―第三百五十四話― もうちょっと
闇雲に突っ込んでも、リアには勝てない。
さっきまでみたいに、受け流され続けるだけだ。
だからと言って、頭を使って戦うのも得意じゃない。
……じゃあ、どうするんだ?
考えろ、私。
能力を使ってる今、身体能力も、魔力も、普段とは桁違いになっている。
じゃあ、それを活かすしかないでしょ。
でも、これだけ強化された身体でも、今のリアとほぼ互角。
…………。
……よし、決めた。
右腕を前に出し、魔力を集中させる。
そして――
「『ライトニング』!!」
「《斬撃》!!」
爆風に髪が大きく揺れる。
……結論は、最初から出てたじゃない。
私は、考えたってしょうがないんだ。
だったら、闇雲に突っ込むしかない。
リアに勝てるまで、ひたすらに、まっすぐに。
幾らリアとはいえ、魔力切れ、体力切れはいつか訪れる。
でも今の私は、マリーのおかげで魔力も体力もほぼ無尽蔵なのだ。
だったら、リアが疲れて隙を見せるまで、ただひたすらに攻撃し続ければいい。
だからと言って、こっちも集中を切らしてはいけない。
こっちが隙を見せれば、リアが、来る。
だから、一発一発、本気の魔法を撃ちこむんだ!!
「『ホロー』!!」
「《切断》!!」
「『スイッチ』!! 『ディスチャージ』!!」
「《防御》!!」
リアの動きを、よく見ろ。
隙を見つけろ。
いや、隙じゃなくてもいい。
ほんの少しでも、違和感を見つけるんだ。
きっと、そここそが弱点だ。
今までの記憶も総動員しろ。
リアの動き方は?
魔力の動きは?
癖は?
些細な情報でも良い、なにか見つけ出せ!!
「『ライトニング』!!」
「《吸収》!!」
「『スイッチ』!!」
「《防御》!!」
リアの魔力に蹴りがぶつかり、鈍い音が響いた。
……痛い。
骨折はしていないと思うが、それでも、めちゃくちゃ痛い。
……でも、耐えろ。
もうちょっと、もうちょっとなんだ。
もうちょっとで、なにかが掴める気がする。
「『ストライク』!!」
「《斬撃》!!」
もう、ちょっと……!!
「《殴打》!!」
……あっ。
反応が、一瞬だけ遅れてしまった。
――ミシッ。
咄嗟に構えた腕に拳が刺さった。
その瞬間、後方へ大きく飛ばされ、体が二、三度地面を跳ねた。
……いくらなんでも、闇雲過ぎたな。
完全にへし折られた右腕にヒールを掛けながら、なんとか立ち上がる。
……でも、少しだけ、分かった。
癖とも呼べぬ、とても小さな取っ掛かり。
それを、ようやく見つけた。
……実践、してみるか。
「『スイッチ』」
地面を蹴り、どんどんとリアに近づいていく。
リアの方も、ぐっと腰を落とし、次の攻撃に備えている。
……もうちょっと。
もうちょっとで、間合いだ。
あと三歩。
二歩。
……一歩!!
……リアの戦いは、何度も見てきた。
誰よりも傍で、誰よりも多く。
だからこそ、ほんの僅かな違和感にも気付けた。
これまでの経験が、知識が、記憶が実を結んだんだ。
……でもね、まだ足りないの。
私には、まだまだあなたが必要です。
ずっとだなんて言いません。
でも。
……でも。
もうちょっとだけ、隣にいさせてください。
「《防――」
「『ライトニング』!!」




