―第二百七話— 最強と最弱
短剣を抜き放ち、静かに構える。
……昼間、ジャスミンにあれだけ応援してもらったんだ。
大丈夫、いける。
…………。
「あ、身体強化忘れたんで、少し良いですか?」
「…………」
締まらねえな、などと呟きながら、ルビーが首を縦に振った。
今度こそ、準備万端。
再び短剣を構え直し、ルビーに視線を向ける。
「……いつでもどうぞ」
「なら、遠慮なく……!」
ルビーに向かって、一直線で走る。
……下手に能力を使うよりも、こっちのほうが良いはず……!
「『威力上昇』!!」
「《防御》」
短剣を持っている方の腕を狙って、拳を思い切り振る。
が、易々と止められてしまった。
……計算通り……!
「『移動』」
ルビーの真後ろに回り込み、蹴りを入れる。
……よし、クリーンヒット!
「《威力上昇》」
「『移動』!!」
ヒュッと音を立て、ルビーの拳が空を切る。
……危ねえ、ギリギリ避けられた……。
「《移動》」
「……! 『防御』!!」
一瞬で距離を詰められ、そのままの勢いで蹴りが飛んでくる。
だがそれも、なんとか受け切れた……?
「うぐっ……!」
……威力高すぎるだろ……!!
って、まずい!!
――キンッ!!
涼しい音を立て、短剣同士がぶつかり合う。
……重たっ……!
この野郎!!
「『斬撃』!!」
短剣に魔力を流し、ルビーの手ごと弾き飛ばす。
……チャンス……!!
「『爆発』!!」
「《防御》!!」
ルビーの腹に拳を叩きこみ、そのまま軽めの爆発を起こした。
ダメージ自体はなさそうだが、それでも十分に距離は開いた……!
「『コメット』!!」
放出された魔力塊が、地面を抉るようにして飛ぶ。
結構な量の魔力を籠めたし、次の作戦の準備を……!?
「《斬》!!」
ルビーの声と同時に魔力塊が半分に割れ、、とてつもない速度の斬撃が飛んできた。
……まずい!
「『移動』!!」
先程まで俺のいた場所の地面が、パックリと割れた。
……だから、威力どうなってんだよ、おい!
「……ったく、やっぱ君は、とんでもないな……」
背後から聞こえてきた、ルビーの声。
反射的に短剣を振るうも、何の手応えも返ってこなかった。
「《威力上昇》!!」
「……ぐっ……!!」
背中に、ドンと大きな衝撃を加えられる。
……やばい、骨が三本くらい折れた……。
「ほら、もう一発……!」
ルビーがこぶしを振りかぶったのが見えた。
……まずい、また負けてしまう……。
……くそっ……!
それは嫌だ……!
「《移動》!!」
能力を使った、その一瞬。
俺は、世界の時間が止まったような感覚に襲われた。
そして、次の瞬間。
「!?」
気づけば俺は、ルビーから遠く離れた場所にいた。
……そんなに魔力使ってないのに、なぜだ……!?
いや、そんなことはどうだっていい。
とりあえず、このチャンスを活かさねば……!
全身の魔力を一気に開放し、能力の準備を整える。
……よし。
大きく息を吸い、魔力とともに大きく吐き出した――!
「《爆発》!!」




