―第百七十七話― ツツジと
美しい朝日を浴び、晴れやかな気持ちに包まれる。
うーん、何とも清々しい朝だ。
……だというのに……。
「あの野郎……」
ローズの奴は、俺が寝ている間に起きたのか、ベッドから姿を消していた。
恐らく、例の温泉に向かったのだろう。
まあ、朝食の後も戻ってこなかったら、そのまま置いていけばいいだろ。
……はぁ。
結局ローズは、朝食開始ギリギリのところで宿屋に戻ってきた。
妙に落ち込んでいる様子だったので話を聞いてみると、
『おっさんしかいなかった』
と、ぼそっと呟いた。
欲望に塗れだったローズに、天誅が下ったのではなかろうかと思うが。
そんなこんなで観光の時間になったわけだが……。
「お兄ちゃん、ほら、行きましょう!」
「はいはい」
もう財布は見つかったというのに、何故かツツジと二人で観光をすることになった。
まあ、楽しそうだから別にいいんだけどな。
「……そういえば、ジャスミンちゃんにお酒を買ってもらったのよね?」
「ああ、そうだけど……」
「じゃあ、私も一つ、好きなのを買ってあげる!!」
「いや、いいよ別に。今日は金あるんだから」
「そういわずにさ! ほら、なんでもいいんだよ?」
「えー……、じゃあ、これ」
すぐ近くの店で、一番最初に目についたものを指さす。
えーっと、ジョッキか。
「ふーん……」
「なんでお前が不満そうなんだよ」
「だって、ジャスミンちゃんのほうが良い物を買ったんでしょう? 私が負けちゃったみたいじゃない」
「こんなのに勝ち負けなんてねえだろ。貰えるだけ嬉しいさ」
「本当?」
「ああ、当然だ。……それより、土産を探したいんだけど、付き合ってくれねえか?」
「えっ、お土産を渡せるような友達いるの!?」
「いるに決まってんだろ!!」
あまり馬鹿にしないでほしい。
「……そうだ、ローズにもなんか買ってってやろうぜ。あいつ、ずっと一人で回ってばかりだし」
「それもそうね。それじゃ、お兄ちゃんがなんか選んでよ」
「えっ、なんで俺が?」
「だって、お兄ちゃんが、一番ローズ君について詳しいじゃない」
「いやまあ、そうだけど……」
「ほら、頼んだわよ?」
「ういーっす」
自分で言い出しておいてなんだが、めちゃくちゃ面倒だな。
有名な観光名所を見たり、出店を覗いたりと、観光を満喫していると、気付けば日も落ちていた。
ずいぶん楽しんだし、ずいぶん買い込んだなあ、と思いながら、宿屋までの道を歩く。
……ローズの土産も、適当にだが選んできた。
まじで面倒くさかったが。
「よし、全員揃ったし、夕飯食うか」
「そうだな。僕も今日はさすがに疲れた」
「私もー。でも、めっちゃ楽しめたわ! リア達は?」
「私たちも、結構楽しんだわよ? 途中でお兄ちゃんが、迷子になりかけてたけど」
「おい、それは言わない約束だろ?」
などと談笑しながら、入り口をくぐる。
……明日で、ここも最後か。
……今晩は、もう一回全員で街を見て回るのもありだな。




