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8.ツヴァイとの邂逅1

遅くなってしまい申し訳ございません!

またまた長く書いちゃったので二つに分けてます!

明日の7時に更新予定です。


「オスカーの申し出、断ってしまった……」


 オスカーとダンテから離れたセシリアは、憂鬱な気分のまま会場内を歩いていた。セシリアが猛ダッシュしたためか、側にはリーンもいない。きっと途中で一緒に振りきってきてしまったのだろう。これはおそらく、後々怒られるやつである。


「はぁ……」


 知らず知らずのうちにため息が漏れて、背中が丸まった。


(オスカー、絶対変に思ったよね……)


 一週間前のこともあったのでさっきは逃げてきてしまったが、よく考えれば先ほどのオスカーの疑問はもっともだ。『人を紹介して欲しい』と言われたら、そりゃ誰だって『どうして?』と思うに違いない。

 先ほどのはひとえに、危機感が過ぎて、過剰に反応してしまったセシリアの自爆である。


(今のオスカーは、ゲームのオスカーと違うのに……)


 セシリアを側から排除したいと考えている、リーンに一途なゲームのメインヒーロー。

 そんな彼は今どこにもいないのに、頭と身体が勝手に危機感を覚えてしまっている。なにもしていないのに怯えているだなんて、こんなの彼にも失礼だ。


「今のオスカーは、セシリアのことも嫌いじゃないし、セシルのことも好きなんだから……って――っ」


 そう吐いた瞬間、顔がかっと熱くなる。蘇ってくるのは、一ヶ月ほど前の保健室での一場面だ。


『俺が好きなのは、お前に決まっているだろうが!』


 あの乱暴な告白の後、彼はそれまで通りに友人としてセシリアに接してくれている。なんと答えればいいのかわからないセシリアにしてみれば、それはありがたいことなのだが、このまま彼の優しさに甘えてしまってばかりいるのもどうなのだろうか。

 それに彼が告白したのはセシリアではなく、存在もしない偽りの姿であるセシルだ。これがまたややこしい。


(それならまだ、私自身に告白してくれた方がわかりやすいのに……)


 だからといって、いざ告白されたらどうしていいのかわからなくなるのは今と一緒なのだが……

 セシリアは頭を抱える。


(オスカーのことは好きだけど、そういう『好き』なのかって言われたらよくわかんないし! そもそも、今はそれどころじゃないっていうか――って、……ん?)


 そこで、セシリアの思考ははたと止まる。


(というか、破棄される気満々でいたから実感なかったけど。もしかして私、このままいくとオスカーと結婚する感じになるのでは……?)

「……え?」


 ようやく思い至ったその事実に、間抜けな音が口から漏れた。


「オスカーと結婚……? 私が?」


 口に出して、身に染みる。そうして、頭がぐるぐると混乱し出す。


(え? え? え? そっか、嫌われてないってことは婚約破棄されることはないってことで。いやでも、オスカーが好きなのはセシルで! いや、でもでも! セシルはセシリア()だから……)


 あまりの事態に目眩がした。それと同時に足下もおろそかになる。


「――わっ!」


 ふらりとよろけた足は何かに躓き、身体は前のめりになる。

 危うく顔面から転けそうになった彼女を支えてくれたのは、何者かの腕だった。


「大丈夫ですか?」

「え? ……あ、はい」


 みぞおちに回った腕に、セシリアは顔を上げる。そして、そこにいた人物に彼女は大きく目を見開いた。

 セシリアと同じぐらいの、男性としては小柄な身長に、伏し目がちな顔。大きな緑色の瞳を飾るのは女性と見まごうばかりの長い睫毛。明るい赤茶色の髪の毛は左側が編み込まれており、全体的に儚い印象が彼を包んでいる。


(ツヴァイ!?)


 思わずあげそうになった声をすぐさま引っ込める。

 彼はセシリアの無事を確かめると「気をつけてくださいね」と声をかけ、その場を去って行った。


(み、みつけた!)


 双子の片割れであるアインはいなかったが、これは大きな収穫だ。

 彼女はツヴァイに気づかれないように、そっと彼の後をつけるのだった。


 ツヴァイがたどり着いたのは校舎の裏だった。辺りには人影はおらず、彼は一人、誰かを待つように突っ立っている。

 セシリアはそんな彼のことを、校舎の陰からじっと見守っていた。


(こんなところで何してるんだろ。……というか、暇なら話しかけたいんだけど、ここじゃさすがに不審がられるかな?)


 さっき助けて貰っておいての今。しかもこんな人が立ち入らないところで話しかけるのは明らかに不自然だろう。ともすれば、ついてきたとも思われかねない。そうなればセシリアは一気に「不審者」として彼に認知されてしまい、好感度を上げるどころの騒ぎではなくなってしまうだろう。


(とりあえず、ここを離れてからかな。もう少し人通りが多いところで……)


「いるんでしょ? 出てきてよ」


 背中を向けられたまま放たれた言葉に、身体がびくついた。隠れているのが見つかったのだろうかと、身体が固くなる。


(こ、こうなったらちゃんと出て、自己紹介した方がいいわよね!)


 覚悟を決めたセシリアは大きく深呼吸し、身体を校舎の陰から出そうとした。

 その時だ――


「ちゃんと約束のものは持ってきたんだろうな」


 前方から聞こえてきた声に、セシリアは出そうとしていた身体を引っ込めた。

 見つからないように様子をうかがうと、ツヴァイの正面に、大柄のいかにも『成金の息子です!』という感じの男子生徒がいた。その後ろには、腕っ節とプライドだけは強そうな男子生徒と、悪巧みの時にだけ輝きそうな男子生徒がいる。

 見た感じ、アインとツヴァイと同じ一年生のようだ。しかし、どうも友達という風には見えない。


(ボスと、手下その一、その二、って感じね)


 不穏な空気にセシリアの眉間にも皺が寄る。

 ツヴァイは、そんな彼らに一歩歩み寄った。


「も、持ってきたよ!」

「それならさっさと出せよ! そうじゃなきゃ、コイツ、殺しちまうぞ!」


 手下の一人が、背中から大きな麻袋を取り出す。中で何かが暴れ回っているのか、その袋はボコボコと形を変えていた。


「ココ!」

「にゃぁ」


 ツヴァイの呼びかけに応えるように、小さく猫の鳴き声がする。きっとあの中には猫がはいっているのだろう。


(酷い……)


 それを見ていたセシリアも、思わず下唇を噛みしめる。


12月28日にコミカライズ2巻に発売します!

小説書籍共々、どうぞよろしくお願いします!

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