【サイン本プレゼント企画 書き下ろし読み切り】『真夜中の侵入者』
Twitterとブログの方でやっていた、サイン本企画書き下ろしSSです。
今までTwitterの方でフォロワー限定公開にしておりましたが、日にちが経ってきましたのでこちらでも公開いたします。
どうぞよろしくお願いします。
その侵入者は、開け放っていた窓からやってきた。
「ん?」
寮の自室で、実家にいる侍女に手紙を書いていたセシリアは、わずかに感じた気配に顔を上げる。そして、窓から入ってきたヤツを見つけた。
侵入者もセシリアの方を見る。
「……」
「……」
互いに固まったまま三秒。先に動いたのはセシリアの方だった。
「きゃあああぁぁぁあぁ!!」
セシリアは飛び上がり、扉の方へ逃げる。その声にびっくりしたのか、侵入者もカサカサと音を立てながら物陰に隠れてしまった。
「セシル! 凄い声したけど、大丈夫!?」
「ギ、ギルー」
一番に駆けつけたのは、ギルバートだった。彼は扉の側で腰を抜かす彼女に駆け寄る。
「どうかしたのか!?」
次いで飛び込んできたのはオスカーだ。その後ろから、彼女の叫び声を聞きつけた寮生がわらわらと野次馬のように部屋を覗きに来る。
セシリアは身体を支えてくれたギルバートに、震える声を出す。
「ま、窓から……」
「窓から? 窓から誰か入ってきたの!?」
頷く彼女に二人は険しい顔で部屋を見渡した。
セシリアは青い顔で続ける。
「ゴ、ゴキ●リが……」
「は?」
「ん?」
「窓からゴ●ブリが入ってきたの!!」
大きな瞳に涙を溜めながら、セシリアは二人にそう訴えた。
「そういえば、今日旧校舎の物置が取り壊されたって話を聞いたけど」
セシリアから話を聞いたギルバートは、腕を組んだまま拍子抜けしたような声を出した。
オスカーも幾分か緊張が和らいだ顔で部屋を見渡す。
「そこから来たのか」
「おそらくは」
「う、うぅ……」
セシリアだけが涙目のまま、ギルバートの背に縋り付いていた。
彼女の叫び声を聞いて集まってきた寮生はもうギルバートとオスカーの手によって帰らされており、その場には三人しかいない。
「ま。入ってきたのが虫でよかった」
「よ、よくない! ゴ、ゴキ●リって一匹いたら三十匹いるって言うし!」
「さっき窓から入ってきたんでしょ? さすがにそれはないと思うよ?」
「そうだな。この部屋に住み着いているというより、住処を追われてここまで逃げてきたという感じだろうしな」
「ふ、二人とも人ごとだと思って!」
よほど怖かったのか、セシリアはカタカタと震えてしまっている。
「きょ、今日は、ギルの部屋泊まる!」
「ダメ」
「即答!?」
まさか断られると思っていなかったのだろう、セシリアはひっくり返った声を上げる。
「な、なんで!? 俺、ソファーでいいから!」
「ダメなものはダメ」
「そ、そんなぁー……」
取り付く島もないギルバートの声に、セシリアは泣きそうな表情を浮かべる。
そんな彼女の様子を見て、オスカーは一度咳払いをした。その頬は少し赤い。
「セシル。変な意味は全くないんだが、そんなに怖いなら俺の部屋にぃ――っ!」
そこまで言いかけて、オスカーは飛び上がった。見れば、オスカーの足をギルバートが踏んづけている。
「ギルバート!? お前――!?」
「すみません。ちょうど踏みやすいところに足があったので……」
「お前、時代が時代なら不敬罪だぞ!?」
「殿下が寛大な心を持っておられてよかったです」
飄々とそう言ってのけるギルバートに、オスカーは青筋を立てる。
ギルバートはそんなオスカーから視線を外し、自分の背にくっついてるセシリアを引き剥がした。
「とりあえず、入ってたのは一匹だったんでしょ? 退治をしたら大丈夫だと思うから、どこかに泊るとか考えなくていいと思うよ」
「ほんと?」
「多分ね」
その言葉にセシリアは安心したようだった。
「ギル、退治できる?」
「それは……」
ギルバートは言いよどむ。そして、晴れやかな笑みを浮かべた。
「それはきっと殿下がやってくれるんじゃないかな。ですよね、殿下」
「おま! 俺だって、ああいうのは苦手なん――」
オスカーがそう叫ぶのと同時に、三人の足下に黒い影が出現する。
セシリアはそれを見て、再び叫び声をあげた。
「ぎゃああぁぁあぁ!?」
それと同時に、彼女はたたらを踏む 。それに驚いたのか、ゴキブ●はあろうことか羽を広げた。そしてそのまま、三人の顔の前まで飛んでくる。
「――っ!」
三人が同時に息を呑んだその時――
「うるさいな……」
聞き慣れた声がして、 目の前を何かが横切った。
「え!?」
見れば足元に、ヒューイがしゃがんでいた。 その手には丸めた雑誌のようなもの。その下では、●キブリが死に絶えていた。
「ったく、なにやってるんだ。お前ら」
ため息をつきながら、彼はゴ●ブリの死骸を紙でくるみ、立ち上がった。
その後ろには、口をへの字に曲げるダンテの姿もある。
「あぁもう、なんですぐに殺しちゃうかなぁ。もっと三人が怖がるところ見たかったのにー」
「いやだって、こいつらさっきから五月蠅いし……」
どうやら二人とも気配を消して背後に立っていたらしい。
ヒューイは死骸を包んだ紙を持って立ち上がる。
「んじゃ、オレはこれで……」
「あーあ、面白くなくなったー。俺もかえろーっと」
ヒューイとダンテはそのまま部屋を後にする。
「お、男らしい……!」
二人を見送るセシリアの顔に、美味しいところを持っていかれたオスカーとギルバートは頭を抱えるのであった。
小説二巻&コミカライズ一巻、発売中でございます。
これからもセシリアたちのドタバタラブコメを書いていきたいので、
皆様なにとぞ応援よろしくお願いいたします!
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