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1 凪いだ海の底も穏やかとは限らない

アリツィアとトマシュの場合

 ――『よく出来たお嬢様』と言われるのが嫌だった。



 ロウィニア王国スヴェアルト宮殿。


 奥の宮を抜けた場所に密やかに建つ花園の離宮は、最近スキャンダル絡みで宮廷中の話題になっていた。

 曰く、年上の婚約者に飽きた王太子側近たちが若い娘を集めて囲い、宮殿を訪れた彼らの婚約者が乗り込んで修羅場を繰り返している、とか。


 真相を知る少数派、当の王太子と婚約者、彼の側近とその婚約者たちが今まさに花園の離宮に集結していた。


「アグネシカ様、本はめくるもので破るものではありませんよ」

「ベアタ様、パンはそんなに切り刻まなくても食べられますから」

「マジェナ様、お食事に飽きても椅子の下に隠れないで」

「イレナ様、妹君を殴ってはダメですよ」

「ヤドヴィカ様も噛みつき返してはいけません」


 離宮には王太子の幼い異母妹十一人が滞在していた。後宮生まれの彼女たちが事件に巻き込まれるのを避けるための措置だった。王太子と側近たちでは手が足りず、彼らの婚約者たちに協力を要請したのだ。


 何しろ放っておくと遊びたければどこまでも遊び、些細なことで喧嘩を始め、眠くなるとどこでも寝てしまう自由奔放な一団だ。

 王太子たちは時に囲い込み、時に流れ作業で幼女の群れの世話をした。


 おぼつかない足取りで歩いていた王女が転んで泣き出すと、王太子スタニスワフが肩車をしてやった。

「ほら、高いだろゾフィア」


 宰相の息子トマシュ・アシュケナージは婚約者のアリツィアと一緒に王女たちが遊ぶブランコを揺らしていた。


 陸軍元帥の次男、グスタフ・エデルマンは両腕に二人ずつ幼女をぶら下げた状態で懸垂運動もどきをして婚約者のカタジナをハラハラさせている。


 法務省の新鋭アンジェイ・ミクリは婚約者のラウラと一緒にきっちり計量しながら離乳食の準備をした。


 豪商グレツキ商会の三男レフ・グレツキとその婚約者ヴァンダは次々と服を汚す王女たちを商会の新製品に着替えさせていた。


 エプロンを幼女のよだれまみれにさせながら、王太子の婚約者カトレインが彼らに告げた。

「皆さん、お疲れ様。休憩しましょう」


 離宮の一角にテーブルと椅子が用意され、彼女の侍女たちがお茶の準備を終えていた。疲労感を抱えて腰を下ろした彼らは、互いの顔を見合わせて誰からともなく笑い出した。


「本当に大変ですね」

 侯爵令嬢アリツィアが婚約者のトマシュからカップを受け取り呟いた。


「殿下たちだけなんて無理ですよ」

 伯爵令嬢カタジナは呆れ気味だった。


「でも後宮から引き離したのは賢明でしたよ」

 法学院に通う子爵令嬢ラウラが昼寝のため運ばれていく幼女たちを見送りながら言った。


「後宮って怖いところですね」

 レフ・グレツキ同様平民のヴァンダは慣れない宮殿に落ち着かない様子だった。


「皆様のお力を借りるのも、私の家で揃えた信頼の置ける者を派遣するまでですから」

 カトレインが感謝を込めて全員に告げると、彼らは安堵と幾分の寂しさが混じる表情を見せた。


 妹を肩車した際にぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で直す王太子は、不安を隠せない様子だった。

「建国祭で王女として正式なお披露目をするんだが、全員お座りと待てが出来るんだろうか…」

「挨拶はベアタ様までで、お小さい方々は乳母が抱いて顔見せをして、すぐに退場でもよろしいのでは?」

 カトレインが提案すると、彼は頷いた。

「そうだな。とりあえず存在を国民に認めてもらうのが目的だ」


 婚約者の方を向いたスタニスワフは、カトレインがじっと自分を見つめているのに気づいた。何か?と目線で問うと、彼女は微笑んだ。

「そうやって額を出されていると少し大人びた印象になりますね」

「そうか? なら、式典はこうしておく。少しでも威厳が出るなら髭でも何でも着けるぞ」

「無理なさらないで」

 やんわりと王太子の暴走を抑え、カトレインは愛しげに彼の髪に触れた。十年前の婚約以来常に側にいた二人は、まだ新しい発見があるようだった。




 王太子派の人々が花園の離宮を後にするとき、女性陣は一旦控えの間で衣装を整えた。ポニャトフスキ公爵令嬢はエプロンを外しただけで、いつもの地味なドレスをむしろ見せつけるように帰って行った。他の令嬢たちは伺候したときのドレスに着替えた。


「こうして身支度できる場所を作っていただけるのは有り難いですね」

 そう言いながら一人でてきぱきと着替えたヴァンダは育児服を離宮の侍女に渡した。他の三人も同意見だった。


「カトレイン様が私たちのためにわざわざ用意してくださったのですって」

 アリツィアは尊敬する公爵令嬢の心遣いに感心しきりだった。


「建国式を終えたらすぐにご成婚で、お忙しいでしょうに」

 カタジナが日程を計算しながら言った。


「あの状況で殿下と式の打ち合わせが出来るのも合理的とはいえ凄いですね」

 ラウラの言葉に片や幼児を肩車、片やよだれを垂らしながら眠る幼児を抱えての相談風景が浮かび、令嬢たちは笑い合った。




 彼女たちが控えの間から出ると、それぞれの婚約者たちが待っていた。


「送っていくよ、アリツィア」

 トマシュ・アシュケナージがアリツィア・ロジンスカに手を差し出す。


 退出する二人を見送り、カタジナがラウラとヴァンダにこっそりと言った。

「お二人とも控えめで思慮深くて、とてもお似合いですわね」

「あの方たちのお式はいつなのかしら?」

 頷きながらラウラが呟き、それぞれ結婚が具体的になりつつある令嬢たちは話題が尽きなかった。




 ロジンスキ侯爵家に婚約者を送り届けたトマシュは侯爵夫人に挨拶をしたのみで帰宅した。


「相変わらず忙しい人ね」

 母親のぼやきに近い感想に苦笑していたアリツィアは、奥の客間が賑やかなのに気づいた。

「どなたが見えているの?」

「メイエル伯爵夫人とお友達よ」

「ゴーシャおばさまが?」

 母の従姉妹であるメイエル夫人を彼女は苦手にしていた。とはいえ、挨拶をしない訳にはいかない。諦めてアリツィアは母親に続いて客間に入った。


「あら、久しぶりねアリツィア、まあ、ますます綺麗になって」

 大げさな身振りで感動するメイエル夫人にアリツィアは礼儀正しく挨拶した。

「ご無沙汰しております、ゴーシャおばさま」


 侯爵令嬢を値踏みするように眺めていたメイエル夫人の友人たちは、彼女に合格点を与えたようだった。


「よく出来たお嬢様ね」

「女学院でも優秀なのですって?」

「嫁ぎ先は宰相様のお家ですし安泰ね」


 メイエル夫人は乗り出すようにしてアリツィアに質問した。

「今日は王宮に行かれたのですって? 王太子殿下に会われたの?」

「はい、殿下はカトレイン様共々お変わりなく」

「なら後宮のことを聞いてないかしら」


 夫人の友人たちもここぞとばかりに聞き出そうとする。アリツィアは申し訳なさそうに首を振った。

「公表されたこと以外は何も」


 目に見えてがっかりした貴婦人たちは、別方面の話題に興味を移した。

「殿下もようやくご成婚されるのよね。『御一門』とはいえ、あの御令嬢で大丈夫かしら」

「とても楽しそうに式の打ち合わせをしておられました」


 きっぱりと侯爵令嬢が答えると、不敬ぎりぎりの発言に気づいたメイエル夫人が笑って誤魔化そうとした。

「それは良かったわ。正直、婚約時はちょっと不釣り合いに見えたのだけど分からないものね。そうそう、あなたと宰相様の息子さんとの結婚式はいつになるの?」


 いきなり話題を自分に振られ、アリツィアは戸惑いながらも努めて慎重に答えた。

「トマシュ様は王太子殿下のご成婚が無事に終わってゆっくりできるようになってからとお考えのようです」

「…まあ、それって逃げ口上じゃないの。しっかりしないと目移りでもされたらどうするの」


 呆れ気味に、伯爵夫人は有り難くない忠告をしてくれた。愛想笑いをする令嬢に、侯爵夫人が助け船を出した。


「アリツィア、明日はザハリアス公用語の先生が来られるのでしょう?」

「はい、お母様」


 すっと立ち上がると、侯爵令嬢は来客に礼をした。

「それでは、勉強がありますのでこれで失礼します」

「勉強? 女学院は卒業したのに?」

「近隣諸国の公用語の家庭教師を付けているのよ」


 侯爵夫人が従姉妹に説明すると、伯爵夫人は目を丸くした。

「そうなの。そうね、宰相様のお宅なら外交官や公使が私的に訪問されますものね。偉いわアリツィア、学校を出てまで勉強なんて」

「本当に、よく出来たお嬢様ね」

 客人たちが競って褒めそやす中をアリツィアは退出した。


 客間を出てようやく解放された侯爵令嬢は、廊下で誰にも聞こえないように息を吐き出した。


 私室に戻り部屋着に着替え、侍女が出て行くと彼女はふと鏡に映る自身の姿に目をやった。


 ありふれた茶色の髪と瞳。醜くはないが美しいという自覚も持てない平凡な容姿だと、アリツィアの目には映った。

 さきほどの会話を思い出すと気分が落ち込んでいく。


『ますます綺麗になって』


 ――華やかなカテジナ様の方が社交界でずっと人気がおありだわ。


『優秀なのですってね』


 ――ラウラ様は法学院であのミクリ様に引けを取らない成績なのよ


『宰相家なら安泰ね』


 ――グレツキ商会ほどの資産を持つ貴族がどれだけいるかしら。


『学院を出てまでお勉強なんて』


 ――カトレイン様は女学院に通わなくても通訳無しで外国の使節とお話しされているわ。


『逃げ口上じゃないの』


 ――トマシュ様が王太子殿下を最優先されるのはいつものことよ。


 大した意味のない言葉にいちいち過敏な反応をしてしまうのが止められない。


『よく出来たお嬢様ね』


 ――その言葉が一番嫌い。


 無意識に俯いていたアリツィアは、違うと首を振った。

 何より嫌なのは、自信を持てるものが何一つなく、卑屈な思考に囚われる自分自身だ。


 何かから逃げるように、侯爵令嬢はザハリアス帝国公用語の教本を開いた。





 数日後、ロジンスキ侯爵邸にアシュケナージ侯爵家からの使いが訪れた。その用件はアリツィアを驚かせた。


「ウルシュラお祖母様が?」


 それはトマシュの祖母ウルシュラが療養のために王都を離れ保養地に向かうという報告だった。娘にこの件を伝えた侯爵夫人は溜め息交じりに語った。

「ここ数年、気鬱の病で時々家族のことも分からなくなっていたと聞いたけど、いよいよ悪化してしまわれたようね」

「そんな……」


 トマシュと婚約した時から可愛がってくれた老婦人のことを思い出し、アリツィアはいても立ってもいられない気分だった。

「お母様、私、お見舞いに行きます。出発前にお別れをしたいの」

「そう、あちらに伝えておきましょう」


 母親が侍女を呼ぶ間に、アリツィアは訪問用の服に着替えるため私室に戻った。




 久しぶりに訪れたアシュケナージ侯爵邸は、どこか落ち着かない空気が漂っていた。


「よく来てくれたね、アリツィア」


 玄関ホールに迎えに出てきたトマシュが婚約者の頬にキスをすると邸内へと導いた。アリツィアは突然の訪問になったことを詫びた。


「私、お祖母様のご病気のことも知らなくて」

「いいんだよ、親族しか知らないことだったんだ」


 二人が歩く廊下にはアシュケナージ家の先祖の肖像画が並べられていた。その中の一枚にアリツィアは目を留めた。


 トマシュの祖父に当たる先代侯爵イグナツィ・アシュケナージ。ロウィニア–ザハリアス戦役の講和会議に全権大使として出席し講和条約を締結した伝説の人物だ。

 そして、条約の内容に不満を抱いた暴徒に暗殺された悲劇の人でもある。


 突然夫を失ったウルシュラは侯爵家の動揺を抑え、息子が宰相職に上りつめるため助力した賢夫人として知られていた。


 アリツィアやトマシュの世代にとっては既に歴史となった出来事は、この家では未だに生々しい現実だ。それも少しずつ変わりつつあるのだと彼女は実感した。


 奥の部屋に行くにつれて異様な声がするようになった。トマシュの表情が曇る。

「祖母は時々混乱して思ってもいないことを口走るんだ。本心ではないから気にしないで欲しい」

 真剣な言葉にアリツィアは無言で頷いた。


 ウルシュラ夫人の部屋は保養地への引っ越し準備で慌ただしかった。使用人たちが彼女の身の回りの物を整理するのに老婦人が怒鳴り散らしている。

「あなたたち、私の家具をどうするつもりなの? この私を追い出すつもり? コンラトはどこにいるの?」


 立ちすくむアリツィアを庇うように、トマシュが祖母の前に進み出た。

「父上は宮廷に出仕していますよ、お祖母様。アリツィアがお見舞いに来てくれたんです」

「ご無沙汰しております」


 侯爵令嬢はどうにか震えずに挨拶することが出来た。ウルシュラ夫人はやや態度を和らげた。

「久しぶりね、アリツィア。この子とは仲良くしているの?」


 椅子に座っていた彼女が立ち上がろうとするのに、アリツィアは手を貸そうとした。だが、いきなり強い力で払いのけられた。見たことのない形相で、老婦人が怒鳴りつけた。


「触らないで! みんなして私を閉じ込めようとするのは知ってるのよ! あなたは何を盗みに来たの?」


 声も出ない婚約者に代わって、侯爵家の長男が祖母に小さな手帳を渡した。

「お祖父様の部屋にありました。最後まで付けていた日記です」

 古びた手帳を老婦人は震える手で開いた。その筆跡を指で辿り、彼女は涙を溢れさせた。手帳を胸にかき抱き、声を絞り出す。

「あなた……、どうして…、ほんの少しで良いから私のために臆病になってくださらなかったの!」


 泣き続ける祖母を侍女に任せて、トマシュはアリツィアを部屋から連れ出した。

「すまない、驚かせてしまって」

「……いえ」


 会話が途切れたまま、二人は侯爵邸の庭園に出た。瀟洒な屋敷の一角、最も道路に近い区画に異様な箇所があった。


 窓ガラスは破れ、レンガは壊れ、煤けた箇所まである。

 その前に立ち止まり、トマシュが口を開いた。

「葡萄月の暴動の傷跡だよ。ここだけ修理をせずに残しているんだ」

 彼の祖父が締結した講和条約に王都の不満分子が暴発し焼き討ちをした痕跡を、侯爵家は消さなかったのだ。アリツィアは言葉もなかった。


 トマシュは続けた。

「あの日記を読んでみた。祖父がローディンでの講和会議からの帰国予定を隠すことすらしなかった理由が分かった。生きて帰れないことを覚悟していたからだよ。どんな結果になっても戦争を終結させることが全てだと。そのためなら、たとえ命を落としても本望だと」

 無残な焼け跡に彼は手を触れた。

「祖父を襲った男はこの国の人間で、息子が全て戦死していた。馬車の乗り換えで降りてきた祖父を刺殺したとき、『息子の命はあの程度なのか』と叫んでいたと聞いた」


 帝国の南下は阻止したがザハリアス本土を占領できなかったことで賠償金を得られず、講和条件は僻地の半島南半分の割譲のみに留まった。数十万に及ぶ戦死者の遺族にとって、到底納得できるものではなかった。


 この先、トマシュが父親の後を継げば祖父と同様の悲劇に見舞われるかも知れない。

 その可能性はアリツィアを慄然とさせた。こんな未熟な自分が、ウルシュラ夫人のように気丈に家を取り仕切れるだろうか。


 内心の動揺が収まらない彼女の肩に、そっとトマシュが手を置き抱き寄せた。

「祖父にも父にも、今の私は到底及ばない。でも、君と一緒なら目指す場所に行けると思う」

「……え? でも、私なんか…」

「ロジンスキ侯爵夫人が教えてくれたよ。ザハリアスやリーリオニア、主要国の公用語の家庭教師についていること。私のための努力だとうぬぼれて感謝していたんだ」


 彼の言葉がゆっくりと、アリツィアをがんじがらめにしていたものをほどいていった。自分に自信が持てず他人と比較し周囲の目ばかり気にしていたことに頬が火照る思いだった。

「……恥ずかしい…」


 これまでの努力は彼との未来のためだったはずなのに、いつから見失っていたのだろう。顔を上げさえすれば、共に歩いて行こうと手を差し伸べる彼の姿が見えるのに。


 トマシュに向き合い、アリツィアは打ち明けた。

「外国語はまだまだお粗末なんです。でも、諦めずに続けます」

「私もザハリアス公用語は苦手だ」

「本当に?」

 眼鏡越しに優しく微笑み、彼は失敗談を語った。アリツィアも自然に自分のことを話す。

 そうして二人は屋敷に戻っていった。




 花園の離宮は今日も幼女たちの賑やかな声に溢れていた。


 王女たちの着替えを用意しながら、アリツィアはカトレインにウルシュラ夫人のことを報告した。

「色々あったようですけど、保養地で落ち着かれたようです」

 老婦人は夫の日記を片時も離さないのだという。


 それを聞いたカトレインは頷き、記憶を辿る顔をした。

「ウルシュラ夫人のことはお祖父様からお聞きしたことがあるわ。アシュケナージ家に嫁がれたときは風にも耐えぬ深窓のお嬢様だったのに、御夫君を亡くしてからあれほど強くなられるとは思わなかったと」


 アリツィアも同意見だった。いつも穏やかに微笑んでいた老婦人が長年の思いの吐露――臆病者とそしられようと生きて帰ってきて欲しかったという願い――が甦る。だが、次のカトレインの言葉に彼女は唖然とした。


「アリツィア様と似ていらっしゃるわ」

「……私?」


 王太子の婚約者は詳しくは語らず微笑むだけだった。そして、王女たち二人がかりでおんぶ攻撃を受けているスタニスワフを救出に行った。


 ぐずる幼女を一人ずつおんぶする未来の国王夫妻は、グレツキ商会の息子レフ・グレツキから提案を受けた。

「結婚式で使う大聖堂の飾り付けですけど、もう一段階上の花を使うと豪華ですよ。予算の追加は…」


「ない」

「ありません」


 二人揃って即答され、レフは肩をすくめた。

「そうだと思ってました。でも、盛り上げるとこは盛り上げてくださいよ。国中の商人がご成婚特需を当て込んでるんですから」


 彼らを眺めるアリツィアにトマシュが声をかけた。

「疲れたかい?」

「ええ、少し」


 彼は婚約者に申し訳なさそうに言った。

「殿下のご成婚が終わればすぐに私たちの結婚式の準備をしよう。随分待たせてしまったね」

「ええ…」


 どこか唐突な申し出に、喜びながらもアリツィアは戸惑いを見せた。トマシュは王太子の方に目をやった。

「……実は、殿下がああやって楽しそうに式の相談をしておられるのが、少し羨ましかったんだ」


 いつもは怜悧な印象のある彼の目が、照れくささを隠すように泳いでいる。アリツィアは笑いかけた。

「私もです。では覚悟なさって。結婚式のために決めることって、とてもとても多いのですよ」


 彼らは笑い合い、そして着替えを嫌がって逃走する幼女を確保すると一緒に侍女の元へ届けに行った。

トマシュのお爺さんは陸奥宗光と浜口雄幸を足して二で割ったイメージ

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