―第二百八十六話― 凄惨
えぐいシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
一瞬にして、戦場は地獄と化した。
体のパーツというパーツがぐちゃぐちゃに入れ替わった魔物、全身が真っ黒に変色した魔物、発火しだした魔物、石化した魔物、ただの肉片と化した魔物……。
ありとあらゆる場所で、魔物が凄惨な状態になっていた。
…………。
……絶句するしかない。
やり過ぎた。
というか、リリーの魔力が強すぎた。
俺やルビーの魔力を使ったところで、ここまで酷い事にはなっていなかったはずだ。
「う、うえっ……!!」
やばい。
今になって、呪いの反動が来た。
呪縛だけでもやばいのに、呪詛とか言う訳分からんものまで使ったからな……。
あとで、どうにかしないと……。
「リ、リア。大丈夫……?」
「……ギリギリ」
「と、とりあえず、街に戻りましょう。魔物は……、もう、みんな死んだっぽいし」
「う、うん……」
視界がぐわんぐわんする。
頭も痛い。
…………。
「え? リア? リア!?」
声を出す間もなく、俺は血で湿っている地面の上に倒れた。
いつも通りの真っ白の部屋の真ん中。
そこには、静かに怒っているルビーと、見るからに不機嫌なリリーが立っていた。
「……やり過ぎ」
「はい。すみません」
今回ばかりは、素直に土下座した。
「まさか、リリーの魔力を使って呪うだなんて……。僕でも、そんなことしないよ? 死にたくないし」
「えっ、死ぬの?」
「最悪ね。反動がでかすぎるから」
「……マジで?」
「マジ」
…………。
俺は再び、地面に頭を擦り付けた。
「まあ、リアトリスさんくらい魔力操作が上手な方なら、そう簡単には死なないと思いますけど。それでも、危険であることには変わりないですからね」
「はい、すみません」
「というか、リリーもリリーで、ジャスミンちゃんに魔力渡し過ぎだから。なにをどうしたら、あんな魔力を渡せるの?」
「血を数滴飲ませました」
「「は!?」」
「私の血は、一滴だけでも上質な呪いの材料になりますから。それを直接飲ませれば、あの結界くらいなら楽々破壊できるようになるかな、と」
「……リリーも土下座する?」
「やらせたいなら、力づくでどうぞ」
「……遠慮しとく。俺もまだ命が惜しい」
「いやいや、流石に命までは取りませんよ。命までは、ね?」
怖い、怖すぎますよ、リリーさん。
顔は笑ってるけど、目の奥が笑ってませんよ。
「あ、そうだ。リアトリスさん。起きたら少しやって頂きたいことがあるんですが、いいですか?」
「なんですか?」
「魔物の死体を、片づけておいてください。あれだけ強い魔力を帯びた呪いは、普通の人だと、触れただけでも呪われてしまうんですよ。なので、リアトリスさんが能力でちゃちゃっと片づけてください」
「あ、分かりました」
「ありがとうございます。空間に残留したままの呪いとかは、私たちで片づけますので」
「もしかして、俺、参加必須?」
「当然です」
「いやだああああ!! 呪いの処理って、死ぬほどめんどいんだぞ!?」
「どうせ、数十秒で終わるじゃないですか」
「だとしても、魔力がかなり削れるんだよ!!」
「知りません」
「ちくしょう!!」
「じゃあ、死体の処理、お願いしますね?」
「はい」
「それでは、また今度、お会いしましょうね」
絶望しきったルビーの横で、リリーが小さく指を鳴らした。




