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―第二百六十五話― 一発芸

 ――グビッ、グビッ。


「「「プハァーッ!!」」」


 あー、生きかえる。

 居酒屋で飲むのも良いが、こうして家で飲むのもいいなあ。


「にしても、本当に驚いたよ。三人とも、こんなに強くなれるなんてなあ……」

「それもこれも、リアトリスさんのおかげっすよ!」


 酒で頬を火照らせたシーボルディが、そんなことを言う。


「いや、普通にみんなの努力の賜物だよ。というか、今日まで俺、全然関わってなかったし」

「それでも、私達が頑張れたのは、リアトリスさんが目標として居たからですよ」

「自分たちだけだったら、あのまま特に努力もせず、ぐだぐだと冒険者をやってるだけだったと思います」


 変に褒められると、お腹の辺りがぞわぞわする。

 ほんとに俺、なんもしてないからなあ……。


「まあ、そんなのはどうだっていいんだ。とりあえず、もっと飲もうぜ! 今日はなんだか楽しいや!!」


 少し大きめの笑い声を上げながら、俺はそう叫んだ。




 酔いもだいぶ回り始め、飲み始めた頃にはまだ茜色だった外も、すっかり暗くなってきた。

 うーん、そろそろお開きか……?

 いや、まだ皆行けそうだな。

 なんかしなきゃいけないことがあったような気もするが……。

 ま、いっか!


「リアトリスさん、さっきの芸、もう一回やってくださいよー!!」

「あっ、私もみたいです!!」

「じ、自分も……」

「おう、いいぜ。『浮遊』!!」


 その辺に転がっていた皿に手をかざし、能力で頭上まで浮かせてくるくると回転させる。

 ……よし、今だ!


「ほっ! とっ! やっ!! 『固定』!!」


 手元にあった豆を回転する皿に十個ほど投げ入れ、能力で位置を固定した。

 よし、これでできたはず。

 皿の回転を止め、手のひらまで皿を動かし……!


「「「おおー!!」」」


 よし、成功!!

 皿の上には、十個の豆が円を描くように等間隔で並んでいた。

 うんうん、いい感じに盛り上がったな。

 この間、三時間以上練習した甲斐があったぜ!


「よーし、気分も良くなってきたし、酒でも飲むか!!」


 もはや何杯目になるか分からない酒をコップに注ぎ、一気に飲み干した。


「あー、うめえ。これからしばらく酒も飲めねえと考えると、なおのこと、美味く感じるぜ」

「リアトリスさん、禁酒でもするんですか?」


 ミラビリスの奴、こんだけ飲んでまだ顔色が変わってないって、相当酒強いんだな……。

 ヒック!


「いやさ、さっき思い出したんだけど、今日から一週間くらい、めっちゃ忙しくなるんだよ。その上、修行とかもしなきゃいけないから、酒もしばらく断とうと思ってな」

「忙しくなるって、何かあるんすか?」

「ああ。一週間後に、魔王軍が攻めてくるからさ。それの防衛の作戦とか、い、色々考えて、俺もできる限り修行をしよ、う、と……」


 喋りながら、少しずつ酔いが醒めてきた。

 そうだ、こんなことせずに、作戦を考えないと……!

 というか、ちょっと待て!!


「リアトリスさん。その話、本当ですか?」

「私たち、何も聞いてないんですけど」

「あー、いや、その……」

「自分たちにも話せないくらい、危険なんですか?」


 ……今更誤魔化しようがねえよな。


「まあ、攻めに来るってのは、本当だ。でも、安心してくれ!! 俺たちの方で、なんとかするから。うん、大丈夫だから」

「水臭いっすよ!!」


 ダン、と酒の入ったコップを叩きつけ、シーボルディが叫んだ。


「なんですか、俺たちが弱小だから、気付かれないように事を済ませようとしてるんすか!? 馬鹿にしないでくらさいよ!! 俺たちだって、頑張えば……」


 そこまで言って、シーボルディは倒れるように寝込んだ。

 随分と悪酔いしてんなあ、おい。

 あーあー、いびきまでかいてんじゃねえか。


「……とりあえず、シーボルディをベッドに運んでくる。どうする? アスターたちも、今日は泊ってくか?」

「あー、えーっと……。すみません、お願いしてもいいですか? シーボルディの事も気になるんで……」

「自分も、お願いします」

「了解。後で、部屋はあてがうから。……それと、出来れば、さっき口を滑らせたことは忘れてほしい」


 忘れてくれ、と言われて忘れられるような内容でもないかもしれないが……。

 でも、なるべく、他の奴は巻き込みたくないからな。

 そう思いながら、俺はシーボルディを背に担いだ。

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