―第十四話― 鬼ごっこ
やっぱり幹部だったか。
前にもいったが、幹部相手ともなると本気を出さなくてはならない。
面倒くさいが、そうも言ってられない状況だしな。
……先手必勝!
「『切断』」
短剣を振るい、技を繰り出す。
これなら、多少の傷は与えられるだろう。
その間にジャスミンを……。
……前言撤回だな。
「ッハ、なんという高威力。危うく、腕を持っていかれるところだったよ」
見たところ、傷一つついていないな。
「そのつもりだったんだけどな」
さて、どんなトリックを使ったのかを考えなくちゃだな。
魔物も、人間と同じような確率で能力が発現する。
だが、魔物と人間では、生まれ持った魔力の量が桁違いであるため、能力の効果に大幅な差ができる。
だからこそ、一個体による大量虐殺が可能となってしまう。
それを、俺一人に向けられるわけだ。
「……マジで面倒くさいな」
「さて、君の力が私に通用しないということは理解できたかな? 今降伏すれば、君の命は保証してあげよう」
「お前ら、そんなに交渉するのが好きなのかよ。……なら選べ。ジャスミンを解放して殺されるか、今すぐに殺されるか、どっちがいいんだ?」
「……交渉決裂か。ま、いいや。ここからは」
おっと、なかなかにやばい気配がするな。
いったん退いておくか。
「俺も本気で行かせてもらうぜ」
……あいつ、猫かぶっていやがったな。
完全に人を殺すほうにスイッチを入れたのか。
まったく、面倒くさいったらありゃしない。
とりあえず、この館のどっかにいるジャスミンの保護を優先するか。
この館の配置もわからないし、走りながらしらみつぶしで行くしかない。
「遅かったな」
……チッ。
「わざと追いつかせたんだよ。こうでもしないと、暇で暇でしょうがないからな」
さっきまで後方に気配があったのに、もう目の前まで来ている。
まずいな、こいつの能力の正体が、ますますわからなくなってきた。
単純な身体強化だとしても、ここまでの速度が出るわけがない。
瞬間移動系だとしたら、さっきの攻撃で無傷なのに説明がつかない。
「ほらほら、次はこっちのターンだぜ?」
踵を返して逃げる俺に向かって、いきなり椅子が飛んできた。
「まだまだ―!」
机、箪笥、本棚と、様々な家具が飛んでくる。
「俺の能力について教えてやろう。俺の能力は、“空間を操る能力”だ。だから、こんなことだってできるんだぜ」
肩に、ポンと手が置かれる。
さっきまで、かなりの距離が離れていたはずなのだが、気付けばさっきまでいた場所に戻っている。
だが、ある程度は相手の能力の中身について理解できた。
おそらく、この家自体がこいつの能力によって作られたものだ。
そして、この家にあるものすべての主導権を奴が握っているわけだ。
だが、人にまでは影響が及びにくいようだな。
でなければ、俺を動かさないようにだってできるはずだ。
それに、これだけの広さの家を操っているのであれば、大量の魔力と体力、集中力が必要となるはずだ。
……だったら、これで行くか。
「おい、メイサとやら。鬼ごっこの時間だぜ」
『移動』、とつぶやき、奴から距離を取る。
「その程度で逃げたつもり……」
「『生成』」
家中に、俺の分身を生み出した。
本体との判別は、倒すまでわからないレベルの高精度で作ったし、しばらくはこれで持つだろう。
「ヒュー!!」
後ろから、小ばかにしたような口笛が聞こえる。
…………。
「今のうちにジャスミンを探すか」
魔力の反応はないし、そういうふうに隠されてるんだろうな。
やっぱり、しらみつぶしでいくしかないのかな。
「違う、違う、違う!」
いったい何個の部屋があるんだよ!
もうそろそろ、分身との合計で百ぐらいの部屋を見て回ったんじゃないか?
ちなみに今の段階で、分身の六割は破壊されている。
うーん、まずい。
ジャスミンを早いところ探さないといけないのはわかっているが、スタミナが切れてきた。
位置ばれするのが怖いが、一か八かのごり押しで行くか。
「『破壊』!!」
まあまあな量の魔力を突っ込み、目に見える範囲の扉すべてを破壊した。
あとは走りながら探せば、いつかジャスミンは見つかるだろう。
待ってろよ、ジャスミン……!




