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―第二百二十六話― クラッスラ

「……で、その友達とやらはどこにいるんだ?」


 キョロキョロと首を動かしながら、ジャスミンに問う。


「ええっと、私の家、だけど……」

「……え、マジ?」

「うん、この間から泊まってるから」


 ……なるほど……。


「鍵、開けてもらってもいいか?」

「あ、うん。…………これでいい?」

「ああ。……入るぞ?」

「うん……」


 お邪魔します、と小さく呟き、家の中に入る。

 ……確かに、ジャスミンの靴以外にもう一足あるな。


「あれ、お客さん? ……って、あ!!」


 唐突に響いてきた声に、パッと視線を上げる。

 そこにいたのは、ボーイッシュな感じの少女。

 ……というか、どこかで顔を見たことがあるような……。


「あんた、ガーデニア……じゃなくて、リアトリスさんでしょ!?」

「……ああ、そうだけど……」


 何でその名前を知ってるんだ?


「あたし、クラッスラって言うんだけど、覚えてない?」

「……ああ!! アマリリスと戦った!」

「そうそう! それで、なんであんたみたいな人間がここに?」

「いや、ちょいとばかしジャスミンの悪友に説教してやろうと思ったんだが……」

「悪友って、あたしのこと?」

「まあ、多分そうなるかな……」


 というか、本当は悪い男かなんかに引っかかってるのかと思ってたんだけどな。

 それも、薬草を食べようとする、酔狂なタイプの。


「リア、そんなつもりで来たの!?」

「話を聞く限り、ろくでもなさそうだったし」

「まあ、否定はしないよ。実際、ギャンブルのし過ぎで借金背負って、首が回らなくなったからここに来たんだし」

「で、でも、泊めたのは私の意思だからね!?」


 んま、だろうな。

 こいつ、男女関係なしにダメな奴に絡まれそうだし、乗っかりそうだし。

 お、俺はダメな奴に入らないからな!?


「というか、なんでわざわざ薬草を?」

「いやー、薬草だったら、自分の腹が減ったときにも食べられそうだし、いざという時には、新米冒険者辺りに教えて、授業料を取れるかなー、なんて……」


 俺の冷え切った視線に気が付いたのか、段々と語気が弱まってきた。


「はぁ……。そんなことせずとも、あの大会に出れるくらいだったら、少し冒険すれば金稼げるだろ?」

「まあ、そうなんだけどさ。面倒くさいじゃん? 分からない?」

「いや、物凄ーく分かる」

「リア!?」

「ジャスミンも知っての通り、俺だって、出来ることなら働きたくない。でもなあ、借金はやばいだろ……」

「うーん、そうなんだけどさあ……。というか、家も家財も装備も、なんもかんも差し押さえられてるし、今更なんだよなあ……」


 行くとこまで行ってんなあ、おい。


「……はぁ。で、ジャスミンのところには、いつまでいる予定なんだ? いや、それよりも、というか、なんでここに来たんだ?」

「借金取りから逃げてたら、そのままこの街に来ちゃって、あ、ここジャスミンが住んでるじゃん、って」

「……ジャスミン、お前もつくづく運がねえよなあ……」

「いやでも、クラッスラちゃんがいると、苦手な家事とかもしてくれるし、話しもしてくれたりで楽しいよ?」


 こいつ、将来ダメな男に引っかかりそう。

 というか、絶対に引っかかるな。


「……ジャスミン、まさかだけど、こいつに金貸したりしてないよな?」

「えっ、なんで分かったの!?」


 貸したのかー……。


「……クラッスラ。お前、ジャスミンのヒモにでもなるつもりか?」

「いや、そんなつもりは……」

「いいか?」


 若干強い口調で、俺は叫んだ。


「元祖ジャスミンのヒモは俺だからな!?」

「あんたは何を口走ってんの!?」


 大体、俺は能力を隠してた頃から、ずっとジャスミンのヒモなんだ。

 この座を譲る気はないぞ!


「……あんたも随分なクズだね」

「お前に言われたかねえよ」

「どっちもどっちだから、安心しなさい」


 ひでえな、おい。

 否定はしないが。


「というか、ずっと玄関で立ちっぱなしってのもなんだし、中に入らない? 私、お茶入れるから」


 そう言ってジャスミンは、トテトテと台所の方へ走っていった。

 …………。

 ジャスミンの後姿を見送った俺たちは、互いに顔を見合わせ、すごすごとリビングの方へ足を運んだ。

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