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―第十九話― 円卓

 先ほどの門兵から、ここで待つように指示を出された俺たちは、城門の前で呆然と突っ立ていた。

 ……どうしてこうなった。

 俺は、面倒事の起こらない人生を望んでいたというのに。

 そもそもとして、王城にいるようなお偉いさんが俺たちに何の用なんだ?

 ジャスミンだけを呼ぶならばまだわかるが、わざわざ俺まで呼んだことの意味が分からない。

 そんなことを考えていると、城門が開き、中から執事のような人物が現れた。


「お待たせいたしました。城内を案内いたしますので、わたくしについてきてください」

「「『あ、はい』」」




 城内は、それはもう、すごかった。

 ……うん、すごい以外の言葉が出てこない。

 そこら中に、素人目からでもわかるくらいの高級品が置いてあるし、使用人の数だけでも千人くらい言ってんじゃないのかぐらいある。

 ん?

 なんか、あっちにいるメイド? が、こっちを一瞬にらんできたような……。




「リアトリス様は、こちらでお召替えをなさってください。ジャスミン様は、あちらに控えているメイドの指示に従っていただきますようお願いします」


 ……ここ、更衣室なんだよな?

 俺の家よりも広いし、ムチャクチャに豪華なんだが……。

 っと、着替えとけって言われてたんだった。

 この服だよ……な……。


「『すみませーん』」

「はい、どうされましたか?」

「『この服って、どうやって着ればいいんですか?』」


 構造が複雑すぎて、わけわからん。




 執事の方たちに教えてもらい、何とか着替えを終えることができた俺は、ジャスミンが来るまでここで待つように言われた。

 なんで俺たちが呼ばれたのか、そのことばかり考えているが、心当たりがなさ過ぎて全く答えが見つからない。

 うーん、謎だ……。


「リア、お待たせ!」

「『お、着替え終わったのか』」

「う、うん。ドレスとか来たことがなかったから、少し手間取っちゃった」

「『…………』」

「ど、どうかした?」

「『……なんか、趣味の悪い金持ちの令嬢が着てそうだなって……。って、痛い痛い痛い!!』」


 頭蓋骨が割れそうになるほどの怪力で、アイアンクローを決められてしまった。




「この扉の先には、フェンネル王国の重鎮の方々が大勢いらっしゃいますので、くれぐれも無礼を働かないようお願いします」

「『だってよ、ジャスミン』」

「あんただって、人に言える程の礼儀正しいわけじゃないでしょう!?」

「『ほら、さっさと入るぞ』」

「なっ!?」


 扉に手をかけ、ゆっくりと押し開いていく。

 中には、二十名程度の人が円卓を囲うようにして座っていた。


「遠路はるばる、ようこそお越し下さった。こちらから出向けなかったことは、本当に申し訳なく思う」


 ……あれが王様か。

 この中の誰よりも、威厳のある雰囲気が出ている。


「『いえ。こちらこそ、お招きいただき光栄です』」

「……そう固くなる必要はない。普段通りの振る舞いをしてもらったほうが、こちらも気が楽だ」

「『わかりました』」

「……早速だが、本題に入らせてもらおうか」

「『……なんでしょうか』」


「ジャロイの一件はご存じかな?」


 …………。


「『魔王軍侵攻の件でしょうか』」

「ああ。そのことで、少し話を聞きたくてな」

「『……はい』」

「ジャロイには、部下が数名潜伏していたのだ。……そのうち、たった一人しか帰ってこなかったがな。そしてその一人から、魔王軍幹部の一人、メイサが討ち取られたという報告が入ってきたのだ。それと同時に、君たち二人がメイサの屋敷から出てきたという報告もな」

「『……そのような事実はございません』」


「嘘だな」


 先ほどから王様の隣でまじめな顔で話を聞いていた少年が、突如話に割り込んできた。


「『何を根拠に?』」

「息子の能力の特性だ」


 こいつ、王子だったのか。

 というか、能力持ちかよ。

 さらっと言っているが、結構すごい事なんだよな。


「さて、改めて聞くぞ。ジャロイで何があったのか、そのことについて話してくれ」


 ……万事休す、ってやつか?

 まさか、国のお偉方にばれるとはなあ。


(ねえ、リア。どうするの?)


 ジャスミンが、不安そうな顔で聞いてくる。

 ……ごめん。


「『魔王軍幹部は、ジャスミンがやりました』」


 全員が目を見開き、こちらを注視する。


「……嘘じゃないようだな」

「なんと、魔王軍幹部を……」


 そんなざわめきの中、王様が尋ねてきた。


「本当に?」

「『どういった意味で?』」

「私とて、数々の戦争を経験してきている。そんな私の目には、君のほうがはるかに強く映っている」

「『ですが、王子の能力で嘘かどうか判別できるのではなかったのですか?』」

「では、その声の正体は何だい?」

「『声?』」

「君の放つ一言一言から、かなりの量の魔力を感じる。それを少しいじれば、嘘を隠すことだってできるであろう」


 この王様、かなり頭が切れるな。

 うーん、この場で話すってのはありなのか……?


「『陛下と王子以外には、席を外していただけませんか?大丈夫です。危害は加えません』」

「……わかった。すまんが、少し部屋から出てくれ」




 全員が出ていったのを確認する。

「『……はあーっ』」


 緊張が解けたことで、思わずため息が出る。


「『陛下、部下の管理はちゃんとしてくださいよ』」

「……どういう事だ?」


「『あの中に、魔物が隠れてましたよ?』」


「「「なっ!!」」」

「『そんな中で、俺が話せるわけがないでしょう。方向までは探れませんでしたが、殺気ビンビンでしたよ』」

「リア、本当!?」

「『ああ。入った瞬間にわかった。……っと、俺について話すんでしたね。陛下の言うとおり、メイサは俺が倒しました』」

「やはりか。それで、どうして隠したんだ?」


「『一つは、さっき言ったように魔物がいたこと。もう一つは、人には言えない事情ですので。聡明な陛下であれば、ここからは聞かないでしょう?」」


「ああ。人から無理やり話を聞くのは嫌いなのでな」

「『ほかに用事がないのでしたら、もうそろそろ帰りたいのですが。よろしいでしょうか?』」

「ちょっと待て。僕はまだ聞きたいことが……」


「『いやです』」


「ちょ、リア! 王族相手にどんな口きいてんのよ!?」

「ハッハッハ。私たちにここまではっきりと否定できる者も珍しい」

「『最悪、戦えば勝てますしね』」


「そうだろうな。この国の軍も、君にかかれば数日と持たないのではないかな?」


「『それは買いかぶり過ぎです。それよりも、俺はそろそろ帰りますからね。いつか機会があれば、また呼んでください』」

「ああ。君が隠していることを話す気になってくれたら、招待なしに入ってきてもらっても大丈夫だぞ」

「『ありがとうございます。それでは、失礼します』」


 そう言って俺はジャスミンを引っ張り、窓のふちに足をかけた。


「『少しだけ、俺について見せて差し上げます。“移動”』」

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