―第三百二十七話― 情報
「『修復』」
「『リペア』」
へこんだ床に向け、二人同時に魔法と能力を使った。
……流石俺たち、一瞬で床が直ったぜ。
「……ふむ。先ほども思ったが、能力の精度が上がっているな」
「そうか? まあ、多少修行もしたしな」
「なるほど、なるほど……。……益々、次戦うのが楽しみになってきた」
次もなにも、俺はもう冒険者として戦うつもりないんだけどな。
「つーか、早く宿に戻りたいから、話すならささっと話せ」
「ああ、そうだったな。……なぁ、リアトリスよ。改めて聞くが、サンビルに戻るつもりはないのだな?」
「ない」
即答した。
こればっかりは、もうどうしようもない。
サンビルにいること自体が、俺にとって苦痛でしかなかったのだ。
「ふむ、やはりそうか……。であれば、さほど関係のない話かもしれんな。聞き流しでよい」
「あっそ。じゃ、そうさせてもらうぜ」
そう言って俺は、未だ転がったままのアルネブの方に向かった。
……本当に死んでないんだろうな?
「この話は、本来であれば、魔王軍内の機密情報であるから、貴様にしゃべるわけにはいかんのだが、今回だけ、今回だけ特別だぞ?」
「はいはい。ほとんど聞いてないから、安心しろ」
「うむ、分かった。……実はだな、現在、魔王軍はとある街に攻め込もうと画策しておるのだ」
あ、アルネブの欠片がちょっとずつ動き出した。
良かった、修復が始まったっぽいな。
……能力使ったら、もうちょい早くなんないかな。
「その計画の中心となっているのは、セルバンテスだ。貴様も知っているだろう?」
「あー、うん」
スライムに能力を使うとしたら、『回復』と『修復』のどっちが良いんだろうか。
まあ、作用はあんまり変わんなさそうだけど。
……『回復』にするか。
「奴は既に、標的となっている街に向かって、数十万にも及ぶ兵を送り込んだ。俺も送るように言われたが、興味がなかったから、断った」
「へー。……『回復』」
アルネブの頭部に手をかざし、能力を発動した。
すると、アルネブの体が淡い光に包まれ、ゆっくりだった欠片の動きが段々速くなっていった。
よっしゃ、大当たり。
「このままいけば、その街は壊滅状態になるであろう。多少腕の立つ冒険者や騎士もいるようだが、それでも、敵わんだろうな」
おっ、アルネブの胸の中心辺りが光り出した!
これってもしかして、全快の兆しなのでは!?
「……リアトリスよ。必死に聞かないふりをしているようだが、無駄だぞ」
「……何のことか、さっぱりだが?」
「リアトリス、もう察しがついているのだろう? 魔王軍が標的とした街が、どこなのか」
「…………」
「明日の日没、サンビルに数十万の兵が送り込まれる。セルバンテスが言うには、そこそこの出来の兵だそうだ。それでも、一国の軍事力に匹敵するだろう」
「…………あっそ。だから、それがどうしたって……」
「俺の見立てでは、三日以内にサンビルは堕ちる。そうなれば、冒険者も市民も関係なく虐殺されるだろう」
「…………」
「その中には、もちろん貴様の仲間も含まれるからな」
「……あいつらは負けない」
「いいや、負ける。……もう一つだけ、貴様に情報をやろう。現在、サンビル内で何かが暴れまわっている。そして、そやつの影響で、サンビルの住民は皆意識を失っている状態だ」
ああ、俺の結界を壊した奴か。
……なるほど、それはちょっとだけまずいかもな。
「今のところ、ジャスミンは意識を失っていないようだが、どちらにせよ、ジャスミン一人では数十万の軍など相手に出来まい」
「……まあ、それはそうだな」
あいつも強いが、それでも限界がある。
……最悪、能力でどうにかできるかもしれないが、あれだけ粗削りな能力だとな……。
「もう一度言うが、軍が到着するのは明日の日没だ。それまでに、どうするか考えておけ」
「……どうするって、どういうことだ?」
「さあな。俺がこれだけきっかけをやったんだ。答えくらい、自分で導け」
「チェッ、ケチ」
「ケチで結構。……長居しすぎたな。用も済んだし、俺はもう帰るぞ」
「おう。じゃ、今度は一緒に飲もうぜ」
「貴様の答え、楽しみにしているぞ。……俺をがっかりさせてくれるなよ?」
……ハァ。
去り際に殺気を放ちまくるんじゃねえよ。
「……あ、そうだ。リアトリス、アルネブとツツジをよろしくな。腐っても、奴らは俺の弟子だ」
「……おう、分かった」
俺の返事に安心した様子で、シリウスは扉を開き、そして、一瞬にして姿を消した。




