1 【転生と僕】
第2話です。
お話を作るのって難しいですね。
「うわぁぁぁJesus!!」
飛び起きた先は、一面 真っ白。僕は死んだはずで…。
僕はご丁寧にも、真っ白のベッドに横たわっていた。
「…病院か?」
有り得る。ものすごく有り得る。
僕はすごくデキる男だから、生き残ってしまったのかもしれない。
「まぁ、神様もこんな僕を簡単に殺すわけ──」
「残念だけど、違うよ。」
静寂を搔き消したのは、不思議な声。声がした方へ顔を向けると、ベッドの横に年幅のいかない少年が立っていた。白いターバンを巻いた異国の男の子。
「君は…?」
「…」
少年は異国の風貌をしていながら、僕の方をじっと見つめていた。
「もしや、これは君のおかげか?それはお手数お掛けした、すまない!」
「いいよ。それよりも、僕の事だっけ?」
目の前にいるのは少年……だと思うのだが。
その子から発せられる声音は、低くも高くもない中性的な声だった。踊り子のような服に、小麦色の肌。
プラチナブロンドのサラサラとした髪は、宝石のように光る碧眼によく似合っていた。
こういうファッション……なんて言うのだろう。
頭でも打ったのかな。僕は「Oh、アラビア〜ン……」という感想だけ呟いた。
少年はしばらく僕を無表情で見つめた後、屈託のない笑顔を近づけた。
「僕はアサーヴ。簡単に言うと、神様さ!」
……彼は、厨二病かな????
──
「だからさぁ、僕が神だって言ってるじゃないか!」
呆気に取られて言葉を失ってしまった僕に、彼は何度も何度も説明をしてくれた。ただ、その内容は毎回変わらず、少年が神様ということ、少年が僕を助けてくれた……という事だった。
「……すまない僕は宗教上、唯一神と決められているんだ。君を信じる訳にはいかない」
色んな意味でな。
「…じゃあ、まぁ…神の使いってことなら信じてくれる?」
そんな適当でいいのか……。未だ疑念は晴れないが、それでも少年の瞳が嘘をついているようにも見えないので、一旦受け入れることにする。
「…じゃあ、この状況は?君が僕を介抱してくれたのかい?」
「介抱っていうか、引き止めたって言うか」
引き止めた?話が見えてこないので詳しく問いただせば、少年は僕を止めてあげたのだと言う。
「君、あのままだったらそのまま裁判所へ直行だろう?そのままあっけなく天国行きだ。」
「……は?」
「だから、天国にあっさり行くところだったって。」
少年が布団の上を指さすので、視線を向けると自分の体の異変に気づいた。
「まさか!」
ガバッと布団を捲り、僕は気が遠くなるような気がした。痛みこそないものの、僕のお腹から先は──存在していなかった。
「こんなグロテスクな姿、見たくなかった──」
「ご、ごめん……」
こんな状態で、生きているはずがない。
やはり、あの時僕は死んでいたようなのだ。
一瞬でも、自分が助かったかと思ってしまった。
「あぁ、そんなにあからさまに落ち込まないで!……いや、辛いよね……君は悪くないのにね」
そうだ、僕はトラックに轢かれそうな猫を助けて死んだ。猫を放っておけなかったのだ。
「でも、それは僕の判断と身体能力が劣った故の結果だ」
「でも、他の命を救って、自分は若いのに死んじゃう…なんて悲しすぎるよ!君だってそう思わない?」
僕は何とも言えなかった。
思わないと言えば、嘘になるからだ。
「というか、あの猫……僕の……いや、神の使いなんだ。だから、申し訳なくて──」
助けた猫が特別な存在だったので、そこから不思議なことに巻き込まれていく──それって……
「あ、その……猫の恩●し的な?」
「そう、猫の●返し的な……」
少年は申し訳なさそうに青い瞳を伏せ、やたらと指をモジモジとさせている。
少年はさらにずずいと顔を近づけてきた。
「いわゆる、異世界転生ってやつ!」
「異世界転生」
思わず僕は復唱した。ネット小説でよく見る、あの。
いわゆる、俺TUEEEE、みたいな。そういう類の。
「…!」
「お、初めて食いついたね!」
少年は僕の周りをくるくるとまわり始めた。
「信じてもらえないみたいだけど、僕、割とすごい神様なんだよ?」
「使いだろう?」
そういうのは気にしなくていいの。と少年は悪戯っぽく笑う。
「まだ生まれて間もないから位は高くないだけで。人1人、異世界転生させることくらい、ちょちょーーいのちょーい!って感じなワケ」
また僕の顔に近づける。
キラキラとした瞳が眩しくて目を逸らしてしまう。
「君、本当の素敵な子。君をこんな所で死なせてしまうのはあまりに可哀想で、そして勿体なくもある!」
「…転生、か」
渋い顔を作って見る…が内心僕は すごくワクワクしていた。
実はこの僕、ファンタジーやら、そういう世界にものすごく憧れているのだ。勉強の弊害になるためあまりしなかったが、ゲームだって本当は大好きだった。
ギルドだとか、魔法使いだとか、仲間と戦い、ドラゴンとか倒して、世界に祝福される!
そういうある意味田舎くさい、発展していない世界がすごく憧れでもあった。
「人外!」
そうだ!転生すれば、それこそドワーフだとか、狼人間とかに会えるかもしれない。鍛冶屋の主人は優しいおじさんだったらいいな。ギルドの受付嬢は、みんなに好かれるケモ耳の子なんだ。それで、良き仲間達とドラゴンを狩る…あぁ、親友のような男が欲しい!
熱い男がソウルメイトにいたらどんなに楽しいだろう。
──僕は勇者が好きだった。
勇者というか、ゲームの主人公。
だって、勇者はいつだって天才だから。
そこで、僕はある事に気づいた。
異世界転生のお約束。転生といえば…
「…。なぁ、君の提案って、ただ転生するだけなのか?」
「お、さすが天才くん。目の付け所が違うね」
少年の目が三日月に弧を描く。
「いいよ、色々としたい事があるなら、それ相応の才能をつけてあげる。 もちろん……条件付きだけど。」
やったぞ。僕は分かりやすく口角を上げた。
「それは助かる。それなら、僕はより…天才になれる!」
僕は今度こそ、天才になれるんだ。
それなら本当に総理大臣にも──
否、幼少期に夢見た勇者にだって……
「アサーヴ、だったか。提案ありがとう。君の提案、乗ろうじゃないか!」
「君を引き止めてよかった。見せておくれよ、更なる天才ってやつをさ」
僕は真の天才になるんだ。あの良き緑の世界で。
草いっぱいの匂いと共に、世界の主人公に。
「OK、じゃあ聞かせて。君はどんな才能が、どんなスキルが欲しい?」
「僕は──」
さぁ、始めよう。
人生、リスタートだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「誕生日おめでとう!」
クラッカーの音に驚いて、思わず目を開く。
目の前には笑顔の父、母、そして祖父母。
僕の前には豪華なケーキで、中央に位置するチョコに書かれた文字の意味は、Happy birthday。
正面の鏡には、小さな少年が映っていた。
あぁ、これが僕。瞬間、3年間の色々な記憶がなだれ込み、僕は子供らしく大きな声で泣き始めた。
母は突然慌てながら僕を抱いてあやし、父も必死に変顔で笑わせてくる。祖父は「クラッカーの音が大きすぎたかなぁ」と首をかしげ、祖母は優しく僕の背中を撫でてくれた。
ぐずりながら、母の背中越しにまた鏡を見つめる。
相変わらずでもある、父譲りの真っ黒な髪の毛。
それと対象的に光る、母譲りの三日月色の瞳。
僕、黒部 誠。
いや、今度の名前はルイス・プレストン・エマニュエル。意味は、光を運ぶ者、聖職者の遺産、神は我らと共に。
アサーヴ、僕、3歳にして無事に転生したよ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
おい、まだ終わらないぞ。
ねぇアサーヴ。
すごくありがとう、ありがとう、なんだけどさ。
僕、1つ文句を言っていいかなぁ。
僕ってば、随分と田舎な生活を期待しすぎてた?
だって、だってここ。
見えるのは、ビル、ビル、ビル、ビル。
ここは、高層マンションの最上階。
こういうのって普通、もっと田舎だよね?
異世界って、随分と都会なんだな。
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