―第百二十九話― 槍と短剣
ぐーっと背を伸ばし、凝り固まった体をほぐす。
朝日とともに目覚めるなんて、滅多にしないんだよなあ。
いつも気付けば、太陽が真上をとうに過ぎている。
「『起きろ』」
まだ眠りたがっている体を無理矢理起こし、朝食の用意をする。
昨日はローズに意外そうな顔をされたが、そこそこ料理の腕には自信があるのだ。
サントリナの図書室に置いてあった料理本も読んでたし。
……そうだ、今日はサントリナのとこにでも行くか。
また訓練場を貸してもらおう。
……はあ。
「なあ、まじでやるのか?」
「あったりまえだ! 俺も体を鈍らせたくねえしな!!」
サントリナに訓練場を借りに行ったはいいものの、なぜか手合わせを頼まれた。
まあ、俺は別にいいけど、サントリナはとっくに前線を退いた身だ。
本気でやるのもあれだろうし、少しは手を抜くか。
「……! サントリナ、槍使うのか!?」
「ああ。昔っからこいつが苦手だったからな。……リアトリス君、ご教授願おうか」
「……俺、お前に槍術習ったと思うんだけど」
「口頭でだけだろ。実際に使うのはてんでだめだ。できて、投擲くらいだ」
「……そうなのか」
まあ、なんでもいいけど。
「で、お前はどうすんの?」
「……短剣で」
「おい、舐めプかよ!」
「これが一番得意だから、別にいいだろ?」
「……オッケー。それじゃあ……!!」
ヒュッと音を立てて、槍が頬を掠める。
「始めようぜ?」
リズムよく突き出される槍を、どうにか体を捻って避ける。
……なにが苦手だ、この古だぬきが……!!
くそっ、一歩も近づけねえ……。
…………。
「はい、一本」
「……まじかよ……」
短剣を跳ね上げられ、そのまま胸元に槍の先端を当てられた。
これで魔法剣使いなんだから、とんでもねえな。
「うん、全盛期ほどではないにしろ、大分勘も戻ってきたかな?」
「は?」
こいつ、舐め切ってるだろ。
「今度は、手加減なしで来いよ?」
「…………」
見抜かれてたか。
それでも、途中からわりと本気だったんだけどな……。
「そいじゃ、リアトリスのタイミングで来いよ」
「……お言葉に甘えて」
全力で地を蹴り、サントリナとの間合いを一気に詰める。
おっと。
横薙ぎに振った槍で俺の進路を妨害してきた。
そのまま、突き一閃。
「……クソッ」
短剣を振り、なんとか槍を弾く。
……隙ができたな。
再び間合いを詰め、そして……!!
「これでおあいこだ」
「……さすがはリアトリス」
首筋に立てた刃をさっと腰元に戻す。
……やばいな、こいつ。
あと一瞬遅かったら、反撃されてただろう。
というか、反撃の体勢に入ってたし、こいつ。
「サントリナ、本当にやり苦手なのか?」
「うん」
「……マジ?」
「マジもマジ、大マジだ」
「ここ最近、練習とかは……」
「してない」
「…………」
こいつ、やばい。
能力なしの対決だと、ぶっちぎりで強いんじゃないか?
「まあ、ある程度の技術がないと、教え子君たちに顔が立たないからな。……まだまだ、教え子にも、リアトリスにも負けるわけにはいかんのだよ」
こいつ、じいさんになっても同じこと言ってそうだな。