―第百八十七話― 最善手
右から、左から、上から、下から……。
迫りくる触手の間を必死に潜り抜ける。
アルネブからあまり離れすぎて、街の方に意識が行ってしまったりせぬように、牽制できる程度の距離を保ち続けているのだが……。
……まだアルネブの能力が抜けきってないせいで、めちゃくちゃ動き辛い……!
それでも、気合で走り続ける。
三人の状況を知りたいが、触手の数が多いうえに、体を思い通りに動かせない。
……さっきも思ったが、やはり今のままでは、俺は足手まといになってしまう。
……俺が捕まった方が、物事が楽に運びそうだ。
……うん、いっそのこと……。
「リアトリス!! 大丈夫か!?」
いつの間にかすぐ横に来ていたローズの声に、くだらない思考を中断される。
「ああ、なんとかな……」
「そうか。それなら、ちょっと、僕の策に乗ってくれないか?」
「……策?」
「ああ。一種の賭けになってしまうかもしれないがな。それでも、勝算は十分にある」
「……分かった、聞かせてく……れ!」
頭上に来た触手を避け、ローズに話すよう促す。
「簡単に言えば、僕とツツジで触手を無効化している間に、リアトリスとジャスミンでアルネブ本体を叩きに行ってもらうって感じだ」
「無効化!? ツツジはまだしも、ローズは……」
「僕の能力の性質を忘れたのか!? 僕の能力なら、アルネブの能力の効果も反転させられるかもしれないんだ」
「なるほどな。それなら、もしかしたら……。……というか、さっき言ってた賭けってのは?」
「……僕はまだ、能力の効果の反転までは、やったことがない。だから、無効化できるかどうかも怪しいんだ。でも、反転させられれば……」
「だめだ」
ローズの言葉を遮るように、言葉を放つ。
「はあ? どうしてだよ!?」
「お前の背負うリスクが大きすぎる。万が一が起こったら、どうするんだ?」
「そん時は、自己責任だ。それとも、これ以上に安全な策があるのか?」
「それは……」
言葉に詰まってしまう。
確かに、ローズの策が、現状における最善手なのだろう。
だが、それでも……。
「……分かった。それで行こう」
「ありがと」
「ただし、身の危険を感じたら、逃げに徹すること。自分の身を第一に考えてくれ」
「了解。……ま、能力使えない、どっかの誰かさんよりかは、役に立って見せるさ」
「な!?」
こいつ、気付いてやがったのか!?
……くそっ。
「ジャスミンとツツジには、僕が伝えに行く。リアトリスは、少しでも体力回復しとけ。顔真っ青だぞ?」
「……ああ。すまんな」
「いいよ。僕の考えた策なんだ。僕が動かなくて、どうする!」
そう言ってローズは、物凄い速さで触手の間を駆け抜けた。
……さて、どうするか。
さっきの策、穴はない……はずだ。
だというのに、どうしてこうも胸騒ぎするのだろうか。
……俺の勘は、よく当たる。
特に、悪いものが。
今回こそは、外れてくれ……!!




