―第百七十六話― 深夜テンション
部屋に戻り、改めて安堵の息を漏らす。
「おお、リアトリス。どっか行ってたのか?」
「あれ、起きてたのか!?」
「ああ。さっき起きた」
結構遅い時間なんだけどな。
珍しい。
「それで、どっか行ってたのか?」
「ああ。ちょっと温泉にな」
「まじか!」
「……まあ、ちょっとした事件があったけどな」
「……事件?」
少し迷ったが、俺はさっきあったことをローズに話した。
「――てことがあったんだよ」
「……なるほどな……」
顎に手を当て、考える素振りを見せたローズは、しばらくしてようやく口を開いた。
「お前、混浴に入ったの?」
「いや、そこじゃねえよ!」
こいつ、俺の話を聞いてなかったのか!?
「というか、さっきも言ったけど、俺は故意では言ったわけじゃねえからな!? そこんとこ理解しろ!!」
「わかってるよ。冗談だ、冗談」
「ったく……」
「それで、そのアルネブ? って人。どうだった?」
「……やばかった。油断していたとはいえ、何をされたのか全く分からなかったからな」
「そうか……。……同業者なのかな……?」
「かもしれねえ。俺の事も知ってたっぽいし」
……なんとなく、俺の名前の事も聞く前から知ってそうだったしな。
「……それで?」
「……? いや、これ以上なにもねえよ」
「ちげえよ! スタイルは? スタイルはどうだったんだよ?」
「はあ!? お前、何言ってんの!?」
「いや、なんていうか、気になるじゃねえか」
……こいつ、完全に深夜テンションだな……。
しかも、それに寝起きのテンションも混じって、よく分かんないことになってる。
「……まあ、そこそこ良かったんじゃねえの? タオル越しだからよく分かんなかったけど」
「へえー……。……明日もまた観光だよな?」
「ああ、そうだけど……」
「一緒にその温泉に行かないか?」
「なに言ってんだ、お前」
なにが悲しくて、こんな奴と一緒に温泉に行かなきゃならんのだ。
「いくんなら、お前一人で行って来い。財布も戻ってきたから、明日はとことん遊ぶって決めてんだ」
「……分かった。あとで場所を教えてくれ」
「いいけど……。……はぁ。ま、普通に良い温泉だから、おすすめはする」
アルネブがどーたらこーたら言ってた時に、めちゃくちゃ褒めてた印象もあるしな。
「そういや、僕たちっていつごろ帰るんだっけ?」
「この宿屋は、明々後日くらいまで取ってあるから、帰るとしたら、そん時だろうな」
「了解」
「ほら、明日も早いんだから、さっさと寝るぞ」
「さっきまで寝てたから、寝れなさそうなんだが。……そうだ! カードゲームの続きを……」
「『寝ろ』!!」
能力を使い、無理やり寝かせる。
これで俺の睡眠を邪魔されることもない。
小さめの欠伸をしながら、布団に包まる。
ひんやりとした感触が体温に少しずつ馴染むのを感じながら、心地の良い眠りへ落ちていった。




