―第百七十話― 不用心
その辺にほったらかしてあったカバンを手に取り、部屋の鍵を探す。
……ん?
ここじゃないか……。
「……おっ、あったあった」
床に転がっていた鍵をポケットに入れ、そのまま鼻歌を歌いながら部屋を出る。
さて、今からは――
――お楽しみの、観光タイムだ!!
朝食のあまりの豪華さに絶句したり、ジャスミンが鍵を無くして入れなくなり、ツツジがピッキングで入ろうとしたりと、色々な騒動があったが、とりあえずは観光だ!
……そういえば、ジャスミンたちを宿の外で待たせているままじゃん。
早いとこ行かないと、ぶん殴られてしまう。
……財布もちゃんとポケットに入ってるし、荷物入れのカバンも持ってるな。
よし、行くぞ!!
「おい、遅いぞ、リアトリス!」
「すまん、鍵探してた!」
「お兄ちゃん、あんまりそんなことしてると、ジャスミンちゃんみたいになっちゃうわよ」
「ねえ、昨日のことは蒸し返さないでよ!!」
なんか、いつも通りわちゃわちゃしてんな。
後ろの高級宿屋と、不相応すぎるくらいに。
「それじゃ、ここでいったん解散だな。日暮れくらいに、またここに集合。いいな?」
「りょーかい!!」
俺は、酒でも買いまくるか。
帰ってからの分とか、色々……。
いや、待てよ?
今買ったら鮮度落ちるから、最終日にまとめて買ったほうが良いのか……?
それなら、今の内によさそうな店を探し回るか。
ついでに、今晩飲む分の酒も……!!
「…………」
なんとなく違和感を感じ、腰のあたりに手を置く。
……?
……!!
「ああっ!!」
財布掏られた!!
「うぐっ、ぐすっ……!!」
「まあまあ、もうそろそろ落ち着きなさいな……」
「だって、だってえ……!!」
結局財布は見つからず、俺は一文無しになってしまった。
そして、宿屋の前のベンチで泣きじゃくっていたところを通りがかったジャスミンが、面倒くさそうな顔をしながら慰めに来てくれた。
「はぁ、冒険者なんだから、もっと警戒して歩きなさいよ……」
「うん……」
……くそっ、マジで悔しい……!!
宿代はあらかじめ払ってあるからいいが、酒が、酒が……!!
俺の旅の楽しみが……!!
「……あれ、お兄ちゃんどうしたの?」
「うわっ、なんで泣いてんだよ、リアトリス……」
……もう集合時間かよ……。
というか、俺が泣いてるところとか、見てほしくなかった……。
「えーっと、実はね――」
「……お前、不用心すぎだ。警戒心を持て」
「……ジャスミンにも言われた」
「あれ? ツツジ、どこ行くの?」
「町中探し回って、そいつ殺してくる」
「ツツジも一回落ち着きなさい!」
…………。
……三人の顔を見たことで、なんとなく落ち着いてきた。
「……俺も少し落ち着いてきたから、一旦宿屋に戻ろうぜ……。そろそろ夕飯の時間だろうし……」
「……それもそうね。ほら、行きましょう」
ジャスミンの肩を借りながら、重たい足を引きずって宿に戻る。
くそっ、犯人見つけたら、俺を敵に回したしたことを、絶対に後悔させてやる!!
……まあ、この広い観光地で見つかることもないだろうけど……。




