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―第三百十四話— 取引を

「ぜ―、ぜー……」


 まったく見つからない!!

 街中駆けまわったのに、本当に見つからないんだけど!?


『鬼さんこちら、手のなるほうへ』

「あんた、さっきから、その煽りは、なんなのよ!!」

『ふふっ、楽しいでしょう?』

「楽しくない!!」


 あー、マジでムカついてきた。


「せめて、場所くらいは教えなさいよ!! どんな魔法を使ってるのか知らないけど、声だけなんて卑怯よ!!」

『声だけじゃないのになぁ……。じゃあ、ヒント。私は、どこにでもいるのよ』


 ……どういう意味かは分からないが、バカにされてるような気がする。

 というか、笑いを含みながら言ってるから、絶対にバカにしてる!!


「………ハァ。もう、いいわ。私、帰るから」

『えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!! 本当に? 本当に帰っちゃうの?』

「そうよ。もう、疲れちゃったの。それじゃ、また暇があったら、遊んであげるわ」

『……えい!』

「痛っ!?」


 へっ!?

 今、思い切り、後頭部を殴られたんだけど!?

 ……よくよく考えれば、剣を盗んだわけだから、実体はあるのか……?

 でも、幾ら追いかけても、姿は見えない……。

 ……頭がこんがらがってきた。


『私と遊ばないなら、剣も返さないわよ?』

「そ、それは……。……じゃあ、明日、また遊びましょう? それまで、私の剣は預けておくから(・・・・・・・)

『預ける? 何を言ってるの?』

「あんたを信用(・・)して、預けるって言ってるの。その代わり、私は絶対に、明日も遊びに来る。そういう取引をしたいの」

『取引、ねぇ……。……私相手に……。……ふふっ、いいわ、受けて立とうじゃないの。明日、絶対に来なさいよ?』

「言われなくても、分かってるわよ。剣はなんとしても取り戻したいし」

『ふふっ。ならいいわ。じゃあ、明日を楽しみにしてるわね』


 その瞬間、再び、目の前から誰かが消えるような感覚が来た。

 ……帰ったのか。

 …………ふぅ。


「上手くいった……!」


 一人、ガッツポーズをとってしまう。

 まさか、あそこまで上手くいくとは。

 遊びを明日に引き延ばせたおかげで、こっちは、相手の正体を解き明かす時間が生まれた。

 このまま、一晩中に暴いて見せるわよ!!

 ……あれ、一晩中?

 たった、一晩?

 …………。


「無理でしょ」


 愕然とし、膝から崩れ落ちてしまう。

 リアなら分からないが、私が、一晩で、謎を解くだなんて、不可能だ。

 ……ま、まあ、多少は、時間の猶予が生まれたってことで……。

 ポジティブに考えなきゃね!!


「……ハァ」


 頑張らないとだ……。

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