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―幕間― 心の中

 ……ようやく成功したか。

 この俺、メイサは一度リアトリスによって殺されたが、奥の手で残していた魔法によってリアトリスの心の中に潜り込んでいた。


「にしても、いつ見ても気味が悪いな、この場所は」


 どこを見ても、白か黒しかないモノクロの世界。

 あいつの心は、いったいどれだけ殺伐としているのだ。




 さて、能力のほうは壊し終わったし、次はどこを壊すとしようか。

 俺は、狩人だ。

 そのプライドにかけ、奴に絶望を捧げよう。

 そして最後には、内側から少しづつ痛めつけ……。


「お、いたいた。おかしいと思ったんだよね」


 突如、背後から声が響く。

 ここには、俺以外に誰もいないはず。


「誰だ、貴様!」


 後ろを振り向くと、赤い服に短パンという、奇妙な服装をした男が立っていた。


「ん? 僕? 僕は、リアトリス君たちのガーディアンさ」


 ガーディアン?

 何を言っているのだ、こいつは。


「お前、悪魔族だろ」

「……ああ。同時に、オーガ族でもあるがな」


 俺は、母が悪魔族、父がオーガの、所謂ハーフ種という奴だ。


「なるほど、だから気配が探りずらかったのか。純正種だったら、それなりに大きな気配を発しているから、すぐに見つけられるんだがな」

「狩人にはもってこいだろ?」

「それで、一応聞いておくが、リアトリスの能力がおかしくなったのは、お前のせいだな?」

「だったらどうした?」

「……いいや、単純に俺が気兼ねなく殺せるようになっただけだ」


 そう言って、その男は準備運動をするかのように手を振り始めた。

 するとそこに、短剣が現れた……!


「そ、それは……!」

「一応、神器だよ。って、そっちにも幾つかあったし、気配でわかるか」


 奴の強さが分からない以上、迂闊に動くことはできない。

 だったら!


「おや、かくれんぼでもするつもりかい? それとも、鬼ごっこかな?」


 煙幕を張ったうえに、全力で気配を消した俺は、たとえリアトリスであろうと見つけることは不可能。

 どれほど実力があろうと、これならば見つかることは絶対にない。


「もういいかい?」


 どこからか楽しげな声が響いてきた。

 なんなんだ、奴は。


「それじゃあ、お楽しみの時間だ」


 は?

 奴は何を言っているのだ?


「みーつけた!」


 俺の肩に何かが乗る。

 これは……、奴の腕か?

 何が起こった!?

 先ほどまで、この周辺には一切気配がなかった。


「久しぶりの戦闘なんだ。頑張って耐えてね」

「ゴハッ!!」


 腹部に鈍い衝撃が与えられる。


「おいおい、それで本当に魔王軍幹部か?」

「貴様!!」


 リアトリスに殺された鬱憤もあり、怒りが限界に達した俺は、本気の拳を繰り出す。

 何十発、何百発という拳を、奴は華麗にいなし続けてくる。


「クソッ!!」

「力に極振りしすぎなんだよ。こういうのは、もっとスマートにやるんだ。こんなふうにな」


 そう言って奴は、顔面に向かってカウンターを放ってきた。

 それをもろに受け、一瞬意識が飛ぶ。


「それ、ワン、ツー、ワン、ツー」


 奴の拳は、俺の速度などゆうに超えていた。

 こんなの、避けきれるわけがない。

 全身に攻撃を受け、いくつかの骨にひびが入ってきた。


「……さてと、準備運動はこのくらいかな」

「な!? これが、準備運動だと!?」

「ああ。ここからは、俺も本気で行かせてもらうぜ」


 その瞬間、空気が一気に重苦しくなった。

 このプレッシャーは、リアトリスと対峙した時とは比べ物にならないレベルだ。


「ほら、君も見たことのある技だぜ」


 な、何をするつもりかはわからんが、明らかにやばい。


「《切断》」


 その言葉とともに、奴の腕が一瞬だけぶれる。

 その直後、ドサッという音が真横から聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、俺の腕が落ちていた。


「う、うわぁぁぁぁぁあああああ!!」

「おい、その程度で悲鳴を上げるなよ。次は、それどころじゃなくなるぜ」


 こいつ、今の一瞬だけで腕を切ったのか?

 それに、奴が放った“切断”という言葉は、リアトリスが戦闘時に使うものと同じだ。

 いったいどういう事だ!?


「おい、戦闘中に考え事をすんなよ」


 今度は、後ろから声が響いてきた。


「ほら、チャンスをやるよ。今から、十秒だけ時間をやる。その間、自由に逃げ回ってみろ」


 それを聞いた瞬間、本能的な恐怖からか、恥もかなぐり捨てて必死に逃げ出した。

 これほどまでに長く、そして短く感じた十秒はなかった。






「三、二、一、ゼロ」


 さーて、どこまで走ってたのかなー。


「ま、どこまで行こうと意味ないんだけどね」


 意識を、自分の魔力に向ける。

 さっきの切断の瞬間に、俺の魔力をメイスに流し込んだ。

 それを辿って……。

 よし、あそこだな。

 軽く咳ばらいをし、のどの調子を整える。


「何年ぶりになるのかね、これを使うのは……」


「《――――――》」


 俺を中心に、巨大な魔方陣が浮かび上がる。


「《解》」


 その声で、魔方陣から大量の魔力があふれ出す。

 そしてそれらは、少しづつ形を形成していく。


「よし、完成」


 それは、俺の手のひらサイズの球体。

 そこに俺の魔力をさらに流し込む。

 そして。


「《発》」


 その玉から、リヒテンベルク図形を描くように魔力が弾け飛ぶ。

 先ほど特定した場所から、メイサの断末魔が発せられた。

 よし、これで完全にメイサは倒せたな。


「あーあ、さっさと帰って仕事でもするかー」


 マジで働きたくねーなー。

 ……このままバックレたら怒られるかな?


「でも、これもすべて、かわいいこどもたちのためだもんね」


 しょうがない、もう少しだけ頑張るか。

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