―第百二十八話― 伸びしろ
倒れこむようにして、薄っぺらい布団に潜り込む。
心地の良い満腹感と酔いですぐさま全身から力が抜ける。
ローズとの手合わせで神経を使い過ぎてしまったのもあるだろう。
普段から特に頭も使わず、ひたすらに力でごり押しをするタイプの俺は、あの手の輩との戦いがどうにも苦手だ。
「……これで四人か」
ぼそっと呟く。
初めはジャスミンと二人だけだったのにな。
サントリナに冒険者になることを宣言したら、『こいつはどうだ?』とか言って、半ば無理やりパーティーを組まされたような感じだったな。
まあ、結果的にはそこそこいい方向に向かって行ってるけど。
……ってか、ジャスミンってどこ出身なのだろうか。
昔、サンビルの外から来たとは聞いたけど、興味がなさ過ぎて全然掘り下げてなかった。
サントリナは知ってるんだろうけど、わざわざ聞きに行くことでもないか。
今度時間があるときにでも聞けばいいか。
……。
……もうそろそろだめだ。
眠気が……。
「……今日はリリーじゃねえのか」
「悪かったな、可愛いのが相手じゃなくて」
ここ最近何度も来てる白い部屋に、俺は今日も呼び出されたらしい。
「なんか、頻度高くねえか?」
「あー、まあ、こっちはコットで少し事情があるんだ」
ふーん。
「で、何の用なの?」
「そうだった! ……まずは、新しく入ったローズの事から。彼、戦って分かったと思うけど、リアトリス並みに強いから」
「でしょうね」
「君の考えている通り、精神面や頭脳面では若干未熟だが、すぐにそれも克服できるはずだ。……つまり、君とほぼ対等の人間が、もう既に三人もいるわけだ」
……言われてみればそうだな。
ジャスミンも、ツツジも、ローズも。
全員、俺並みに強いし、ジャスミンに至っては俺を凌駕する力もってるし。
ジャスミンは基礎が強いうえに、能力も強い。
「そこで、だ!!」
「うおっ、急に大声出さないでくださいよ」
「あ、ごめん。……それで、リアトリス」
サントリナは、普段からにやつかせている口元を大きく歪ませて。
「強くなりたくはないかい?」
そんなことを聞いてきた。
「あ、興味ないです」
「……えっ?」
「パーティーメンバーが俺よりも強いんだったら、俺が無理して働く必要がなくなるんで。かえって都合がいいです」
「……そうだ、君はそういう奴だったな」
……サングラスで隠れているが、なんとなく呆れた目で見られているような気がする。
「まあ、興味ないんだったらそれでもいいけど。……近々、君は僕のさっきの問いに否応なしにイエスと答えなきゃいけない状況になるんだから」
「……は?」
「まあ、だらけてる方が君らしくていい気もするけど。……魔王軍襲撃のこと、忘れるなよ?」
「あー、はい」
何度も繰り返し言われてるから、忘れる方が難しいだろう。
「ならいいんだ。あー、そうだ。誤解しないでほしいから言っておくけど、君にもまだ伸びしろはあるからな? まだまだ強くなれる」
「えー、いいですよ」
「…………。……君って、いつでもぶれないね」
「それが俺なので」
「……はあ。ま、芯の強さも君の強さだ。ほら、もうすぐ夜が明ける。……また今度な」
「はい」
パチン、と指を鳴らした音とともに、俺の意識はどんどんと部屋から離れていった。