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―第二百六話― 頑張って

 ……さて、どうするか……。

 眠る前に、多少の戦略を考えておかないとなんだが、あまり良いのが思い浮かばない。

 ……ルビーに言えば、準備の時間くらいは作ってくれるだろう。

 その間に、能力を重ね掛けするか……?

 だとしたら、身体能力上昇系のをめっちゃかけるか。

 昨日の感じだと、現実で常時かけてある能力は夢の中では消えてたんだよなあ……。

 …………。


「ま、いっか」


 やめだ、やめ!

 わざわざ対策していくだなんて、俺らしくもねえや。

 頭の中で考えたって、そもそもその通りに動くとも限らないしな。

 だとすれば、もう感覚だけで攻めよう。

 それに、ジャスミンも言っていただろう。

 楽しめばいいんだ、楽しめば!!




「そんなわけで、よろしくお願いしまーす!」

「うーん、ま、普段つけてるやつくらいは良いか。ただ、アルネブの時みたいなめちゃくちゃな奴をつけるのはやめてくれよ? あんなので修業したところで、何の成果も得られない」

「はーい。……あ、あと……」

「呪縛もダメに決まってるだろ! ……はぁ。ほら、早く準備しな。短剣も先に渡しとくから」


 こちらに投げてよこされた短剣を腰に差し、普段何使ってたっけ、と思い出し、パパッと身体能力を掛ける。


「……うん、こんな感じかな。多分、準備オッケーです」

「りょーかい。それじゃ」


 昨日と同じくルビーが指を鳴らした瞬間、俺たちは一瞬で草原の上に移動していた。


「さ、始めようか」

「……お願いします」




「…………」


 起きた瞬間、近くにあったクッションを、思わず殴ってしまう。

 ……また負けてしまった!

 ……ちくしょう……。

 ……はぁ。

 今日はジャスミンと買い出し行くんだったし、早く準備しよう。




「リア、お待たせー!」

「ん? お、おう」


 ……何故か分からんが、ジャスミンのワンピース姿には、いつまでたっても慣れないな。

 旅行の時にも見てたはずなんだが、ここで見ると……。


「……なに、じーっと見て?」

「ああ、いや、なんでもない。早く行こうぜ。めっちゃ良い所があるんだよ」

「へえー。それじゃ、行きましょう!」

「おう」




「ありがとうね、リア。色々教えてくれて」

「というか、お前が色々知らなさすぎなんだよ……」

「そう? このくらい、普通なんじゃないの?」

「……はぁ。ほら、早く持って帰ったほうが良いんじゃねえの? 重いだろうし」

「ううん、まったく重くないけど」

「……そうか」


 破れる直前まで物が入ってる紙袋が、両手から溢れそうなほどあるんだぞ……?

 ……重くないのか……。


「相変わらずの、馬鹿力だな」

「……この荷物が無かったら、殴ってたわよ?」

「さ、さーせん……」

「まったくもう、わたしだって年頃の女の子なんだから……」

「えっ、そうなのか!?」

「よし決めた、蹴り飛ばす!!」

「ちょっ、勘弁!! ごめん、ごめんって!!」


 俺の足を狙い、ジャスミンの蹴りが飛んでくる。

 ……あ!


「……あ、危ねえな……」

「……ありがと」


 ジャスミンが落としかけた荷物を、なんとか支える。


「早く家におきに行こうぜ」

「……うん」


 どうにかこうにか、荷物のバランスを立て直そうとするジャスミン。

 …………。


「ほら、少し渡せ」

「あ、ありがとう」


 紙袋を二つほど受け取る……!!


「お、重……!」


 こいつ、これを沢山持ってたのか……!?


「あんまり無茶しないでいいのよ?」

「大丈夫……! 『浮遊』!」


 ……ふぅ、これで少し楽になった。


「というか、もうめんどくさいし、これで一か。『移動』」


 能力を使い、一瞬でジャスミンの家の前まで行く。

 これなら、わざわざ運ぶ必要もないしな。


「…………」


 ……なんか、めっちゃ不服そうなんだけど。


「あのー、俺、なんか悪いことした……?」

「……別に」

「…………」

「というか、二人とも両手ふさがってるけど、どうやって開けるの?」

「あ……。……なあ、ジャスミン。玄関に物っておいてるか?」

「ううん、何もなかったと思うけど……」

「じゃあ、『移動』」


 能力で荷物をジャスミンの家の玄関に送り、空いた手で扉を開ける。

 ……というか、こいつも家の鍵してないんだな。


「……便利すぎでしょ、あんたの能力」

「だろ? ……これでも、ルビーには勝てないわけだけど」

「あ、今日も負けちゃったの?」

「……まあな」

「てか、相手も同じ能力だしね……」


 それにしたって、次元が違い過ぎると思うが……。


「まあ、何回も挑戦できるんだったら、勝てるまでずーっと挑戦し続けたらいいじゃない。そうすれば、勝てるわよ」

「……俺にはどうしても、そんな想像できねえけどなあ……」

「必ずできるって!」

「……何を根拠に?」

「だって、リアはリアじゃん!!」

「……なんだそれ」

「とにかく! リアは最強なんだから、いつかは必ず勝てるわよ!! だから、頑張って!!」


 満面の笑みで、ジャスミンがそんなことを言ってくる。

 ……はぁ。


「まあ、ありがと。頑張るよ」

「うん!!」


 随分と適当な事を言ってくれたが、それでも少し気合が入った。

 ……ああ、そうだ。


「ジャスミン」

「ん? どうかした?」


「今日の服、似合ってたぞ」


「!?」

「じゃ、また今度な!」


 ……礼代わりにでもなるかな、と思ったが、なにこれ、めっちゃ恥ずかしい。

 火照った顔を冷ますように手で仰ぎながら、俺は家までの道を歩いた。

余談ですが、ジャスミンも顔を真っ赤にして、しばらく口をパクパクさせてました。

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