勢に戻った。
「まあでも、国王様にちゃんと説明すれば、明日には出られるんじゃないの?」
「多分な。てか、国王にもある程度事情は説明してあるし」
…………。
「あ!!」
「わ!! 急にどうしたの!?」
「明日、隣国の国王に会うことになってるんだった!!」
やべっ、すっかり忘れてた!!
「なら、なおさら出してもらえるんじゃないの?」
「かもな。……でも」
「でも?」
「面倒くせぇ!!」
心の底からの叫びが、地価牢中にこだました。




