―第百十二話― 背中の上
カランコエにサントリナとジャスミンを連れて行ってもらった後。
「……じゃ、俺らも行くか」
「……えっと、どこに……?」
「着いてから話すさ。……『移動』」
能力を使い、アマリリスたちの村に移動する。
「あ、やっぱり来ましたね」
「……へ?」
目の前には、なぜかベゴニアが立っていた。
「占いで、来客のことは大体わかるものですよ」
「あ、そうなんですか……。……ちなみにですけど」
「目的もわかっています。……まあ、これは別にいただいたお告げに入ってたんですが」
まあ、なんであれ話が早いに越したことはない。
カランコエの話であれば、集落までは明朝には着くらしい。
……今から能力で行けば、たぶん間に合うだろう。
……ちょっと魔力使うけど、これなら早く追いつけるはず。
「じゃあ、ちゃちゃっとことを済ませたいんで、早速出発しましょう」
「アマリリスが起きるまでには帰れるかしら?」
「ええ、大丈夫なはずです」
「それならいいわ」
「じゃ、行きましょうか。『移動』」
視界の一番奥に向けて移動、という単調な作業過ぎて、もう飽きが来てる。
景色がものすごい勢いで後ろへ移っていく。
そのせいで、ろくに景観も楽しめないしな。
その時、上空に大きな影があることに気が付いた。
……ようやくか。
上を見上げ、能力を発動させる。
「『移動』」
軽い浮遊感に襲われると同時に、急に足元の感触が硬くなった。
「……到着」
『……リアトリス様ですか?』
「ああ。ごめんけど、背中借りても大丈夫か?」
『ええ、そのくらいでしたらいくらでも』
まあ、大体わかるとは思うが、俺たちは竜になったカランコエの上に立っている。
……改めて見ると、すごい大きさだな。
流石は、ドラゴン族の長。
「ほら、二人とももう寝ておいたほうが良いぞ。明日はかなりの重労働になるだろうからな」
「……うん」
「私は、ネクロマンサーなので寝る必要はありません」
「あ、そうなんすか」
ネクロマンサーって、すげー!
「じゃ、俺はちょっとジャスミンたちの様子を見てきます」
「はい、お気をつけて」
ツツジはもう寝てるっぽいし、ベゴニアに任せて大丈夫だろう。
……うん、二人とも見事に寝てた。
ジャスミンは普段から健康的な生活を送ってるからわかるが、俺と同じく不健康が服を着て歩いてるようなサントリナまで寝てるとは……。
『……リアトリス様』
「おわっ!」
『あ、すみません、驚かせてしまいましたか……』
「……それで、どうしたんですか?」
「……リアトリス様は、何をなさるおつもりなのですか?」
……何、ねえ……。
「まあ、そう焦らないでくれ。明日になればわかるから」
「……そう、ですか……」
答えながら、思わず大きな欠伸を出してしまう。
『フフッ、面白い声ですね』
「あ、すみません」
『いえ、私の影響ですし、全く気になりませんよ』
「……?」
『……あれ、あんまり知られてないんですっけ? 竜の鱗って、生命の心を落ち着けるような作用があるんですよ』
「へえ、そうなんですか」
だから、サントリナも眠っていたのか。
『……リアトリス様。貴方のことは、信用しても大丈夫なんですよね?』
「知らん」
『ええっ!?』
いや、なんで聞いておいて驚くんだよ。
「大体、自分から俺のことは信頼していいぞ! っていう奴の方が胡散臭いと思うんですけどねえ」
『そ、そんなもんなのですか……?』
「そんなもんだ」
『……そう、ですか……』
……でもまあ。
「ただ、カランコエさんを裏切るようなことはするつもりはないんで、そこは安心しておいてください」
『……それならよかったです』
「……。すみません、もう限界なので……」
『ええ、どこで寝られても構いませんよ。ゆっくり休まれてください』
「あ、ありがとう、ございます……」
眠気に耐えられなくなった俺は、満天の星空を見上げながら、深い眠りへと誘われた。




