11.「ということで、プリンを作りたいと思います!」
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それから三日後――
「ということで、プリンを作りたいと思います!」
制服の上着の代わりにエプロンと三角巾。プリンを作るにはおおよそいらないだろう、フライ返しを持ったセシリアは、腰に手を当てたまま、そう宣った。
場所は寮の中にある学生専用厨房の一角。簡単な手続きをすれば借りられるそこは、利用者が貴族の子息や息女ということもあり、ほとんど使われていないような綺麗さを保っていた。
妙な意気込みを見せるセシリアの前にいるのは、呆れたような表情を浮かべるギルバートとリーン。
先に口を開いたのは、義弟の方だった。
「ちょっとよくわからないんだけど、どうゆうこと?」
「だから! プリンを作って、アインとツヴァイにプレゼントしようと思って!」
当然という顔で答えるセシリアに、彼は眉を寄せながら首をひねる。
そんな要領を得ない彼に、セシリアは人差し指を立てた。
「乙女ゲームで攻略対象の好感度を上げるのには、いくつか方法がるんだけど。代表的なのが、①好感度が上がる選択肢を選び続ける。②相手が好きなものをプレゼントする。の二つなの!」
「だから姉さんは、二人の好物であるプリンを作って、プレゼントしようとしてるってこと?」
「そう! そういうこと!」
セシリアは大きく頷く。
攻略対象たちの基本情報は、ゲームの『人物情報』のページに書いてあった。身長や体重、好きな色や苦手なもの等。そこには事細かにいろんな情報が書いてあったのだが……
「二人がプリン好きって。そんなのよく覚えてたわね……」
普通、『人物情報』なんてそんな頻繁にチェックするようなページではない。ましてや攻略もしてないキャラクターの情報ページなんて、開いてなくてもおかしくないぐらいだ。
リーンの疑問に、セシリアは背後の机に置いていた、とあるノートを二人に見せる。
「実は、これを見たんだ!」
「なにそれ?」
「グレースが作ってくれた、双子攻略ノート!」
「はぁ?」
怪訝な声を出したのはギルバートである。
「そんなのいつから持ってたの!?」
「えっと、お茶会の前の日? 頼み込んだら作ってくれたんだ! 研究発表が近いからって最初は断られてたんだけどね!」
「……そういうのは共有してって、前から言ってるでしょ……」
何度言っても忘れてしまう義姉である。ギルバートは深いため息を吐きながら、顔を覆った。
そんな彼を目の端に入れながら、セシリアはノートをぱらぱらと捲ってみせる。
「でも、これ、基本情報しか載ってないんだよね。好きなものとか嫌いなものとか、その辺の情報だけ」
「は? なんで?」
「なんかね……」
セシリアは顎に指を置きながら、グレースからノートを手渡されたときのことを思い出す。
『このノートに書いてあるのは、基本情報と攻略に関して気をつけるべきところだけです。マキアス家の二人に関して、私からは、もうこれ以上お教えすることは出来ません』
『え、なんで!? 覚えてないとか?』
『もちろん、記憶が鮮明でないということもありますが。それ以上に、二人の秘密を彼らの同意なくセシリアさんに話してしまうことに、良心の呵責がありまして……」
そう言った彼女はどこか迷っているようにも見えた。きっとセシリアに協力したい気持ちと、良心との間で板挟みになっているのだろう。
その話を聞いて、ギルバートはますます眉間に皺を寄せる。
「それで、ノートだけ貰ってノコノコと帰ってきたの? 自分の命がかかってるのかもしれないのに?」
「うん! だって、ルートで明かされる秘密を、私が同意なく勝手に知っちゃったらさ。なんか、二人が可哀想じゃない?」
「それは、まぁ。そうかもしれないけど……」
そうギルバートは頷くが、その顔は理解はしているが納得はしていない、というような表情である。彼がセシリアの立場だったら、もっとちゃんと、良心の呵責なんて関係なく、話を聞いていたに違いない。
「それにしても意外ね。グレースはその辺の配慮、しないと思ってたわ」
「そう?」
意外だというような声を出すリーンに、セシリアは目を瞬かせた。
「えぇ。人の過去を勝手に調べ上げて、取引材料に使うような誰かさんとは大違い!」
リーンがそう言った瞬間、ギルバートと彼女の間に何度目かわからない緊張が走る。睨み付ける義弟に、それを笑顔で受け流す親友。
夏休みでの二人の会話を知らないセシリアは、そんな彼らの雰囲気に疑問符を浮かべるが、すぐに、まぁいいか。と気持ちを切り替えた。最近はいつものことである。
リーンはギルバートから視線を外し、セシリアの方に顔を向けた。
「で。とりあえずアンタは、双子にプレゼントを渡して好感度上げようとしてるってことよね?」
「うん! 前もって料理長さんにプリンの作り方教えて貰ってたんだ! 荷物運ぶの手伝ったら、材料もわけてくれるって話になって!」
「相変わらずの人タラシね」
「たまたま機嫌がよかっただけだと思うよ」
はにかんだような笑みを浮かべるセシリアに、リーンは唇を引き上げた後、ふと何かに気がついたかのように腕を組んだ。
「まぁ、好感度を上げるのに、プレゼントは妥当な方法よね。……で、一番大事なことを聞くんだけど。アンタ、料理出来るようになったの?」
「え?」
「前世の調理実習で班員全員を地獄に送ったアンタが、プリンなんて上等なものを作れるとは思えないんだけど」
ちなみに、地獄に送った後は、万年サラダ役として調理実習ではレタスをちぎるのに従事した前世である。
「大丈夫だよ! 料理長さんはプリン作るの簡単だって言ってたし!」
「私が聞いてるのは、料理の難易度じゃなくて、料理そのものが出来るようになったのかどうかってことよ?」
「簡単らしいから、大丈夫!」
「……出来ないのね」
リーンがそう頬を引きつらせたその時、ギルバートが踵を返した。そして、厨房から出て行こうとする。
そんな彼を引き止めたのはリーンだった。
「ギルバート。まさか、逃げる気?」
「違いますよ。とりあえず、胃薬を貰ってこようと思いまして」
「その前に、義姉の暴挙を止めなさいよ」
「俺が?」
「当たり前じゃない!」
ギルバートはしばらく固まった後、口を開く。
「まぁ、姉さんの命に拘わるようなことなら止めますよ」
「それは、寛容じゃなくて、甘やかしすぎっていうのよ!」
思わず叫んでしまうリーンである。
彼女はなんとかして止めようと、セシリアにかぶりついた。
「そもそも! 億が一うまくいっても、相手は美味しいものに囲まれて育った貴族よ? 下手なもの出すと逆に嫌われるわよ!」
「うん。私もそう思って、実はその対策もちゃんと考えてるんだ」
「対策?」
「アインとツヴァイにあげる前に、ちゃんと美味しく作れてるか皆に味見して貰おうと思って!」
「みんな?」
リーンがそう震える声を出したとき、厨房の入り口が開く。そうして顔を出したのは、見慣れたメンバーたちだった。
「ここでいいのか?」
「うん! なんかセシルが美味しいもの食べさせてくれるんだって! 楽しみだよね!」
ヒューイにジェイド。
「えー。でも、厨房ってのがなんかおかしくない? 俺、超不安なんだけど」
「まぁ、入ってみればわかるだろ。さすがに手料理なんてことはないと思うしな」
ダンテにオスカー。
「みんな、来てくれてありがとうね!」
そして、彼らを笑顔で出迎えるセシリア。
「今日はがんばってプリンを作りたいと思います!」
その言葉を聞いて、入ってきた四人中、二人がすぐさま踵を返した。
更新遅くなってしまい、すみません(T_T)
家族がいるとやっぱり書けないですね;
次の更新は1月4日です!
皆様、良いお年を!