―第二百三十八話― 滑落
ワイバーンって、こんなに綺麗に穴掘れるんだ。
物凄い速度で巣穴を滑り落ちながら、俺はそんなことを考えていた。
「……ま、そんなわけないか」
壁面に手をやり、そう確信する。
薄っすらとだが、魔力が張られている。
別にこいつらが穴を掘るのが上手いわけではなく、魔法をかけることで、アリジゴクのような形で侵入者を退治しようというわけか。
「全員、その場で待機!!」
滑り落ちながらなのでガタンガタンなりながらも、なんとか指示を出す。
多分、このくらいの魔法なら簡単に外せる。
いや、今の状況ではさすがに無理だがな?
だから、とりあえずは下に到達するのを待つだけ……。
……だめだ、そんな時間なかった。
小型のワイバーンが、こちらに向かって飛んできた。
さて、どうしようか……。
……って、あっ!
「『移動』!!」
パッと能力を使い、ジャスミンたちのそばに戻る。
標的を見失ったワイバーンどもは、どうすればいいのか分からない、といった感じだな。
……今の今まで能力を使えることを忘れていたのは内緒だ。
「リア、大丈夫!?」
「おう、なんとかな」
「まさか、お前が落ちるとはな」
くそっ、ローズの奴、ニヤニヤしやがって……!!
「巣穴の表面に、薄くだが魔法、もしくは結界が張られてある。まずはそれの解除からだな」
「でも、このメンバーにそういう系の役職っていなくない?」
「クラッスラ、あまり俺の能力を舐めてくれるなよ?」
巣穴に手を添え、指先から魔力を流す。
「『解除』!!」
巣穴全体から、バリンとガラスの割れるような音が鳴る。
「ふぅ、これでよし」
「……えっ、マジで!?」
「ああ。というか、ローズも同じようなことできるんじゃないか?」
「まあ、そうだな。能力の流し方次第で、完全に打ち消したりもできるし」
「……ジャスミン、こいつら怖いんだけど」
本当に怯えた表情でこっちを見てきやがる。
というか、俺らよりも、ジャスミンの能力の方がヤバいんだぞ。
「というか、そんなことしてる場合じゃなかった。お前ら、行くぞ!!」
短剣を構え、巣穴を覗き込む。
今度はあんなへましないぞ……!
「じゃ、また下で。『移動』」
「……えっ?」
万が一を考え、能力で下まで降りる。
驚いた表情のクラッスラを連れて。
「おお、間近で見ると、迫力がすごいな!!」
中型のワイバーンが、威嚇するようにこちらを覗き込んできている。
へえー、やっぱ、図鑑で見るよりもいいな。
「いや、なんであたしだけ連れてきたの!?」
「今回は、お前を働かせたいがための冒険なんだ。付き合え!!」
「……ったく、分かったよ!!」
長い槍を器用に扱い、綺麗な構えを作る。
サントリナに頼んでもらってきたやつだが、かなり相性良さそうだな。
「それじゃ、いくぞ!!」




