【コミカライズ連載開始記念】ダンテから見たトライアングル
コミカライズの連載開始記念に書きましたー!
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ぜひ見てみてくださいね!
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_FL00201645010000_68/
俺の名前は、ダンテ・ハンプトン。
ハンプトン家の三男……なんて名乗っているが
……まぁ嘘である。
本当は天涯孤独の身の上だし、名前だって便宜上『ダンテ』と名乗っているだけで、親にそう名付けられたというわけではない。奇抜なこの髪の毛も実は染めているし、性格だって実際はこんなに明るくない上に、演じている部分が多い。
そんな嘘の塊みたいなこの俺を、嘘の塊だとわかった上で、奇特にも側に置いているのが、隣を歩くこの男。オスカー・アベル・プロスペレなのである。
名前でもわかるように、彼はこの国の王子様だ。
「そういえばさ。オスカーは明日学院どうするの? 朝から出席?」
放課後、寮に帰る道すがらそう聞くのは、もう俺の日課である。この忙しい王子様は、毎日学院に通ったりなど出来ないのだ。
「明日は、午後から出席予定だ。午前は少し騎士団のことで話し合いがあってな」
「午後からかぁ。なら俺も、午前はサボろうかなぁ」
「……お前はちゃんと行け」
「えぇー。面倒くさい」
「面倒くさいって、お前な……」
オスカーは呆れたような顔でため息をつく。
この俺が自分を殺しに来た暗殺者だったという過去を知った上で、そういう顔が出来るのだから、本当に彼は不思議な男である。
そんな懐の深い……というか、ちょっと深すぎて心配になるレベルのこの次期国王様だが、実は最近、恋をしている。
「あ、オスカー! ちょうどよかった!」
相手は、たった今後ろで彼を呼び止めた男、学院の王子様こと、セシル・アドミナだ。
彼は何を隠そう、由緒正しいシルビィ家のご令嬢、セシリア・シルビィの仮の姿である。そう、理由はいまいちわからないが、彼女はこの学園に仮の身分と別の性別を持って、通っているのだ。さらに付け足す情報としては、彼女はオスカーの婚約者なのである。
セシルはオスカーに近づくと、彼の腕をとった。その瞬間、彼の頬がにわかに染まる。
「腕の調子はどう? 傷が痛んだりとか、膿んだりとかしてない?」
「またその話か。大丈夫だと、何度言ったらわかるんだ」
「でも、心配だからさ。この傷、そもそも俺のせいだし……」
「お前のせいじゃない。あまり気にしてくれるな。お前にそんな顔をさせたくて庇ったわけじゃないんだ」
「……オスカー」
(ホント、わっかりやすいやつだよなぁ)
頬を染めるオスカーを見ながらそんな感想が浮かぶ。
彼女を見下ろす彼の目は、デロデロに甘い。本人は気持ちを隠しているつもりなのかもしれないが、全く隠しきれていない。どちらかと言えば、赤裸々だ。
一見、良い感じに見えるこの二人だが、実は全く、少しも、良い感じではない。そもそも、セシルは自分の男装がオスカーにバレているとは露程も思っていないのだ。こんなわかりやすい変装もなかなかないのにもかかわらず……
(オスカーは……多分気づいてるんだよな。んで、あの感じは、もう気持ちも伝えてる……と)
けれど、彼女はその告白を『セシル』にしたものだと思い込んでいる。
男装がバレていないと思っているが故に……
(ま、この二人が良い感じになれない一番の原因は、そこじゃないけどなー)
頭の中に一人の顔が浮かぶ。生意気で、からかいがいのある、可愛い後輩だ。
(そろそろ、来る頃か……)
「セシル」
そう思った瞬間、彼女を呼ぶ声が聞こえた。声のした方に視線を向けると、案の定、彼が立っている。
「ギル!」
「今日は一緒に課題をやるんでしょ? 早く帰らないと時間が取れないよ」
優しげな声と顔でそう言うのは、セシリアの義弟であるギルバート・シルビィだ。
(まぁ、アイツは少しもセシルのことを『姉』だと思ってないんだろうけどな……)
その笑みの裏にどす黒いオーラが見えるのは俺だけではないだろう。その証拠に、オスカーの頬も引きつっている。
セシルはまるでよく調教された子犬のように、ギルバートの方へ走っていく。彼女が隣に立つと、ギルバートはまるで勝ち誇ったような笑みをオスカーに向けた。
「では、殿下もお気をつけて」
「あぁ……」
唸るようにオスカーがそう答えると、彼は満足そうに頷いた。
おそらくアレが、オスカーにとって乗り越えなくてはならない一番の壁だろう。
(ま、逆もまた然り……か)
セシリアがオスカーの婚約者である以上、どれだけ信頼関係を築けていてもそれが恋愛関係でないのなら、ギルバートにとってオスカーが一番の壁である。
「まったく、ややこしいなぁ……」
思わずそう呟いたその時――
「あ、そうだ! ダンテ!」
「へ?」
ギルバートの側にいたセシルが突然駆け寄ってきた。そして、鞄の中を探った後、小さな紙袋を差し出してくる。
「これ!」
「なに? ……髪留め?」
袋の中にはシンプルな髪留めが入っていた。スリーピンという金属で出来たものだ。
「うん! エミリーさんの件のお礼。ダンテ、俯いてるとき前髪邪魔そうだったから!」
(これで、女だって隠そうとしてるのがなぁ)
髪留めなんて、完全に女の子から女の子への、プレゼントのチョイスである。確かに、たまに前髪が邪魔になることはあったし、シンプルなので使いやすそうだが、普通男は男同士でこんなものプレゼントしないものだろう。
「ダンテ、屈んで」
言われるがままに屈むと、セシルは前髪に触れてくる。長いまつげに彩られたサファイアの瞳が目の前でキラキラと揺れる。
そうして、ぱちんと俺の前髪を留めた。
「うん! やっぱり、よく似合うと思ったんだ! ダンテの目って綺麗だからさ、同じ色にしてみたんだよ!」
緑と青を足したような髪の毛に明るい赤のピン。窓ガラスに映った自分を見て、ふっと笑みがこぼれた。
「セシルって、タラシだよなぁ」
「たわし?」
「なんでもない」
首をかしげた彼女の頭をかき混ぜると、隣と正面から睨まれた。
(おーこわい、こわい)
そんな目で見なくても俺はライバルにはならないのに、どうにもこの二人には余裕がないらしい。
そんな二人の顔を見ていると、いたずら心がムクムクと盛り上がってくる。これは俺の悪い癖だ。しかし、直す気もない癖でもある。
「なぁ、セシル。セシルって誰と一緒にいるのが一番楽しいんだ?」
その質問をした瞬間、二人の目がぎょっと見開いた。その顔に肩が揺れる。
「一番?」
「そ、一番」
固まったまま動かない二人に、熟考するセシル。
数分間の後、彼女は顔の正面でぽんと手を打った。
「それは、リーンかな!」
その瞬間、がっかりしたのか、安心したのか、二人の肩が同時に下がる。その様子を見て、俺は肩を揺らすのだった。
そして、コミックス1巻は8月刊行予定です!
素敵な漫画に仕上がっていますので、予約してくだされば、本当に嬉しいです!
よろしくお願いします!
ついでにポイントとブクマもよろしくお願いします(*^^*)