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―第十七話― 教会

 サンビルに戻った俺は、戦闘の疲れと能力の影響ですぐに深い眠りへと落ちた。

 その眠りの最中に現れたのは、もはや見慣れた白い部屋。

 目の前には、これまた見慣れたサングラス男が立っていた。


「ルビーさん、なんか怒ってます?」

「怒っているか、だって? あんな技を使用しておいて、俺が怒っていないとでも?」

「あー、呪縛のことですか?」

「当り前だ! あれの危険性は、君が一番わかっているはずだ!! あれは呪いを使った技だ。人を呪わば穴二つ、という言葉があるように、呪いにはそれ相応の代償というものがついてまわる。あれは、使用者自身さえも蝕んでしまうような強烈な呪いだ。しかも、相手にあれが防がれた時には、君に呪いがすべて降りかかってくる。君自身が説明したように、最終的には死に至るようなものがな!」

「ちゃんと理解していますよ。だからこそ、ジャスミンに頼んで隙を作ってもらったんですよ」

「いいや、君は何もわかっていない。あれを使ったとき、君の口内には様々な味が残ったはずだ。あれこそが、君の体を蝕んでいくものだ。あと数回使用すれば、君の体は壊れ、能力だって一生使えなくなってしまう」


 あの味って、そういう事だったのか。

 それは知らなかったな。


「お願いだ、リアトリス君。あの技は、金輪際使用しないでくれ。頼む」

「わかりました。今この場で約束します」

「ああ、ありがとう。本当に、お願いだよ?」

「わかってますって」

「あー、今回のアドバイスは……、そのことだけだ。じゃ、頑張れよ」


 そう言ってルビーは、指を鳴らす。

 視界が歪み、意識が覚醒していく……。




「『あー、ねっむ』」


 ん?

 今、声に違和感があったような……。


「リアー、起きてるー?」


 ……ジャスミンか。

 傷の回復だけは済ませたが、もう動けてるのか……。

 マジで化け物並みの体力だな。


「リアー?」

「『ああ、今行く』」


 その瞬間、俺はなぜかジャスミンの目の前にいた。


「「『は?』」」


 俺の腹に、ジャスミンのボディーブローがクリティカルヒットした。




「ご、ごめんね? 反射的に手が出ちゃった」

「『い、いいよ……。俺も悪かったし……』」


 鳩尾の辺りを抑えながら、呻くように返事をする。


「それよりも、どうやって急に現れたの?」

「『多分だけど、能力が出っぱなしになってる』」


 呪縛の影響だろうな。

 以前使った時にも、こんなことになったことがあるような気もするし。


「え!? それって……」

「『かなりヤバい。日常会話だけで死者が出るかもしれないくらいヤバい』」

「そんなに!?」

「『能力の特性上な。……というか、なんで家に来たんだ? なんか用事でもあったんじゃないのか?』」


「あ! 忘れてた! リア、大変なのよ! 私、無職になるかもしれないの!」


「『は!?』」



「私ってさ、聖職者を生業にしてるじゃない?」

「『一応だけどな』」

「でも、私って信仰心なんてかけらもないのよ」


 そのことは知っているが、それを堂々と公言できるってのはどうなんだ?


「で、教会のお祈りとかも一回も行かなかったのよ」

「『それはさすがにやばいだろ』」

「そうなの! そのせいで、教会から追放されそうなのよ!」

「『で、聖騎士もやめさせられてしまうから、無職になるかもしれないと』」

「そういうこと。理解が早くて助かるわ」

「『それで、なんで俺のところに来たんだ?』」

「さっきも言ったけど、一回もしたことないから、作法とか全く分からないの。だから、教えてくれない?」

「『……………………』」


 呆れてものが言えないというのは、このことか。


「『そのくらい、自分で調べろよ……』」

「でも、人にこれを知られるのって、恥ずかしいじゃない?」

「『それどころじゃねえだろ!!』」

「わー! 待ってー! お願いだから!! 明日テストされちゃうのよ!!」

「『……………………』」

「それに、私の聖騎士としての立場がなくなったら、リアの後ろ盾もなくなるから、実力がないと思われてるリアはギルドから追放されるかもしれないわよ」

「『……マジで?』」

「そうよ。リアをやめさせたら、私もやめるっていうふうに少し圧力をかけた時期もあったのよ?」

「『あ、ありがとうございます』」




「『さて、せっかく能力が発動してるんだから、少し荒業で教えていくぞ』」

「お願いします!!」




 それから俺は、能力を使って、作法を文字通り体に叩き込んだ。

 そして迎えた翌日。


「『おい、あんまり緊張してんじゃねえぞ』」

「だ、だって……」


 俺の能力の暴走は健在。

 ジャスミンはといえば、緊張で体をガチガチにしている。


「『ほら、リラックスだ』」

「……能力の濫用」

「『しょうがねえだろ。どうやったって治らなかったんだから』」

「じゃ、入るわよ」


 というか、俺もこの町の教会に入るのは初めてなんだよな。


「おや、お早いお付きですね。ジャスミン様」

「は、はい」


 優しい笑顔を浮かべながら対応をしてくださったのは、この教会の責任者のベロニカさん。

 街でも評判の美人らしいが、ジャスミン曰くねちっこい性格をしているらしい。


「あの、そちらの方は?」

「あ、彼は、冒険者仲間のリアトリスです」

「『ど、どうも』」

「……おや? なんだか変な魔力を感じたような……」

「『あー、少し特殊な事情がありまして……』」

「左様でございますか。何かお悩みがございましたら、いつでもお越しくださいね」

「『あ、はい、ありがとうございます』」

「それでは、ジャスミンさん。さっそく祈りのほうを始めてください」

「はい」




 ……誰だこいつ。

 ジャスミンの祈る姿は、一夜漬けで覚えさせたとは思えないほどの所作だった。

 ただ、いつも暴れまくっているジャスミンを知っている立場から言わせてもらえ

ば、まさに違和感の塊だった。


「……終わりました」

「はい。とても素晴らしいお姿でした。これからも、定期的に来てくださいね」

「わかりました」


 ……これで一安心だな。

 …………。


「『俺もついでに祈っとくか。いいですか?』」

「はい、もちろんです」


 いつぶりくらいかな、こうして祈りを捧げるのは。

 ま、とりあえず、この先もだらだらと過ごせるように祈っとくか。




「『……よし。それじゃ、さっさと帰ろうぜ。腹が減って仕方がないんだ』」


 そう言って振り返ると、驚愕の表情を浮かべている二人が立っていた。

 え、俺なんかした?


「……す、素晴らしい! どこでそのような作法を覚えたのですか!?」

「『え、え!?』」

「……リア。あんたの祈り方、その辺の神父にも負けないくらいきれいだったわよ」

「リアトリス様、ぜひとも入信してください!! ほら、こちらの紙にサインをするだけですから!!」

「『ちょ、あんまり詰め寄らないでください! ほら、少し落ち着いて下さい』」

「……あ、あれ? なんだか、急に気分が……」


 しまった―!

 能力が発動してるんだった!


「もしかして、その御声のおかげですか!?」


 いや、間違ってはいない、間違ってはいないけど!


「『と、とりあえず今日はこの辺で……。ほら、早く帰るぞ』」

「それじゃ、失礼しまーす」

「あ、またのお越しをお待ちしております」

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