9.ツヴァイとの邂逅2
12月28日にコミカライズの二巻が発売されるよ!
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もう一人の手下は、その暴れ回る袋にナイフの先を当てた。
「ほら、早く出さないと、この袋が真っ赤に染まるぞ」
「や、やめて! ココに手を出さないで!」
「悪魔の子が、偉そうに人に指図するなよっ!」
駆け寄ろうとしたツヴァイの腹をボスが蹴り上げる。その瞬間、彼の小柄な身体はふわりと浮き上がり、その先にあった木にぶつかる。
ツヴァイは小さなうめき声を漏らした後、よろよろと立ち上がる。
「や、やめて、お金はちゃんと持ってきたから!」
ツヴァイは懐から札束を取り出す。貴族のカツアゲだからだろうか、どうにも金額がでかい。
ボスはツヴァイからそのお金をぶんどると、ためらうことなく懐に入れた。
「わるいな。ここ最近、金の使いすぎでさすがに親父に怒られてさ」
「それは持ってっていいから、だから!」
「おい、そのブローチもよこせよ」
「え?」
胸ぐらをつかまれ、胸元を指される。そこには大きな紫色の宝石がついたブローチがあった。売れば、きっといい金額になるだろう。
よほど大事なものなのか、指された瞬間ツヴァイは狼狽えはじめる。
「いいだろ?」
「こ、これは……」
「四の五の言わずよこせよっ!」
(これはさすがに、我慢できない!!)
セシリアは側にあった箒を持って走り出した。そして、走ったままの勢いで、箒をボスに向かってフルスイングする。
「がっ」
鳩尾に箒が決まった瞬間、呻きながらボスが蹲る。
突然の攻撃に手下二人も目を白黒させた。
「おま、なにを――」
さすが喧嘩慣れしているようで、手下その一がすかさず反応する。
彼は手に持ったナイフをセシリアに向かって振り下ろそうとするが、それはギルバートの宝具によってはじき返されてしまう。
「あ!」
何かが弾けるような音と共に宙に舞うナイフ。男の手から離れたそれが落ちてきたのはセシリアの元だった。
彼女はそのナイフを中空でキャッチすると、手下その二の喉元に向ける。
「はい、もうおしまい。今ならこれで許して上げるから、さっき脅し取ったお金とその猫を置いて帰って」
「おま――」
「帰って!」
睨み付けならそう言うと、彼らはびくりと身体を震わせた。そして互いに目を見合わせる。
「お、おい! とりあえず、一旦ずらかるぞ!」
「あ、うん!」
「う……」
案外仲間意識はあるのか、手下二人はボスを担ぎ上げながらそそくさとその場から逃げ帰っていく。
その背中を見守った後、セシリアはふぅっと肩の力を抜いた。それと同時に宝具にも触れ、守りを解除する。
(なんか、予期せぬ出会い方をしてしまった……)
本当なら見過ごす方がよかったのかもしれないが、そうも出来ないのが彼女の性格だ。
(でも、これですごく印象が悪くなるってことはないだろうし、結果オーライかな)
振り返ると、ツヴァイが驚愕に瞳を揺らしている。
セシリアは彼らが投げ捨てていたお金を彼に手渡した。
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとう、ございます。……あ! ココ!!」
ツヴァイは暴れ回る麻袋にかけより、その口を開けた。するとそこから、どこかで見たことのある子猫が飛び出してくる。
「え? あなたは――」
そこには、いつかみた子猫がいた。
アレはまだ『選定の儀』が始まって間もない頃だ。
セシルファンクラブに追われていた彼女は、逃げおおせた中庭で怪我をしたこの子と出くわした。怪我をしたこの子の足にハンカチを巻き付け、そのハンカチが原因でオスカーに『セシリアと会わせろ』と詰め寄られるようになったという痛い過去も同時に思い出す。
「あなた、ココっていうんだ!」
「にゃぁ」
まるでお礼を言うように、子猫はセシリアの足に身体をすり寄せながら、可愛らしく一鳴きした。
「ココのこと、知ってるの?」
「あ、うん。前に一度、会ったことがあって」
「そう、なんだ」
ツヴァイは意外そうな顔で目を瞬かせる。
その表情に、セシリアははっと何かを閃いたような顔つきになった。
(あ、もしかしてこれ、仲良くなるチャンスじゃない!? ココを通じて、ここから話を弾ませれば……)
セシリアの脳内に、お花畑のような未来予想図が浮かぶ。
(セ)『ココ、可愛いよね!』
(ツ)『でしょでしょ? ココ可愛いでしょ?』
(セ)『うん! すっごく可愛い! 大好き!』
(ツ)『君とは話が合いそうだ! 仲良くしよう!』
(セ)『やったー! 俺も仲良くなりたいと思ってたんだ!』
(完ッ璧!)
セシリアは胸元に握りこぶしを作る。
ついでにアインも紹介して貰って、三人で仲良くなれれば、これ以上のことはない。
(目標は、三人でお昼を食べられるようになること!)
それがセシリアの最終的な目標だ。それでトゥルールートに進むための好感度に足りるのかどうかはちょっとわからないが、友人としてはその辺で合格点だろう。
セシリアは笑顔で彼に話しかける。
「あのさ、ココって――」
「うわあぁあぁ!」
彼女がツヴァイに向き合った瞬間、彼は大きくおののいて、再び尻餅をついた。
「へ?」
どうして驚いたかわからないセシリアは目を白黒させながら、彼の視線を追う。するとその先には、セシリアが持ったままにしていたナイフがあった。その切っ先は、ちょうど彼に向いている。
「あ、ごめん!」
そう焦ってナイフを手放そうとした、その時――
「ツヴァイ!!」
「――っ!」
耳を劈くような怒声の後、がっ、と手の甲に石が当たった。その痛みと衝撃で、セシリアは持っていたナイフを落としてしまう。
「いったぁ……」
続いて、蹲ったセシリアの肩に衝撃が走る。
「――く」
蹴られたとわかったのは仰向けに倒れた後、見上げた先にはツヴァイと同じ顔があった。しかし、その編み込みや前髪の分け目はツヴァイと左右対称で……
「え? ア、イン?」
「お前、ツヴァイになにをした!」
「へ?」
アインから放たれた言葉に、セシリアの頬は引きつる。
そうして、先ほどまでの自分の行動を反芻した。
(もしかして、私、勘違いされてる?)
確かにあの『ナイフを持ったセシリアと、おびえたツヴァイ』の絵を見れば、彼女が彼を脅しているように見えただろう。それこそ、さっき逃げていった三人組のように……
しかも、側には先ほどセシリアが返そうとした大金が置いてある。これは結構なダメ押しだ。
「えっと……」
頬に汗が滑る。こういう場合、加害者だと思われている人間がどれだけ言葉を重ねようがあまり意味はない。全て言い訳に聞こえるからだ。それでもどうにか勘違いを撤回できないかと言葉を探していると、ツヴァイがアインに追いすがった。
「ア、アイン! 違うんだ、この人は――」
「ツヴァイも! こんなひょろい奴にやられてどうするんだ! あと、呼び出されたら俺にも言えって言っただろ!」
頭に血が上っているのか、ツヴァイの言葉はアインの耳に届かない。
アインはツヴァイの腕をむんずと捕まえると、側にあった金を懐にしまう。そうしてセシリアに背を向けた。
「次にこんなことしたら、ただじゃおかないからな!」
「あ、はい……」
「行くぞツヴァイ! ココも!」
アインに呼ばれて、ココは「にゃぁん!」と元気に返事をする。
そうして二人と一匹は仰向けになったセシリアを置いて、その場からいなくなってしまった。
流れる雲を見上げながら、セシリアはひとり息を吐く。
「なんで、こうなるかな……」
とりあえず、蹴られた肩が痛かった。
好感度を上げようとした時は、なかなか上がらないセシリア。




