1.「君はなにか知っていますか?」
※大注意
タイトル通り、ギルバートルートになります。
オスカールートに関してはこちらの連載が終わった後に連載開始します!
時系列的には、三部のあとになります。
なので四部や五部の話は忘れてお楽しみください。
週一で更新いたします。
次の更新:2025年2月28日
ヴルーヘル学院には『王子様』がいる。
まるで黄金の蜂蜜を垂らしたかのような、輝くハニーブロンド。
大海の青を閉じ込めたような、サファイアの瞳。
すらりと伸びた四肢はしなやかで気品が漂っており、
まるで咲き誇る花のような微笑みは、国を傾かせるほどだと囁かれている。
「ギル! お昼ご飯食べよー!」
そんな『王子様』の笑みは、今日も今日とて、彼に一番多く向けられていた。
「セシル、走ると危ないよ」
「そんなこと――って。わわっ!」
「――っ。……もう、だから言ったでしょう?」
ギルバートに支えられ、苦笑いを浮かべる『王子様』の名前は、セシル・アドミナ。
そんな二人が義姉弟だということを、学院のほとんどの生徒たちはまだ知らない。
そして――
「そう言えば、ギル、少しの間実家に帰るんでしょう?」
「うん。降神祭の報告も兼ねて、少しだけね」
「それなら――」
「わかってるよ。ベッキーのスコーンでしょ? お土産に持って帰ってくるよ」
「やったぁ! 楽しみにしてるね!」
『王子様』自身も、この日常が数日後に壊れてしまうことを知るよしもなかった。
..◆◇◆
「で、他に何を持って行くと良いと思う?」
その会話はいつもの空き教室でなされていた。誰もいない教室の隅っこの机で、セシリアは手元にある紙にペンを走らせている。彼女の隣にいるのは親友であるリーンで、彼女はセシリアの前に広げられた紙をのぞき込んでいた。
様々なハプニングのあった降神祭を終え、神子から神殿に誘われたのは、二週間前。
二人は一週間後の神殿に向かう日に向けて、持って行くものをチェックしていた。
「トルシュはここより寒いらしいから、防寒着は必要でしょ? それと、日数分の服と……制服って向こうで着るかな?」
「着るんじゃない? 謁見時は服を揃えた方が良いって話になるかもしれないしね。他に揃いの服があるならそれを着ることもあるでしょうけど、今回は急だから用意も出来ないし」
「そうだよね。それに、今回はヒューイやギルも行くし、騎士服や神子服で揃えるわけにはいかないからね」
神殿があるトルシュは、神子をトップに据えた都市国家でカリターデ教の総本山だ。
土地自体も小さく、国民として認められているのは、基本的に聖職者のみ。敬虔な信者たちの巡礼や礼拝を毎日受け入れている関係上、国境らしい国境もない国のため、実質はプロスペレ王国内にある一つの都市として扱われていた。
今回は、その国のトップである神子が、カリターデ教の行事である降神祭の混乱を鎮めた功績を称え、一言感謝を伝えたいと彼らを呼び出したのだった。
「でも、みんなで行きたかったなぁ。ツヴァイとアインも来ればいいのにねー」
「アインはともかく、ツヴァイの方はまだ罪の意識があるんでしょうね。モードレッド先生も妹さんを一人にしておけないって、今回は行かないみたいだし。まぁ、仕方がないんじゃない?」
「まぁ、そうだよね。でも、やっぱり寂しいなぁー」
セシリアはメモにペンを走らせながら、溜息をつく。
リーンはそんな彼女を見つつ、頬杖をついた。
「なんかアンタ、やけに楽しそうよね。トゥルールートが開いたのがそんなに嬉しいの?」
「それもあるんだけどさ。なんか修学旅行みたいで楽しみで! こうやってみんなで旅行するの、何気にはじめてだからさー」
「なに言ってるの。旅行なら夏休みがあったじゃない」
「あれはさ、ほら、セシリア(あっち)の姿だったからさ。セシルとして仲良くても、セシリアとしてはみんなと初対面なわけだし。あまりにも突然すぎて、楽しむどころの騒ぎじゃなかったしね」
そう言いつつリーンの方を見ると、彼女は「その件は何度も謝ったじゃない」と唇を尖らせる。セシリアとしては責めたつもりはないのだが、リーンはどうやらそういう風には取らなかったようだ。
セシリアはそんなリーンに苦笑いを浮かべつつ、手元にあった紙を掲げる。
「こんなもんかなー。少し買い足しておかないといけないものがあるけど、この辺の確認はギルが帰ってきてからかな」
「アンタって、本当にギルバードに頼りっきりよね」
呆れたようにリーンにそう言われ、セシリアは狼狽えた。
「そ、そうかな?」
「誰がどう見たってそうでしょ。……いつまでも甘えられるわけじゃないんだから、もう少しちゃんと義弟離れしときなさいよ」
軽い調子で放たれたその忠告に、セシリアは「え!?」と目を瞬かせる。
「何よ、その『今まで考えたことありませんでした』って顔」
「いや。だって――」
「当然でしょう? アンタには婚約者がいるし、たとえ義理だとしてもアンタたちは姉弟なんだから。いつかは別々の道を歩くに決まってるじゃない」
「それは……」
それは確かにそうだ。リーンの言っていることは何も間違ってはいない。
このまま行けばセシリアはオスカーと結婚して、ギルバートがシルビィ家を継ぐ。今は婚約者の『こ』の字も見当たらないギルバートだが、彼だっていつか相手を見つけて、家のために、己のために、見知らぬ誰かと結婚するのだ。
もちろん、結婚したって二人が姉弟である事は変わらない。でもそれは今までのように一緒にいる理由にはならない。二人はいずれ『姉弟であっただけ』の関係になってしまうのだ。
(そんなこと、言われなくてもわかっているつもりだったけど……)
こうして突きつけられると、いかに自分がそのことを『自分の事』として考えてなかったがわかる。
わずかに視線を下げたセシリアに気がついているのかいないのか、リーンはさらに続けた。
「まぁ、アンタがギルバートを選ぶっていうなら、私も一応――」
「失礼しますよ」
リーンの言葉を遮るようにその言葉は放たれた。声のした方を見ると、モードレッドがいる。彼は教室の扉を持ったままの状態で、部屋の隅にいる二人に視線を向けていた。
「あぁ、やはりここにいましたか」
「モードレッド先生、どうかしましたか?」
「少しセシル君に聞きたいことがありまして。いま、よろしいですか?」
そう確認されて、二人は目を見合わせた。
「聞きたいこと、ですか? 俺は大丈夫ですが……」
「それなら少し場所を移しましょう。保健室に来てもらえますか?」
セシリアは確認するようにリーンを見る。すると彼女は、いつもどおりの猫を被った声を出す。
「セシル様は行ってきてくださいませ。私はここで待っていますから」
そんな彼女に礼を述べ、セシリアはモードレッドと共に保健室に向かうのだった。
モードレッドとセシリアは保健室にある向かい合ったソファに座っていた。
二人の間にはローテーブルがあり、その奥の彼はどこか居心地が悪そうに視線を彷徨わせている。
セシリアは話を切り出そうとはしないモードレッドに身を乗り出した。
「それで、聞きたかったことってなんでしょうか?」
「……実はギルバート君のことなんですが」
「ギルの?」
こんなところに呼び出されたのだから、てっきり何か注意でもされるのだと思っていたセシリアは、その思ってもみなかった話の方向に目を瞬かせた。
驚くセシリアに、モードレッドは一瞬躊躇った後にこう切り出してきた。
「ギルバート君の長期休学について、君はなにか知っていますか?」
その瞬間、セシリアはわずかに息を呑んだ。
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