―第百十六話― 再受注
翌朝、俺たちはカランコエさんに乗ってサンビルまで戻った。
集落にいたドラゴンたちは快く俺たちを送り出してくれたが、ツツジはどこか浮かない様子だった。
「ふうー、ただいまー!」
大きく背伸びをしながら、改めてサンビルに帰ってきたことを実感する。
一回目に帰ってきたときは、さっさとことを済ませようとして、ぜんっぜん帰ってきたぜ感がなかったからな。
「カランコエさん、送ってくださって、ありがとうございました」
「いえいえ。この辺りは朝の散歩コースにもなっていますので、ちょうど良かったですよ」
ドラゴンって、朝の散歩するんだ。
「じゃあ、ちょっと今からやらなきゃならないことがあるんで、先に失礼します」
「はい。お体を大事になさってくださいね。何事も、体が資本ですから!」
「はい」
「……それと、ツツジ殿」
「……は、はい」
カランコエの呼びかけに、少しおどおどしながら返事をする。
「あまり、気に病まないでくださいね。私たちも、今回のことは気にしておりませんので」
「……あ、ありがとうございます……」
「それでは、皆様に神の祝福のあらんことを!」
そう言ってカランコエさんは素早くドラゴンに戻って、大空へと羽ばたいていった。
「……さて、あとは……。ジャスミン、ツツジ。冒険者ギルドに行くぞ」
「え? えっ?」
「りょーかい!」
昨日のうちに話しておいたので聞き分けのいいジャスミンと、全く状況を理解できていないツツジを連れ、俺はギルドへと歩いて行った。
「すみませーん、なんか依頼ありませんかー?」
今までほとんど触ったことのないギルドの扉をガラガラと開く。
「あの、依頼はいいんですが、居酒屋のノリで入ってこないでください!」
「まあ、いいじゃないですか。……それより、結構前に受けた洞窟の調査のクエストって、まだ残ってますか?」
「……あれ、リアトリスさんが自分からクエスト受注の停止の依頼をしてきたじゃないですか」
「気が変わったんですよ。それより、まだ残ってるんですか?」
「ま、まあ、一応はありますけど……」
「よかった。じゃあ、俺たちでそれ解決してきます」
「「はあ!?」」
俺の言葉に、ツツジと受付のお姉さんが同時に声をあげた。
「なにもおかしいことは言ってないじゃないですか。僕はただ、冒険者として義務を果たそうとしているだけですよ!」
「益々胡散臭いですよ!! 大体、今まで自分から冒険に出ようとしたことなんてないじゃないですか!!」
「言ったじゃないですか、気が変わったって。ちょっとやりたいことがあるんで、お願いしますよー」
「……まあ、依頼の受注自体は悪い事ではありませんが……」
「やった! ありがとうございます!! 今度お姉さんの悪い噂が流れて来たら、俺のところで止めておきますよ!」
「変な噂が立たないように気をつけてますので、お気遣いなく」
「でも、この間お姉さんの彼氏いない歴イコール年齢だって噂が……」
「デマです」
「でも……」
「デマです」
「……そっすか」
「依頼を受注するだけでしたら、早いところ出ていってください。……あと、私はあえて、あえて! 彼氏を作ってないだけですから!!」
受付のお姉さんが何か言っているのを背に、俺たちはギルドから出た。
「……リアって、結構えげつないわね」
「なにが?」
「……ううん、なんでもない……」
諦めたような表情でこっちを見てくるのが気になるが。
「とりあえず、さっき言ったとおり、あの依頼を完遂するぞ。……前回同様、俺はいるだけだ。なにせ、魔力がすっからかんだからな! ……てなわけで、二人とも。頑張ってくれ」
「……自分で言っておいて……ねえ?」
「ま、まあ、リアトリスさんも何か考えがあるんでしょう……」
「そこ、うるさいぞ!」
なぜか不満げな顔をしている二人を連れ、俺は洞窟まで歩き始めた。




