―第百三十三話― アルファルド
……おかしい。
明らかにおかしい。
最初の見立てだと、いくら多くても一万体程度だと見積もっていたのだが、もうとっくにそれ以上の魔物を相手にしている。
……ジャスミンたちの顔にも、疲れが見えてきた。
唯一元気そうなのは、ツツジくらいなものだ。
……疲れが顕著に表れているのは、やはりサントリナだな。
剣筋がぶれたり、空ぶる回数が多くなってきている。
……というか、それ以前に魔物たちが大分強い。
爆発を起こしても耐えるのがちらほらいるし、体の一部が欠損しても普通に向かってくる。
……これは、何かからくりがあるな。
「『細断』、『爆発』、『移動』、『威力上昇』、『回復』、『細断』!!」
いくら攻撃しても、きりがない。
……どうする……?
「おい、リアトリス!! まだ余裕あるか!?」
「どうかしたのか!?」
息を切らしながら、サントリナが呼び掛けてきた。
「このままじゃ、埒が明かない。……あくまでも俺の予想だが、もっと奥の方になんかある。ちょっと見てきてくれ」
「……分かった」
サントリナは俺よりもずっと経験もあるし、勘も冴えている。
一旦、奥の方を一気に目指すか。
「すまん、本当は俺が行きたかったんだがな」
「無理すんな。気使ったらいつでも退けよ?」
「……ああ」
「絶対だからな? ……『移動』」
サントリナに念押しし、そのまま魔物どもの真上へ移動する。
「『細断』!!」
周囲にいた魔物を蹴散らし、そのまま全力で駆け抜ける。
……もう少し先に、強い魔力を感じる。
逆になんで今まで感じなかったのか、不思議に思う程だ。
「『魔物を切り裂け』!!」
短剣を振り、目の前にいた魔物を一気に切る。
……!?
明らかに刃の通りが悪い。
というか、能力の効きが悪いような……。
……まあ、関係ないけど。
「『爆』、『爆』、『爆』……!!」
細かく爆発を起こしながら、まっすぐに駆け抜ける。
魔物どもが怯むくらいだが、それでも十分だろう。
……本当は、殺す気で撃ってるんだけどな。
だがまあ、もう少しで軍の最後尾に着くな。
「……おや、随分と遅い到着だな」
全身の毛が逆立つ。
長い白髪と真っ白な髭、顔中に深く刻まれている皴。
そんな中で、猛禽類のように鋭いまなざしが光っている。
……こいつが、この軍のボスか。
「誰だ、てめえ」
「……初対面の相手に対して、随分な態度だな。だが、まあ良い。我にそこまで強気で来られる人間も少ないからな」
無機質な声を響かせながら、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「我が名は、アルファルド。魔王軍幹部が一人だ」
……なるほど、そりゃあ威圧感もあるわな。
「それで、そんな幹部殿が、なんでわざわざこんな辺鄙な街まで来たんだよ」
「いちいち質問が多いぞ。分をわきまえろ」
「さっさと答えやがれ」
「……目的など、一つしかなかろう。貴様らの抹殺だ」
でしょうね。
前にルビーにも命狙われるって言われたし。
「それで、どっからこんだけの魔物を呼びだしてるんだよ」
「……ほう、そこまで読めているのか」
勘で言ったけど、見事に当たってた。
まあ、召喚魔法じゃないと、明らかにおかしい量ではあったが。
「どこから呼び出してるか、か。そんなの、ここからしかなかろう」
アルファルドが大きく横に手を振ると同時に、アルファルドの背後に巨大な魔方陣が現れた。
「この魔方陣からは、我の命令と同時に大量の配下が出るようになっておる。……試しに見せてやろうか?」
「いや、いい。……それで、物は相談なんだが、今すぐ退却してくれないか?」
「は?」
「戦うのとか面倒だから、さっさと帰ってくれって言ってんの」
「……ほう、そうか、そうか……」
からからと乾いた笑い声を上げながら、アルファルドは静かに言い放った。
「戦う意思のない戦士に、生きる価値などなし。今すぐに死んでもらおうか」