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―第十二話― うわさ

 「おい、聞いたか? ジャロイの話」

「ああ、魔王軍が攻めてきたんだって?」

「らしいぜ。もしかしたら、俺たちにも召集がかかるかもしれねえな」

「かもな。でも、万が一倒せば、大量に報酬が手に入るかもしれねえぜ」

「ま、俺たちレベルの実力じゃ、絶対に無理だろうけどな」


 ……ジャロイか。

 ここからだと、馬車で一日程度の距離じゃなかったかしら。

 とりあえず、リアの家に行かないとね。






「あー、よく寝た」


 新しい武器を手に入れてからの数日間、俺はほとんど寝ていた。

 ジャスミンに修行をつけていた際には、能力で無理やり不眠状態にしていたため、その分の睡眠時間を確保しなくてはならなかったのだ。

 だが、目覚めたばかりの俺には、やらなくてはならないことがある。

 それは……。


「『回復』、『封印』」


 あらかじめ作っておいたポーションに向かって、能力を使った。

 こうすることで、普通のポーションよりも効果が高くなるのだ。

 よし、この調子でじゃんじゃん作るか。


「リアー、いるー?」


 人がせっかくやる気を出したってのに、なんてタイミングが悪いんだ。


「今開けるから、ちょっと待ってろ」


 文句を言いながらドアを開けると、冒険に出るときの格好をしたジャスミンが立っていた。


「ちょ、なんで閉めるの!?」

「いや、なんか面倒くさそうな予感がするし」

「えっと、ジャロイの噂話、もう聞いた?」

「俺、さっきまで寝てたから知らない」

「あ、そうだったわね。どんな噂か、気にならない?」

「気にならないです」

「今、ジャイロに魔王軍が攻めてきてるらしいのよ」


 こいつ、俺のこと無茶苦茶無視するじゃん。


「って、ちょっと待て。魔王軍が?」

「そうよ。でさ、ジャイロまで行って、魔王軍討伐をしない?」


 ほらな、予感が当たった。


「いやだ。そんなめんどそうなのは、お前ひとりでやれよ。せっかく修業したんだし、いい機会だろ」

「……あーあ。一緒に来てくれたら、大量にピザを買って、パーティーでもしようと思ってたのに」

「ちょっと待ってろ、すぐ準備してくる。魔王軍と戦うのは、冒険者の義務だしな!」

「チョロい」


 決して、決して、ピザにつられたわけではないからな。




「馬車なんて、久しぶりに乗るな」


 そもそもとして、冒険なんてしてこなかったから、町周辺以外の景色が新鮮に感じる。


「私は、しょっちゅう遠征で乗ってるけどね」

「多分だけど、この町に来て以来、一度も乗ってないや」

「あんたがこの町に来たのって、何年前くらいなの?」

「十年ぐらい?」

「…………」


 なんか、可哀そうなものを見る目でこっちを見てくるんだが。

 しょ、しょうがないだろ、冒険なんて面倒くさかったんだし。

 というか、馬車に乗っている途中とかに、魔物に襲われたりしないよな?

 俺、できるだけ戦いたくないんだけど。




 そんな俺の不安も杞憂に終わり、馬車は予定通りに夜営の準備に取り掛かっていた。


「皆様、晩御飯ができましたので、焚火の周辺に集まってください」

「おお、美味そうだな!」

「本当ね。この串焼きなんか、酒に合いそうじゃない? すみませーん。お酒ってありますか?」

「ええ、葡萄酒でしたらございますよ」

「よし! 今日はじゃんじゃん飲むわよー!」


 こののんべえが!


「おい、酒は帰りにとっておけ」

「えー、なんでよ!」

「あとで教える」


 ぶつくさと文句を言い続けるジャスミンを抑えながら、何とか注文をキャンセルした。




「はあー、食った、食った」


 というか、食い過ぎた。


「わ、私も少し調子に乗り過ぎたかもね」


 ほんとだよ。

 こいつ、俺の二倍近く食ってなかったか?


「そういえば、私に酒を飲ませなかった理由って、何なの? それなりの理由じゃないと、ぶん殴るわよ」

「ほら、この間の修行の最後のほうに、魔法を撃ってただろ?」

「……ごめん。その辺の記憶が、結構曖昧になってるのよ」

「ま、半分気を失ったような状態だったし、しょうがないっちゃ、しょうがないのかな」

「で、その魔法がどうしたの?」


「今から、その魔法をある程度使いこなせるようになってもらう」


「今から!?」

「ああ、そうだ。馬車に乗っている間に、そのジャイロについての情報を集めたんだが、結構やばい状況らしいからな。それに、これから冒険するうえでも、お前の切り札として使えるだろうしな」

「な、なるほど」

「お前って頭悪いし、理屈を説明したところで意味ないだろ?」

「な!?」

「ということで、お前の体に感覚を覚えさせる。ま、あまり気張らなくていいからな」

「りょーかい」

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