―第百九十九話― 礼代わり
あー、疲れた……!
ソファに寝転がり、久々の自宅を満喫するように深く息を吐く。
荷物もちゃんと玄関にあったし、後はあれをほどくのを楽しむだけだな。
……なんか、ようやく旅行が終わったんだってことを実感する。
なんだかんだで楽しかったし、また今度皆で行きたいな。
……その時は、戦闘とか起きてほしくないな。
いや、マジで。
「……サントリナの家に行くか」
一応、あいつのおかげで旅行に行けたわけだから、多少はお礼をしないとだ。
……それに、お土産だって、ちゃーんと買ってきたのだから。
あ、そうだ。
「えーっと、この辺に……」
カバンを漁り、目当てのものを取り出す。
「これ、置いとくぞ」
机の上に一つの竹細工を置き、誰もいない空間に話しかける。
竹製の水仙なのだが、観光中にきれいだったので買ってきたのだ。
どういう仕掛けがしてあるのか、香りまでしてくる。
……気に入ってくれるといいが。
「んじゃ、いってきまーす」
誰もいない家に再び声をかけ、土産品を入れた小さなカバンを片手に扉を開けた。
「おーい、サントリナー。いるかー?」
執事さんに案内された部屋の扉を粗目に叩き、声をかける。
「んあー? 誰だー?」
「俺だよ、俺!」
「……リアトリスか!? おお、入っていいぞ!!」
失礼しますよっと、などと呟きながら戸を押す。
「よっ、久しぶり」
「ああ、久しぶり。どうだ、旅行は楽しめたか?」
「おう。チケット、ありがとな」
「あのくらい、お安いもんよ。……どうだ、仲間同士で馴染めたか?」
「まあ、それなりに……。……もしかしてだけど」
「まあな」
……こいつなりの配慮ってことか。
ローズも入ったし、その前にはツツジも改めて入ったわけだ。
パーティーの仲が悪いというのは、全員にとって命とりになってしまう。
俺たちは元々が悪くなかったからそんなこともなかったが、もっと仲を深められるように、ということなのだろう。
「あ、そうだ。ほれ、土産だ」
「えっ、買ってきてくれたのか!?」
「さすがにな。……ほら、これ」
「……なにこれ?」
「おもちゃの指輪」
「……ありがとう」
「……いや、そんな反応は予想してなかったんだが」
「お前からもらったものなら、なんでも嬉しくなるものだ」
「……そうか」
予想外の言葉ばっか出るせいで、やりづらいな。
「ほら、本命はこっちだ」
「ん? ……へっ!? これ、めっちゃ高い酒じゃねえの!?」
「めっちゃってほどでもねえよ。ま、礼代わりに受け取ってくれ」
「ああ、ありがとうなあ……。今度、一緒に飲もうぜ」
「俺がやった奴なんだから、一人で飲めよ」
「そう言わずにさ。今度招待するからな」
「はいはい、分かったよ。ほんじゃ、そろそろ帰るわ」
「おう。気をつけろよ」
「分かってるよ」
扉を閉めた俺の背に、『ありがとう』という言葉がうっすらと聞こえてきたような気がした。




